2026/10/25

行き過ぎた成果主義と企業不祥事

 営業社員による顧客からの金銭詐取など、多数の不適切行為があったとして、プルデンシャル生命保険に金融庁から業務停止命令が下った。同社の社外特別調査委員会は、営業成績を過度に重視する企業風土と管理・監督体制の脆弱さなどの複合的・構造的な問題を指摘している。

 要因の1つが、フルコミッションと呼ばれる営業実績に完全に連動する報酬制度である。成果を上げれば高額の報酬を得られる一方、収入は不安定になりやすい。金融庁は、この制度が金銭への執着が強い営業社員の流入を招いたことや、成績優秀者を特別に重んじる表彰制度が、コンプライアンスより営業を優先する企業風土を助長したことを指摘している。

 過度の成果主義が不祥事の一因となった例は、過去にも多くある。

 2019年に発覚した、かんぽ生命の保険不適正募集もその一例だ。営業社員が新規契約を獲得するために、顧客に不利益となる保険契約の乗換などを行っていた。金融庁は問題の背景として、過大な営業目標に加え、新規契約を過度に重視した営業手当の支給体系を指摘している。さらに、営業成績優秀者を人事上優遇する一方、目標未達者に対しては懲罰的な研修や厳しい叱責が行われていた。こうした営業手当や人事評価の仕組みが、不適正な募集行為を助長する要因となっていた。

 2018年のスルガ銀行の不正融資問題も同様である。シェアハウス向け融資などで、顧客の預金残高や年収を示す資料の改ざん・偽造が横行した。第三者委員会の調査報告書によると、営業担当者の人事評価では、半年間の営業目標の達成度が最大7割を占める仕組みとなっていた。一方、コンプライアンスや顧客満足度の評価比重は極めて低かった。しかも、融資実行後に延滞や回収不能が発生しても、担当者の人事評価には反映されなかった。短期的な融資実績を過度に評価し、融資の質や長期的な結果を軽視した制度が、不正を誘発する土壌となった。

 中古車販売大手ビッグモーターでも、2023年に自動車保険金の不正請求問題が表面化した。国土交通省は問題の背景として、利益追求の企業風土に根差した業績目標と給与体系、頻繁な降格人事、監査機能の形骸化などを指摘した。過大な利益目標と処遇上の圧力が、現場の不正を招く要因となった。

 成果主義には、貢献に応じて報い、社員の意欲を高めるという利点がある。一方で、行き過ぎた成果主義は、組織や社員にさまざまな負の影響を及ぼす。

 1つ目が、短期志向の強まりである。目先の数字を積み上げることが優先され、法令順守、品質確保、人材育成、顧客との長期的な信頼関係構築など、すぐには実績に表れない活動が後回しにされる。

 2つ目に、過当競争と協力関係の弱体化である。個人の順位や報酬格差が極端に強調されると、同僚への支援やノウハウの共有は「自分の損」と受け止められ、組織全体の生産性を損なう。

 そして3つ目に、異論や悪い情報が上がらなくなることである。目標未達が厳しい叱責や処遇低下に結び付く職場では、社員は問題を隠し、数字を取り繕う誘因を持つ。また、成績優秀者が特別扱いされれば、管理職も不適切な行動を注意しにくくなる。こうした状況は、社員の疲弊や離職にもつながる。

 それでは、企業が行き過ぎた成果主義に陥らないためには、何が求められるだろうか。

 まずは、成果の再定義である。売上や利益だけでなく、顧客満足、品質、安全、法令順守、チームへの貢献なども成果として評価に組み込む。特に、不正防止や安全確保は、高い実績でも相殺できない評価上の必須条件とすべきである。ある企業では、どのような高業績を上げたとしても、コンプライアンス違反を犯した場合は最低評価とする仕組みを設けている。

 次に、報酬と業績の関係の再確認である。業績インセンティブの比率が高すぎないか、短期の数字だけで決まっていないか、目標は現場の人員や業務量に照らして妥当かを検証する。個人業績だけでなく、チーム業績も反映させたい。目標未達であっても、プロセスを評価し、報酬に反映させる仕組みも重要だろう。

 さらに、管理職の評価にも目を向けたい。部下の売上だけで管理職を評価すれば、不適切行為を見逃す誘因が生まれる。部下の育成、職場の健全性、問題の早期発見と是正を管理職の成果として位置付けるべきである。独立した監査や、報復を恐れず相談できる内部通報制度の整備も欠かせない。

 企業が成果を求めるのは当たり前のことである。その意味で、成果主義自体を悪者扱いする必要はない。問われるのは、そのバランスと質である。          

 



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