面談の基本 |
第1講 面談制度の意義と種類
人事評価制度に面談を取り入れるのは、もはや当たり前となってきています。労務行政研究所の「人事考課制度に関する実態調査(2014年)」によれば、評価結果を何らかの形でフィードバックしている企業は87.4%で、そのうちの91.0%がフィードバック面談を実施しているとのことです。それほど、評価制度の適正な運用のためには、評価者と被評価者のコミュニケーションが重要であるとの認識が深まってきているといえます。背景に、従来の査定目的の人事評価から、人材育成目的の人事評価への転換という大きな流れがあることは間違いありません。
ただ、今の主流だからという理由だけで面談制度を導入しても、うまく機能するものではありません。評価制度における面談とはどういうことかを運用の主体となる会社や人事、そして当事者である評価者と被評価者が、しっかり認識しておかなければ面談制度の効果は期待できないでしょう。時間のムダになるだけでなく、下手をすると人間関係の悪化にもつながりかねません。
本講座では、人事評価制度の中で面談をどのようにして実施していけばよいか、その基本事項を体系的に整理していきます。第1講では、面談制度の意義と種類について解説します。
なお、企業によって、面談制度といったり、面接制度といったりしますが、両者は基本的に同じものです。ただ、面接よりも面談の方が、柔らかなイメージがあり、また「互いに話をする」との意味合いも強く、制度の実態に合致していると考えられることから、本講座では「面談」という言葉を使います。
1.人事評価における面談の意義とは?
人事評価の中に面談制度を設ける意義は次の3つがあります。
(1)制度として実施することで、評価を能力開発に適正に結びつけること (2)評価の納得性を高められること (3)評価を社員のモチベーション向上に結びつけること |
(1)制度として実施することで、評価を能力開発に適正に結びつけること
1つ目は、能力開発の面です。評価の目的を社員の能力開発と位置づけることが主流となっている今日、社員に評価結果をフィードバックしたり、能力・行動レベルの伸長を図るためのコミュニケーションをとったりすることは、極めて重要なプロセスとなります。
ただ、その実施を上司任せにするだけでは非常に心もとないです。中には、忙しさにかまけて簡単に済ませたり、いい加減な内容で済ませたりする上司も出てくるでしょう。また、社員にしても、適当に対応していればいいや、という気持ちになるかもしれません。そうなっては、せっかくの評価も能力開発に結びつけることが難しくなってしまいます。
そこで、会社として公式的な制度とすることで、管理者や社員に適正な実施をコミットしてもらうのです。もちろん、制度としてやるからには、スケジュールや実施内容について定め、周知をし、場合によっては教育なども必要となりますが、管理者・社員には良い意味での緊張感を与え、一定以上の品質が期待できることになります。
(2)評価の納得性を高められること
2つ目は、評価の納得性の面です。被評価者が納得していない評価をスタート地点にして、能力開発を始めても、大した成果は期待できないのは明らかでしょう。評価を能力開発に結びつけるためには、社員が評価に納得していることが大前提となります。
納得性を高めるためには、1つは、社員に「上司はあなたのことをしっかりと見ている」との認識を持たせることが大切です。面談制度は、上司が社員への関わりを深めるための制度ですので、そういった認識を高めることができます。
もう1つは、なぜそのような評価になったのかを社員に的確に説明をすることです。これには、ある程度の時間をかける必要があり、フィードバック面談はその適切な機会となるものです。
(3)評価を社員のモチベーション向上に結びつけること
3つ目は、モチベーションの面です。人事評価の機能として、社員のモチベーション要因となることがあげられますが、その手段として、上司との協働意識や、上司によるサポートは非常に有効なものとなります。
半年あるいは1年という長期にわたる評価期間で、社員がモチベーションを維持し続けるのは大変なことです。その際、能力やパフォーマンス、業績の向上に向けて、上司から技術的・精神的な支援を受けることで、モチベーションは大きな刺激を受けます。「自分の努力を見てくれている、応援してくれている」という意識により、やる気が出るのは理解できると思います。そのようなサポートは、期間を通じて日々行われるものですが、面談を設けることで、現状把握や課題の整理などじっくりと検討する場ができます。面談は、モチベーションの維持・向上の基点になるといえます。
2.面談の種類
人事評価における面談には次のような種類があります。
(1)フィードバック面談 | |
(2)目標設定面談 | |
(3)中間面談 | |
(4)自己評価申告面談 |
(1)フィードバック面談
上司から部下に評価結果のフィードバックをするための面談です。一般に評価面談といえば、フィードバック面談を意味します。結果のフィードバックだけでなく、次期の目標・課題を検討することが重要な内容となります。フィードバックは、とりあえず上司の評価を伝える場合と、最終的に評価が確定してから伝える場合の2つがありますが、スケジュールの都合などから前者の方が多いようです。この場合、評価が変わることもありうるという問題が生じます。
(2)目標設定面談
目標管理を導入している場合に、社員が設定した目標を上司と確認・決定するための面談です。目標管理は業績評価の一環として実施されているケースが多いことから、人事評価面談の1つに分類できます。目標管理の期間に応じて、年に1回または2回行うのが一般的です。通常は、業績目標管理の目標設定のために行われますが、企業によっては、能力・行動評価上の能力目標や行動目標を設定するところもあります。
(3)中間面談
目標管理の進捗状況を確認するための面談です。目標管理期間の中間点で行うものですが、実施しない企業もあります。また、能力・行動評価等の中間の振り返りを行う場として設定することもあります。
(4)自己評価申告面談
能力・行動・業績評価や目標管理の達成度について、社員が自己評価を行い、それを上司に申告・説明するための面談です。①のフィードバック面談と合わせて行われるケースも多いです。
通常、目標管理制度を未導入であれば(1)だけ、導入していれば(2)⇒(3)⇒(4)⇒(1)という流れになります。
第2講 面談の目的
第2講では、面談の目的を説明します。そもそも何のために、貴重な時間を費やして面談を行うのかを、しっかりと認識しておくことが大事です。別の見方をすると、面談後に目的をどの程度達成できたかを振り返ることも重要です。
第1講で述べたように人事評価制度における面談にはいくつかの種類があります。まずは面談全般を通じての目的と、種類ごとの目的を説明していきます。そのうえで、これらの目的を達成していくためのポイントを指摘します。
1.面談全般を通じての目的
面談全般を通じての目的は次の1点です。この1点に尽きます。
●社員のヤル気を増進させること |
これは面談の最大目的ともいえます。したがって、面談時に上司が自分の言いたいことを延々と述べたり、社員と議論をしたり、叱責したりするのは、基本的にNGです。そのようなことで、社員のヤル気が高まる可能性は低いからです。中には、面談を行うことで上司はストレスを発散させ、部下はストレスを溜めるという例もあります。そのような面談に社員が主体的に臨むはずがありません。社員から、「あの上司と面談をするのはイヤだな」と思われるようでは、面談の効果は期待できないと考えたほうがよいでしょう。
2.面談の種類ごとの目的
面談の目的をまとめると、以下のようになります。
(1)目標設定面談 | 期待される役割を確認するとともに、最適の目標を設定し、社員と上司とでしっかり共有すること |
(2)中間面談 | 進捗状況を振り返り、後半期の目標・課題を再確認すること |
(3)フィードバック面談 | 評価の納得性を向上させ、次期課題を明確化すること |
(1)目標設定面談
目標設定面談は、漠然とその期の目標を設定すればよいというものではありません。目標設定の前提として、組織・部門・部署の目標が何であり、そのために当該社員に期待される役割は何かということから話し合いを行うことが大切です。これが欠けると、組織業績への貢献の少ない無意味な目標となったり、達成に向けてモチベーションが維持できなくなったりします。また、目標設定においては、目標3要素+達成手段を社員と上司とでしっかりと共有することが重要であることはいうまでもありません。これについては、「人事制度サンプル・目標管理~目標設定編」も参照ください。
(2)中間面談
中間面談は、目標管理の進捗状況や能力・行動評価などの中間時点での振り返りを行う場となります。企業によっては、公式の制度として採り入れていないところもあるかもしれませんが、その場合は、管理者としては何らかの形で自主的に実施したいものです。長い評価期間においては、どうしても中だるみが生じます。初心を取り戻して改めてモチベーションを高めたり、状況によっては”喝”を入れたりする場として、中間面談は効果的です。
進捗状況の管理は、折を見て行ってるはずですが、中間面談は、それを総括的に実施する機会と考えればよいでしょう。進捗管理そのものの留意点については、「人事制度サンプル・目標管理~進捗管理編」をご覧ください。
(3)フィードバック面談
フィードバック面談の目的は上記のとおりですが、その実現のためには、次期課題の達成や自己成長に向けての動機づけが重要となります。フィードバック面談がうまくいったかどうかは、①評価を納得してもらえたか、②次期課題を明確化できたか、③自己成長への動機づけができたか、の3段階でチェックできます。③まで実行できたのなら、そのフィードバック面談は大成功といえます。
3つを通じて言えるのは、漠然と面談をするのではなく、内容に応じた目的意識を持つことの重要性です。また、上司だけでなく、社員も持つ(持たせる)ことが大切です。これにより、面談の密度が濃くなるとともに、時間も短縮化できます。
3.目的を達成するためのポイント
上記の目的を達成するために、面談にあたって管理者が持っておきたい考え方を3点指摘しておきます。
(1)面談は互いの考えを確認する場との認識を持つこと
管理者の中には、面談を自分の考えを部下に理解・浸透させ、それに基づいて行動してもらうための場と認識している人も少なくありません。確かに仕事を進めるうえで、そのようなやり方が必要となる場合もありますが、面談で実施をするのは場違いです。
そのような認識で面談に臨むと、説明と説得に長々と時間がかかり、互いに疲弊し、挙句に「しばらくは顔を見たくない」などとなりがちです。面談でやるべきことを基本的に誤っているといえます。
面談では、仕事をよりよくしていくために社員の考えを知り、上司としての考えを知ってもらうというのが基本です。互いの情報を提供し合い、共有化する場なのです。くれぐれも一方的な指示・命令にならないよう気をつけたいです。
(2)急いで結論を求めないこと
情報提供が基本とはいえ、目標設定や課題設定など、何らかの結論を出す必要はあります。このときに注意してほしいのは、急いで出す必要はないということです。むしろ、社員にじっくり考えてもらうためには、時間を置くほうがよいときもあります。結論だけは、別の機会を設けるということでもOKなのです。
(3)無理に説得しないこと
無理に説得して、形ばかりの同意を得ても、動機づけにはなりません。心底納得をしていない目標や課題に対して、長期間にわたってモチベーションを維持するのは困難でしょう。
もちろん、組織目標のために上司としてぜひやってほしいこともあるでしょう。そのような場合は、必要性や実現することのメリットなどを時間をかけて説明し、納得性を高めることが求められます。確かに手間はかかりますが、この段階での苦労を惜しむべきではありません(このような説明は、ミーティングを設けてメンバー全員に行うのもよいです)。逆に、ここで手を抜いて表面的な同意で済ませ、結果として期待する成果が得られないことの方が問題であるし、上司として悔いも残ることになります。ただ、説明をするといっても、最終的な判断は社員に委ねるのが原則で、決して「押し付け」にならないようにしたいです。
誤解を恐れずに言えば、面談には気楽に臨むことが大切です。指示や命令では、社員の動機づけは高まりません。社員のレベルによって程度の差はありますが、基本的には、社員の「気づき」を促す言葉をかけ、あとは社員に任せるというスタンスが望ましいといえます。
「ダイアローグ 対話する組織」(中原淳/長岡健:ダイヤモンド社)では、コミュニケーションの仕方を話の中身と雰囲気というわかりやすい切り口で、雑談、対話、議論の3つに分類しています。面談で行ってほしいのは、このうちの「対話」ということになります。
話の中身/雰囲気 | 自由なムード | 緊迫したムード |
たわむれ | 雑談 | ― |
真剣 | 対話 | 議論 |
同書では、対話を行う際のキーポイントとして、次の4つを示しています。面談においても非常に参考になると思います。
●真剣な話し合いではあっても、相手を打ち負かそうとする敵対的なムードではなく、友好的なムードを保ち続ける。 ●意見や考え方の優劣を決めようとするのではなく、1つひとつの意見や考え方の中にユニークさや斬新さを見出し、それらを尊重する。 ●その一方で、意見の相違から目をそらすことなく、相手を尊重しつつも、お互いの差異を浮き彫りにし、それを受け入れる。 ●「一般的には…」「業界的には…」といった三人称的な視座から見解を述べるのではなく、「私」を前面に出した一人称的な視座から、自分の経験や思いを語る。 |
第3講 面談のステップ
第3講では、面談をどのように進めていけばよいか、そのステップについて説明します。各ステップの要所を押さえることで、事前にストーリーが描け、メリハリのある面談が可能となります。逆に、これらのステップを踏まずに、行き当たりばったりで実施をすれば、時間ばかりかかって得るものが何もないという結果になりかねません。実際のところは描いたストーリーどおりにはなかなか進まないものですが、基本の進め方を把握しておけば、多少の寄り道はあったにしても、ある程度納得のできる成果は得られるはずです。
1.面談の基本ステップ
面談の基本的なステップは次のとおりです。
(1)事前準備 |
面談には、フィードバック面談、目標設定面談、中間面談などがあることは第1講にて述べたところですが、いずれも基本的に上記のステップで進めます。まず社員に話をしてもらうのは、それが一番大切なことだからです。上司から説明を始めて、違う考えを述べられたりすると、社員は言いたいことを言えなくなってしまう場合があります。面談のメインキャストは社員ということをしっかりと認識しておきたいです。
ただし、フィードバック面談において、社員の自己評価を制度化していない場合には、(3)の社員説明は省略することになります。
2.ステップごとのポイント
以下、フィードバック面談におけるステップごとのポイントを上司の立場から説明します。目標設定面談や中間面談においても基本的な内容は変わりありません。
(1)事前準備
【ポイント】 ①面談内容を確認しておく ②ストーリーを描いておく ③社員に連絡しておく ④社員にも準備してもらう |
①面談内容を確認しておく
評価結果の確認、指摘する長所や問題点、今後の課題など、面談で話し合うことをしっかりと整理しておきます。話に説得性を持たせるためには、できるだけ具体性のある事実や客観性のあるデータ・資料を用意することが大切です。
②ストーリーを描いておく
どのように面談を進めるか、社員の個性に応じてストーリーを考えておきます。ストーリーといっても、もちろん芝居の台本のような詳細なものではなく、各ステップの所要時間や大雑把な進め方、これだけは伝えたいというポイントなどを整理しておくことです。面談が初めての社員や評価の良くなかった社員に対しては、時間をかけて準備したいです。社員1人1人の顔を思い浮かべながら、進め方をイメージしておくことが大切です。
③社員に連絡しておく
面談を実施することを事前に社員に伝え、時間と場所を決めておきます。「今からやろう」といった無計画な面談はNGです。場所はミーティングルームなど、できるだけ周囲と隔離されている場所が望ましいです。上司のデスクなどは、落ち着いて進められないので避けるべきです。じっくり落ち着いて進められるよう、緊急連絡以外はシャットアウトするようにしましょう。時間は、部下の人数やレベル、面談内容によって一概には言えませんが、一般に1時間くらいが妥当で、最低でも30分は取りたいです。
④社員にも準備してもらう
①の内容を、社員にも準備してもらうことが大切です。上司の話を聞くだけの受け身の姿勢では、なかなか能力開発に結びつきません。
①と④は、限られた時間内に効率的に実施するためにも重要です。面談の内容を濃くできるかどうかは、事前の準備にかかっているといえます。
(2)開始
【ポイント】 ①座席の配慮 ②和やかな雰囲気づくり ③面談の概要の説明 |
①座席の配慮
社員がラクな気持ちで話せるよう、座る場所に配慮したいです。
【A】のように真正面で向き合うと、視線と視線がまともにぶつかり、社員に緊張感を与えてしまいます。【B】または【C】のように、視線が真正面でぶつからないよう、斜めにずらして座るのがよいでしょう。
【A】 | 【B】 | 【C】 | |||
● | ● | ||||
机 | 机 | 机 | ● | ||
● | ● | ● |
②和やかな雰囲気づくり
最初に、「お疲れさま」「忙しいところ済まないね」等のねぎらいの言葉をかけ、家族や趣味など仕事以外の気楽な話をして、緊張感を和らげるようにします。
③面談の概要の説明
面談の目的、進め方、予定時間などを伝えます。「質問等は適宜してください(あるいは、まとめてしてください)」なども伝えておくのもよいでしょう。
(3)社員説明
【ポイント】 ①とにかく話してもらう ②話をコントロールする |
①とにかく話してもらう
社員説明の最重要ポイントは、とにかく話してもらうことです。そのためには、話を促すようなテクニックも必要ですが、まずは真摯に耳を傾けるという姿勢が大切です。多少おかしな発言があったとしても、話をさえぎったり、否定したりするのはNGです(もちろん、理解しづらいときに確認するのはOKです)。話を促進するためのスキルについては、別講で解説します。
②話をコントロールする
社員に話してもらうことを最優先しますが、散漫な展開になるのを避けるため、「まずは、○○について5分くらいで話してもらえますか」「次に、○○についてはいかがですか」「その点はまたじっくり聞かせてもらうとして、○○に戻りたいけど、いいですか」など、適切な進行のためのコントロールは求められます。
(4)上司説明
【ポイント】 ①体系的に話を進める ②よいところから言う ③改善を求める点をはっきり言う |
①体系的に話を進める
社員にわかりやすく、かつ、効率的に進めるために体系的な説明が重要です。基本は、総論(結論)⇒各論です。
②よいところから言う
まずはよかった点から伝えるのが原則です。誰でも誉められれば気分はよくなりますので、そうした方が、次の改善点を受け入れられやすくなるからです。どんなに評価の低い社員であっても、よい面は必ずあるはずです。それを見つけておくのも上司の務めです。日本人は誉めることが苦手のようで、日常の中では照れ臭いところもあると思いますので、ぜひ、面談の場で大いに賞賛してあげてください。
ただ、「今年は積極性があってよかったよ」といった漠然とした言い方では、社員には心から誉めていることが伝わりません。「なんか、適当なことを言ってるな?」と、かえって懐疑心を抱かせてしまうかもしれません。そのために、具体例をいくつか用意しておくことが肝心です。とっさには思いつかないこともありますので、(1)事前準備が重要ということです。
③改善を求める点をはっきり言う
企業は業績を上げることで存続し、さまざまな社会貢献も可能となります。社員は、それぞれの役割を担うプロフェッショナルです。成果向上のために、改善すべき点は明確に伝えるべきです。ときに、相手を傷つけまいとして(あるいは反抗を恐れて)、あいまいに済ます上司もいますが、管理者として適切な対応とは言えないでしょう。「プロとして認める」あるいは「プロになってほしい」という気持ちがあるからこそ、厳しいこともきちんという必要があるはずです。もちろん、言い方の問題がありますので、この点は別途説明しますが、②の良い点同様に、具体的な事実に即して述べることがまずは大切となります。
(5)課題の設定・確認
【ポイント】 ①社員に考えてもらう ②課題にコミットしてもらう ③上司としての支援事項を述べる |
①社員に考えてもらう
(5)は、互いの説明を聞きあったうえで、相互の理解を深め、社員の今後の取り組み課題を明確化するステップです。課題は、上司から与えるものではなく、社員自らが考えて設定するものです。「どうすればいいのですか?」と社員が尋ねてくることもあると思いますが、すぐには答えを言わず、逆に質問をなげかけることで、社員に考えさせることが大切です。
②課題にコミットしてもらう
取り組み課題を明確にするだけでなく、社員がその課題にコミットしなければなりません。繰り返しとなりますが、そのためには、課題は押し付けてはならず、社員自らが考え出すとともに、実践の重要性を自覚してもらう必要があります。上司としては、必要性の背景、組織業績への効果、社員のキャリアへの影響等、コミットメントを高める言葉をかけたいです。
③上司としての支援事項を述べる
一方的に社員の取り組みばかりを求めるのではなく、上司としてもきちんと支援をしていくことを表明すれば、「一緒にやる」という一体感が得られ、モチベーションが高まります。支援事項の内容としては、能力向上を図れるような仕事の場を与えること、自己啓発の時間を取れるよう配慮すること、現場に同行することなど、上司の権限の範囲内でできることを示せばOKです。
(6)まとめ
【ポイント】 ①やるべきことを確認する ②最後は励ましの言葉で締める ③予定時間を守る |
①やるべきことを確認する
最後に相互のやるべきことを再確認します。「いつまでに」「何を」「どれくらい(どのレベルまで)」やるのかを相互確認します。少し大げさですが、契約書でいえばハンコを押す場面です。互いの理解や認識に齟齬がないようにしたいです。
②最後は励ましの言葉で締める
だらだらと述べる必要はありません。「今期の成長を楽しみにしている」ことをポジティブな言葉で伝えてあげましょう。
③予定時間を守る
多少のズレは仕方がないですが、大幅にオーバーするのはNGです。特に連続して実施する場合は、後の社員の予定を狂わせることになり、落ち着いた面談ができなくなる可能性もあります。準備をきちんとしておくこと、要所をしっかりと抑えることが予定時間内に終了させる大きなポイントとなります。そして、これは面談を成功させるポイントでもあります。
以上、面談のステップごとのポイントを示しました。
面談を終えた上司の感想として多くあるのが、「とにかく疲れた」というものです。これが、納得のいく面談ができた充実感からくる心地よい疲れならよいのですが、よくあるのが、”しゃべりすぎ”による疲れです。
中には、上司がほとんどしゃべり、社員はうなずくだけというケースもあり、これは指示・命令あるいは説教であって、面談とはいえません。先に述べたように面談の主役は社員です。社員に話をしてもらってこそ、面談の意義があります。話のボリュームでいえば、社員6割上司4割を目指してください。
第4講 身に付けておきたい7つの話法
前講では、面談のステップを確認しましたが、その際、とにかく社員に話をしてもらうことが大切と述べました。ただ、一般的に日本人は面談のような場で、自らのことを話すのは得意ではなく、特に良かったところや成功体験などは、あまり話したがらないものです(もちろん、中には例外もありますが・・・)。単に「話してください」では、思うように面談は進まないことが多いのです。
そこで、第4講では社員の話を促すとともに、相手の共感を得られるような話し方のポイントを7つ示したいと思います。面談というのは、ややもすれば重い雰囲気になりがちで、それを嫌って、結局は上司ばかりがしゃべってしまうこともよくあります。そのような事態を避けるために、以下の話法を効果的に使って、”軽快に”面談を進めていくようにしてください。
1.7つの話法
スムースな面談の実施に身に付けておきたい話法とは次の7つです。
(1)反復 |
(1)反復
反復は、相手の話の要点を繰り返すという手法です。
(例)⇒「そうか、時間が足りなかったのか」
反復をすることで、社員に関心をもって聞いていることが伝わります。社員は、上司が自分の話に興味・関心を抱いていると認識できれば、もっと話をしたいという意欲が高まります。
(2)言い換え
表現を言い換え、相手の真意を明確にする手法です。
(例)⇒「つまり、ユーザーの要望を取り違えていたということだね?」
話の中身を整理しないまま、頭に浮かんだことを次々と話したり、適切な言葉が見つからす、あいまいな表現をしたりする社員も多くいます。そのようなときに、言い換えをすることで、要点の明確化や、わかりにくいところの確認ができます。また、社員も自分の考えを整理する機会ができます。
(3)支持
まずは相手の言い分を認めるという手法です。
(例)⇒「なるほど、声を荒げてしまった君の気持ちもよくわかるよ」
支持をすることで、社員に共感していることが伝わります。社員は、自分の立場を理解してくれているとわかれば、話を続けようという気になります。
(4)拡大質問
質問の際に、「はい」「いいえ」で終わらない問い方をすることです。
(例)⇒「どのように情報を集めたのかな?」
YES-NOを明確にする限定質問が必要なときもありますが、それが多いと対話が進まず、どうしても尋問のように固い雰囲気になってしまいます。拡大質問により、事実のあるなしだけでなく、原因や状況・課題などを相手に話してもらうことができますし、そのために社員に考えてもらうことができます。
(5)肯定質問
否定を含まない形で質問をすることです。
(例)⇒「どうすれば期日を守れるかな?」
「どうして期日を守れないの?」という否定質問だと、相手には非難をしているように聞こえます。また、「あなたに問題があるからだ」と人格否定のように受け取られ、気持ちも沈んでしまい、社員の口も重くなるでしょう。ところが、肯定質問にすれば、今後何をすべきかが焦点となり、建設的な対話が期待できるようになります。言い方を少し変えるだけで、前向きな気持ちで話をさせることが可能なのです。
(6)長所の具体的な指摘
良かった点を誉める際に、できるだけ具体的に言うことです。
(例)⇒「お客様と話をするときに、表情が豊かなところが温かみがあってとてもいいよ」
誉めることで、相手に気分よくなってもらうのは、面談をスムースに進めるための大きなポイントです。単に「接客態度がいいよ」という言葉でも悪くはないですが、せっかく誉めるのですから、この際、もっともっと気分よくなってもらいましょう。具体的に指摘することで、上辺だけでなく、本当に誉めているという気持ちが伝わるものです。また、他の人も誉めていたという事実があるのならば、「部長もスゴイと言っていたよ」などの言葉もよいでしょう。
(7)上手に忠告
忠告をする際には、いきなりではなく、ワンクッションを置くようにします。
(例)⇒「あのプレゼンは資料をたくさん作って大変だったね。ただ、もう少し、テーマをはっきりさせる必要があったね」
長所と違って、改善してほしいことの忠告は、感情的な反発を受けやすいです。そこで、最初にねぎらいの言葉や、努力を認める言葉をかけた後に忠告をすると、相手も受け入れやすくなります。
2.7つのNG発言
逆に、面談で言ってはいけない7つの言葉を簡単に指摘しておきましょう。以下のような発言は社員のヤル気を失わせるので口にしないようにしたいです。
発言 | 例 | 解説 |
(1)批判 | 「そのような考え方はおかしい、間違っている!」 | 議論は別の場でするように。 |
(2)説教 | 「なんだ、あの対応は! そもそも心構えが悪い!」 | 叱るのも別の場でするように。 |
(3)命令 | 「いいから言うとおりにやれ!」 | これでは面談をする意味がない。 |
(4)無関心 | 「よくわからないけどいいんじゃない、好きにやってよ」 | これでは社員のヤル気は出ない。 |
(5)放棄 | 「俺も忙しいのだから、そんなことは自分で考えてくれよ!」 | 上司として怠慢、責任の放棄。 |
(6)転嫁 | 「俺の意見はともかく部長がダメと言ってるんだよ」 | あなたの意見はないの? |
(7)脅し | 「これをやらないと評価に響くぞ!」 | 論外! |
いずれも面談の意義や目的を理解していれば、NGであることはわかると思います。まずは、これらの発言をしないよう、あらかじめ認識しておくことが大切となります。ただ、面談にのめり込んでいると、物のはずみでつい口にすることもあると思います。そのときには、素直に謝ったり、真意を説明したりすることも大事でしょう。
1の7つの話法、2のNG発言ともに知識として頭に入れておくだけでなく、実際に面談経験を重ねることで、熟達していくものです。ただし、漠然と意識するだけでは効果は低いと思いますので、「今回は拡大質問に留意しよう」といった具合に、特に必要な事項を意識し、課題をもって実践していくよう心がけてください。
第5講 悪い評価の伝え方
これまで繰り返し述べてきたように、面談の目的は、社員のモチベーションを向上させ、社員の成長につなげていくことです。このとき重要となるのは、社員が今どのようなレベル・状態にあり、これから何をすべきかを自ら認識をしてもらうことです。現状を正しく把握していなければ、期待される成長の方向性を正しく示せないからです。
現状把握にあたっては、他者の目からはどのように映るのか、すなわち上司の意見や評価が重要となります。ときには、社員にとって耳の痛いことも指摘しければなりません。典型的なのは、フィードバック面談において悪い評価を伝える場面です。
人間は誰しも、自分のことを悪く言われるのはイヤなものです。ある人は自信を失うであろうし、ある人は言った相手に反発心を覚えるでしょう。単純に考えれば、社員のモチベーションを下げる要因となります。上司にしても、日々一緒に働き、懸命な姿を目にしている部下のネガティブな面を口にするのはためらわれます。
しかしながら、企業組織は親睦団体でも仲良しクラブでもありません。メンバーに修正してほしい点をきちんと伝えるのは、やはり大切な事項といえます。”言いたくはないが、言わなければならない”このジレンマの解決は、面談の中でも最も大変な作業かもしれません。よい評価であれば、気持ちよく言えますし、聞く方も気分良く受け止められます。では、悪い評価はどのように伝えるべきか。第5講ではそのテクニックを解説します。
1.5つのポイント
フィードバック面談で悪い評価を伝えるときのポイントは次の5つです。これらは、中間面談で改善を促すときにも活用できるものであり、(4)(5)は目標設定面談で目標の修正をしてもらう際にも参考にできると思います。
(1)日常の指導を基に伝える |
以下、それぞれ説明していきましょう。
(1)日常の指導を基に伝える
日常的な改善指導やアドバイスを前提に、「何度か改善を求めたが、期待レベルに至らなかった」ことを伝えるようにします。普段から言われていたことであれば、何がいけないのかがすぐにわかり、納得性も高まるはずです。逆に、日常的な指導・アドバイスがないまま、面談の場で初めて指摘されても、「なぜ、そのときに言ってくれなかったの?」と不満に思ってしまいます。
(2)具体的な事実を根拠にして伝える
漠然とした印象や推察ではなく、きちんと観察した事実に基づいて判定していることを丁寧に説明します。具体的と言っても、いつ頃、どこで、何を、どのように、という3W1Hが明らかであれば結構です。複数の事実があると説得力が高まります。そのためには、日常の観察と記録が非常に重要となります。
(3)性格の指摘ではなく行動の改善を求める
性格を指摘されると人格を否定されたような気になり、抵抗感を生じさせます。性格はそう簡単に修正できるものでもありませんので、内心”そんなことを言われても・・・”となりがちです。また、人間だれしも、良い面、悪い面がありますので、”あなたに言われたくない”と感情的なもつれを生じさせる恐れもあります。指摘すべきは、行動面の改善です。これなら修正は可能ですし、社員が受け入れる余地は大きいといえます。
(4)成長のためのアドバイスであることを理解してもらう
「耳が痛いかもしれないけれど、あなたの成長を思ってあえて言う」というように、人材育成のためであることを強調します。上司自身に、過去にそのような忠言を受け成長できた経験があるのなら、それを言うのもよいでしょう。「言ってもらうのはありがたいこと」を何らかの形で理解してもらうのが大切です。
(5)改善の効果を明示する
社員の行動が改善することで、どのような効果が生まれるかを具体的にイメージできるようにします。これにより、改善に向けての動機づけが高められ、「やってみよう」という気になります。有効なのは、改善に向けての努力や成果が、
①誰かの役に立つこと
②組織の業績や風土に好影響を与えること
③社員自身の評価が高まること
などです。
たとえば、「改善することで、利用者がもっと喜ぶ」とか、「もっとリーダーシップを発揮すれば、後輩の士気が高まってチームが活性化する」「専門知識を高めれば、あなたの強みである判断力をもっと発揮できる」といったことです。
今回はダメだったけれど、それをバネにして改善に取り組むという前向きな気持ちを起こすことができれば大成功といえます。
(1)(2)について特に言えることですが、日常のマネジメントや部下育成のあり方が重要になることをしっかりと認識しておきたいです。普段、いい加減なマネジメントをしておきながら、面談の場で部下に改善を求めても、説得力はないということです。
言い方は、第4講で述べたように、命令形や否定形を避けることがポイントです。「○○はダメ」「××を直せ」という一方的な言い方ではなく、「あのとき○○すれば、お客様はもっと満足したと思うよ」といった肯定的な表現が好ましいです。「あのときどうすれば、お客様はもっと満足したと思う?」と質問を投げかけるのもよいでしょう。
2.納得を得られないときの対応
上記のポイントを踏まえて丁寧に説明しても、納得してもらえないケースも多く発生します。時には、言い訳をしたり、反論をしたりしてくる社員もいます。そのような場合に面談者としてとるべき対応は、以下の3点です。
(1)感情的にならないこと |
(1)感情的にならないこと
まずは、感情的にならないことです。上司が感情的になると、社員もますます感情的となり、面談どころではなくなってしまいます。懇切丁寧にフィードバックをしたのに文句を言われてカッとなる気持ちもわかりますが、ここは上司としての度量を示しましょう。社員の不満に冷静に耳を傾けることが大事です。冷静な対応をすれば、相手の気持ちも落ち着かせられ、何が問題であるのかを話し合う場の設定ができます。
(2)社員の真意をつかむこと
社員の言動から、どのような点が納得できないのか、なぜ納得できないのか、その背景は何なのかといった真意をつかむようにします。社員の誤解や思い込みに基づくものがあっても、「それは違う!」など即座に否定をせず、しっくり聞くという姿勢を示します。”聞く耳”を持つことで、社員の不満の結構な部分が抑えられます。
(3)ムリに説得をしないこと
社員の不満点に対する説明をします。このとき、抑圧的な態度や逆に迎合的な態度はとらないことです。「~を根拠に、私は○○と思います」「私はこのような見方をします」と淡々と説明します。「私は」というのがポイントで、それを社員に押し付けないようにします。ムリに説得をし、表面的な納得を得ても社員のモチベーションにはならないのは、第2講でも述べたとおりです。
第6講 面談中に求められる態度
これまで面談を成功させるためのポイントを、話しの内容や進め方を中心に述べてきました。
ただ、どんなに話の内容・進め方が適切であっても、面談中の上司の態度に問題があれば、社員の気持ちを害したり、やる気を損なったりしてしまいます。しっかりと準備をし、適切なアドバイスをしたとしても、ちょっとした素振りによって、「口ではいいこと言ってるけど、本当に自分のことを考えてくれているのかな?」と疑問を持たれることもありうるのです。逆に言えば、面談中に見せる態度によっては、話の内容をもっと効果的に社員に受け止めてもらうことも可能となります。
第6講では、面談時にどのような態度を示せばよいのかを説明します。
1.7つのポイント
面談中の態度で留意したいのは次の7つです。
(1)動作 |
以下、それぞれ説明していきます。
(1)動作
まずは動作です。落ち着いた動作で進めることが肝要です。リラックスした雰囲気となり、社員も話しやすくなるからです。あわただしい動作だと、社員は早く終わらせなければならないと思い、言いたいことも言わなくなってしまいます。もちろん、リラックスのしすぎもいけません。だらけた動作では、真剣に社員の成長を話し合うこ場とならないでしょう。
(2)姿勢
姿勢は普通にしていればよいのですが、時に身を乗り出したりして、積極的に聞いているという態度を示すことがポイントです。逆に、背もたれにもたれてふんぞり返ったり、肘掛けで頬杖をついたり、腕組みをしたりするのは、「聞いてやっている」という感じがして、好ましくありません。また、貧乏ゆすりもイライラしているようで話づらくなります。これらは非常によく示しがちな態度なので、ぜひ、気をつけるようにしてください。
(3)視線
視線の基本は相手の目を見ることですが、見つめすぎると社員は話づらくなるので、時折、視線を外すことも必要です。社員の視線とらえるというより、顔全体に視線を向けるといったイメージで進めるとよいです。そして、これだけはぜひ伝えたいというポイントは、しっかりと目を見て訴えたいです。
(4)うなずきや相づち
うなずきや相づちは、「内容を理解している」「もっと話を聞きたい」という効果的なサインとなります。社員の話を促すためにきちんとしてあげたいです。無反応だと、「関心がなさそうだからもうやめよう」という気持ちになってしまいます。
(5)表情とリアクション
表情に乏しいと、いやいややっていると思われたり、話していることが否定されていると受け止められたりします。基本はにこやかな表情で進めていきますが、社員の話す内容に応じて、変化させたいです。また、表情だけでなく、ときには身体でリアクションを示すのもよいでしょう。(4)のうなずきや相づちと合わせるとメリハリのある対話となるはずです。
(6)声の調子
社員がきちんと聞き取れるよう、はっきりと声を出すよう心がけましょう。スピードや語尾にも注意したいです。ぼそぼそとしゃべると、小言を受けているような気になります。ボリュームは、聞こえないような小さなものはNGですが、大きすぎると威圧的になってしまいますので気をつけましょう。なお、言葉づかいは普段どおりでOKです。無理に丁寧語や標準語を使う必要はありません。堅苦しいあいさつなども不要です。
(7)メモ
メモを取ると、社員は自分の言ったことをきちんと受け止めてくれているという気になります。また、今後実行すべきことなどについて、口約束ではなく文章に残している印象を持たせ、よい意味でのプレッシャーを与えることができます。ただ、メモばかりしていると、対話というよりは単なる聴取のようになってしまい、面談の意味が薄れてきますので、必要なポイントだけをメモするという姿勢を心がけてください。
2.求められる態度の習得の仕方
以上の(1)~(7)は、上司のクセや習慣が強く反映されます。
たとえば、せっかちな性格で、常日頃からせかせかしている上司が、落ち着いた動作で面談をしようとしてもなかなか難しいでしょう。最初は留意しているのでゆっくり進められたとしても、面談に集中しているうちに気づいたら普段の状態に戻ってしまうものです。社員も、そのような上司のクセはある程度知っていますので、わかってもらえる部分はありますが、やはり、できるだけ基本に即した態度で臨みたいです。(1)~(7)は、面談以外のコミュニケーションにも重要な態度ですので、悪いクセは修正しておくに越したことはありません。
修正のためには、まず自分のクセを認識することが大切です。面談のロールプレイを行い、他者からのコメントを受けると非常によく認識できるのですが、そのような機会がなくても、多かれ少なかれ思い当たることがあるはずですので、上記の観点から整理をしてみてください。
修正にあたっては、一度にあれもこれも直すというよりは、テーマを絞っていくのが効果的です。たとえば、相手の目を見ないで話す傾向のある人は、とにかく普段から、そのことに留意をしてコミュニケーションを取るようにし、これを習慣化できれば、次のテーマに移るというやり方です。面談の場は回数的に限られてきますので、日常のコミュニケーションの中で可能な限り修正していくのが望ましいといえます。
第7講(最終講) 面談を支える信頼関係
これまで、スムースに面談を進めていくためのさまざまなスキルについて述べてきました。ただ、どんな高度のスキルを持っていても、面談者と被面談者との間に信頼関係が築かれていなければ、実りのあるものにはならないことは理解いただけるでしょう。表面的にはうまくいったとしても、真に社員を動機づけ、改善に向けての行動を惹起することができるかは疑わしいからです。
最終講では、有意義な面談をするために、社員と上司との信頼関係が非常に重要となることをあらためて確認しておきたいと思います。
1.信頼される上司の要件
社員にとって、信頼している上司の言葉は心に響きます。それでは、信頼される上司とはどういう上司でしょうか? いくつか行動要件をあげてみましょう。
・自分に厳しい ・相手によって態度を変えない ・言動がブレない ・えこひいきしない ・きちんと意思決定をする ・情報を独り占めせずに共有する ・部下に仕事を任せる ・責任をきちんと取る ・感情が安定している |
‥‥その他にもいろいろあると思います。自分がこれまでに信頼できる(あるいは逆に信頼できない)と思った上司の行動を思い浮かべてみるのもよいでしょう。
ちなみに、産業能率大学の2011年度「新入社員の理想の上司」調査によれば、
①やる気を引き出してくれそう ②適切なアドバイスをしてくれそう ③人柄がよく親しみやすそう ④態度や姿勢が手本になりそう ⑤自分の強み・弱みを見抜いてくれそう |
というのが、理想の上司として選ぶ理由のベスト5となっています。新入社員に限らず、中堅・ベテランであっても理想とするタイプではないでしょうか。
実際、これらの要件は大切であり、課題を持って実践していく必要性は非常に高いといえます。自分に何が求められるか、どのようにして修得していくかについてはじっくり考えていく必要があるでしょう。
ただ、ここでは、効果的な面談を実施するための条件という観点から、次の1点に絞って話をしたいと思います。
2.社員のことを知っているか
それでは信頼関係を築くために何が必要かといえば、社員のことをよく知ることです。そのためには、社員に関心を持たなければなりません。ヒトというのは、相手が自分に関心がないようであれば、相手に距離を置こうとするものです。逆に、自分のことに関心を示してくれれば、相手に心を開くでしょう。
信頼関係の前提として社員のことを知っているか? 以下のチェックリストを試してみてください。
□ 名前をフルネームで書けるか? |
□ 入社年度やこれまでの経歴は? |
□ 誕生年月、出身地、出身校、家族構成は? |
□ 性格、行動の特徴、特技、資格、趣味は? |
□ 仕事やプライベートでの将来の夢は? |
□ 仕事上の悩みは? |
いかがでしょうか? 以前、ある企業の面談研修で試したところ、フルネームでつまづく方もいらっしゃいました。
勘違いをしないでほしいのは、これらの情報を人事データ等で仕入れておけばよいということではなく、あくまで日常のコミュニケーションを通じて知っておくのが大切ということです。さらに言えば、本当に大事なのは個々の知識ではなく、これらについて自然に答えられるくらいコミュニケーションを取っているかということです。
もう1点確認しておきたいのは、部下によって知識に極端な差が生じていないかです。特定の部下のことだけはよく知っているのならば、その社員とばかりコミュニケーションを取っている可能性があります。逆に、ある部下についてだけよくわからないのならば、その部下を敬遠しているのかもしれません。もちろん、職場での期間や、部下の性格の問題もありますので、全員同じというわけにはいきませんが、極端な差があれば要注意といえます。
さて、見方を変えてもう1つ大事なことがあります。それは、部下は上司のことをよく知っているかということです。上司について、チェックリストに挙げたようなことを部下がどれくらい知っているでしょうか? もし、あまり知られていないのであれば、「自己開示」が足りないのかもしれません。自己開示をすることで、相手に安心感を与えることができ、相手もまた自己開示をするようになります。まさにオープンな関係を築くことができるのです。
自己開示に関して、自分の弱みを見せることもときには必要なことを認識しておきたいです。抜群の統率力でこれまで数々の成果を収めてきたリーダーが、ある重要プロジェクトで行き詰まり、どうしようもなくなって部下たちに「助けてくれ」と支援を求めたところ、チームの結束が高まり、プロジェクトが成功したという話もあります。弱みを見せることで、かえって信頼を深めることも大いにあると思います。
3.面談に求められる信頼関係とは
ここまで主に社員からどのようにして信頼を得るかについて述べてきましたが、信頼関係が成立するには、下から上への信頼だけではなく、上から下への信頼も重要となります。つまり、上司として社員から尊敬されるだけでなく、部下のことを理解・尊重することも同様に大事となるのです。お互いに信頼し合うということが、効果的な面談のために極めて重要という点を押さえておきたいです。部下を理解し信頼できれば、適切な権限移譲が可能となり、これが部下のモチベーションを高めさせ、上司への信頼もさらに向上するという好循環が期待できます。
こういったことの実現のためには、やはり、日常のコミュニケーションの積み重ねが求められます。さりげないコミュニケーションにより、社員と上司との間で信頼関係を深めることが、面談制度、さらには人事評価制度を機能させる最大のカギになるといえます。