帝国データバンクが2026年9月に発表した「企業が期待する『活躍年齢』に関する動向アンケート」は、企業の高齢者に対する期待の大きさが見てとれる。
全国1,289社に「従業員に何歳ごろまで活躍してほしいか」を尋ねたところ、平均は67.9歳、中央値は70歳であった。企業規模別では、大企業の66.8歳に対し、小規模企業は68.3歳と、規模が小さいほど長い活躍を期待している。また、各社で働く最高齢者の平均は68.3歳で、最高では91歳の従業員もいた。人手不足に加えて、経験や技術を持つベテランへの期待が背景にある。
もっとも、70歳近くまで働いてもらうといっても、若い頃と同じ仕事を同じように続けてもらうのは無理がある。加齢による能力の変化には、かなり大きな違いがあるからだ。
認知機能の研究では、情報を素早く処理する「処理速度」、複数の情報を一時的に保持しながら考える「ワーキングメモリー」、新しい問題に柔軟に対応する「流動性知能」などは、一般に年齢とともに低下する傾向がある。身体能力や反応速度についても同様であり、瞬時の判断やスピードを要求される仕事では、加齢の影響を考える必要がある。
一方で、年齢の影響を受けにくい能力もある。代表的なのが、長年にわたって蓄積した知識や経験を利用する「結晶性知能」である。語彙、一般知識、専門知識などは比較的維持されやすく、語彙などは60~70歳代まで向上するとの研究もある。つまり、「速く考える力」は低下しても、「知っていること」「経験から判断する力」は長く保たれやすいということだ。
さらに、経験を積むことで高まる能力もある。特定分野における状況判断、過去の事例との照合、トラブルの予測、顧客や部下への対応などである。いわゆる「経験知」「暗黙知」であり、必ずしも年齢そのものによって高まるわけではないものの、長い職業経験を持つ高齢者が若手より優位になりやすい領域である。
実際、高齢者のこうした強みを生かしている企業がある。たとえば、ある建設会社では、高齢従業員と若手をペアにして技能を伝承している。ベテランはコンクリート施工などの経験がものをいう技術だけでなく、翌日の天候まで考え、どこまで工事を進めるべきかを判断する力を持つ。単なる作業技能ではなく、経験に基づく先読みの力が生かされている。
また、あるホームセンターでは、ベテラン高齢社員の商品知識が接客の武器となっている。顧客から用途、予算、納期を聞けば具体的な提案ができ、持ち込まれた故障品をその場で修理できる場合もある。高齢社員に相談するために来店する顧客もおり、いわば「売場の顔」として集客や売上に貢献している。
旅館業O社では、高齢従業員の負担となる布団の上げ下ろしなどを外部化し、ベテラン社員が接客に専念できるようにしている。高齢従業員による行き届いた“おもてなし”は顧客満足につながるだけでなく、新人教育にも活用される。体力を要する仕事を減らし、経験を生かす仕事を残すという職務再設計の好例といえる。
企業には、70歳までの就業機会を確保する措置を講じる努力義務がある。しかし厚生労働省によれば、2025年6月1日時点で実施済みの企業は34.8%にとどまる。今回の帝国データバンク調査では、平均67.9歳、中央値では70歳まで活躍してほしいと考えていることが明らかになったが、法的な要請と企業の期待との間には、まだ大きなギャップがある。
そのギャップを埋めるには、高齢者の能力特性を活かした仕事・職場づくりが鍵となる。体力や処理速度の低下には、作業の軽減、短時間勤務、配置転換、デジタル機器などで対応する。一方で、専門知識、経験に基づく判断、顧客対応、技能伝承といった強みには、むしろ積極的に役割を与える。
70歳でも能力を発揮できる仕事・職場づくりが広がれば、70歳までの就業機会確保措置も、単なる努力義務への対応ではなく、企業にとって合理的な人材活用策として導入が進んでいくと思われる。