業績連動型賞与 |
業績連動型賞与とは
業績連動型賞与とは、賞与額の算出にあたって企業業績を連動させるものです。これには、賞与総額(=賞与原資)の算定の場合と個人賞与の算定の場合との2つの意味合いがありますが、ここでは前者の賞与総額の意味での業績連動型賞与を取り上げ、その意義や導入する際のポイントを説明します。
あらためて業績連動型賞与を定義づけると、「基準や算式をあらかじめ定め、業績を示す指標等に連動して賞与原資を決定する方式」で、営業利益の20%を賞与原資とするなどが典型例となります。
経団連の「2017年度賞与・一時金調査結果」によると、業績連動型賞与を採用している企業は56.3%となっており、このところ増加傾向にあります。
これまで多くの企業で採用されている方式は、賃金の数ケ月分を原資とするというやり方です。
元々、賞与は業績に応じて従業員にも利益を配分するという性格があるため、従来の方式であっても業績と原資は連動していたともいえます。たとえば、昨期は業績が低迷したので、今夏の賞与は昨年の3ヶ月から2ヶ月に減らすという具合です。
ただ、なぜ2ヶ月となったのかに明確な根拠やルールはなく、言ってみれば「経験的な感覚」で落としどころを見出したにすぎません。
また、労使間の協議で多少の上乗せが行われたり、個人額の決定において人事評価による加減が行われたりもして、結局のところ払ってみるまでは、賞与原資が確定できないという面があります。
よく言えば融通性がありますが、悪く言えば不透明で合理性に欠けるのです。
この点、業績連動型賞与は、指標となる業績から賞与原資が自動的に算出・確定されるので、すっきり透明感があります。
他にも業績連動型賞与には次のようなメリットがあります。
① 業績に見合った賞与負担となり経営の安全度が高められる(人件費の変動費化の実現)
② 社員の経営参画意識や業績向上意識を高められる
③ 経営者や労使間において賞与決定の手間暇を簡略化できる
一方、デメリットとなるのは次の2点です。
① 賞与原資が大きく変動する可能性がある
② 業績によっては原資ゼロ、すなわち賞与ゼロもありうる
そのため、これまで安定的に賞与を支給してきた企業が業績連動型賞与を導入するのなら、何らかの「激変緩和措置」を施す必要が出てきます。
業績連動型賞与導入のポイント
以上の特徴を踏まえて業績連動型賞与を導入する際のポイントを4つ示します。4つは導入の基本的なステップでもありますが、③④を検討しつつ②を考えていくなど、②~④は流動的となることに留意ください。
① 導入目的の明確化
上記のメリットを参考に何が目的なのかを導入の際に明確化することが大切です。前提として、現状の何が問題であり、それをどう変える必要があるのかを整理しておくことが求められます。目的を明確化することで、次の指標の選択や、制度の仕組みの設計にあたっての拠りどころが示されます。
② 何を指標とするかの検討
指標には次のものがあります。
基準 | 指標の例 |
売上高基準 | 売上高、生産高等 |
付加価値基準 | 付加価値 |
利益基準 | 営業利益、経常利益、当期利益、EBIT、EBITDA等 |
キャッシュフロー基準 | 営業CF等 |
株主価値基準 | ROA、ROE、ROI、EVA等 |
因みに、先の経団連の調査では、「営業利益」(55.1%)が最も多 く、次いで「経常利益」(41.7%)となっています(複数回答)。ただ、指標の選択は、よそがやっているからウチもそれにするという性質のものではありません。以下の着眼点から、自社に合ったものを採用しなければなりません。
ア.経営目標や経営戦略等で、自社が重視している指標であること
これは、もっとも重視すべき着眼点です。業績連動型賞与の最終的な目的は業績の向上にあり、経営戦略と人事戦略の連動が図られるからです。今まで使ったこともなく、これからも戦略上使う予定のない指標を賞与のためだけに用いるのは避けたいです。
イ.社員にわかりやすいこと
社員の納得性を高めるために重要となります。ただ、わかりやすさにとらわれすぎるのも好ましくありません。EBITやEVAなど一般社員にはなじみの薄い指標であっても、戦略上重要と位置づけるものであれば、業績連動型賞与の指標として採用し、理解を深めるようにしていくのも大切となります。
ウ.過去の数値、将来の予測から指標として利用できる安定性があること
原資としての安定を確保するために重要です。年ごとの変動が激しいと、賞与の支給も不安定となるからです。変動を抑制する仕組みを設けることもできますが、限界もあります。ある企業で利益基準による導入を検討したのですが、利益額の変動が大きすぎて制度が組み立てられず、導入を見送ったこともあります。
エ.採用することで業績向上につながること
繰り返しになりますが、業績連動型賞与の最終的な目的は業績の向上にあります。賞与も含め、人事諸制度は業績向上のための手段であることを忘れてはなりません。
オ.社員の職務や成果との関連が明らかなこと
社員が自分の仕事と指標との関連をどれだけイメージできるかです。自分の仕事とほとんど関係ない指標により、賞与が決定されるのであれば納得性は得られないでしょう。ただ、上記に挙げた指標であれば、何らかの関連はあるはずです。この辺は、担当部門や上司による説明も求められます。
選択する指標は普通は1つですが、戦略上の必要性やバランスから複数選択するケースもあります。複数といっても、複雑化を避けるために2つに留めておいた方が無難でしょう。このときは、それぞれの指標について%を乗じる以外にも、あらかじめマトリクスを作成しておき、各指標の数値を当てはめて賞与額を導き出すという手法もあります。
③ 原資を算定するルールの検討
選択した指標のどれくらいを賞与原資とするか、算定の仕方を決定する段階です。指標に%を乗じるのが一般的です。何%にするかは、次の2つのアプローチで検討します。どちらかによるのではなく、両方から検証するのがポイントです。
ア.経営計画によるシミュレーション
経営計画基づき、計画通りに進んだとき、計画を下回ったとき、計画を上回ったときを想定して、いくつかシミュレーションを行います。
イ.過去の実績による確認
少なくとも過去5年間の指標と賞与実績の関係を確認します。
④ 激変を避けるための仕組みの検討
これまで賞与を安定的・固定的に支給してきた企業で、場合によっては賞与ゼロもありうるという制度をいきなり導入するのは困難です。不利益変更の問題もあるし、第一、社員のモチベーションに重大な影響を及ぼします。少なくとも、一定限度は原資を確保し、成果を上げた社員には報いる必要があります。
第一に考えられるのは、マイナスになりにくい指標を採用するというものです。上記例では、売上高基準や付加価値基準が該当します。
利益基準等を採用するのであれば、以下のような仕組みも検討すべきです。
ア.業績連動分とは別に固定分を設ける
業績連動型と従来型の折衷案です。業績連動分は営業利益の10%とし、これに加えて、賃金の2ヶ月分を原資とするなどです。2ヶ月分は最低保障分ということになります。実際にも、この手法を用いている企業は多いです。
イ.%ではなく定額制とする
営業利益5億円~7億円⇒原資5,000万円というように、あらかじめ業績範囲ごとの原資額を決めておく手法です。営業利益1億円以下⇒原資2,000万円といった形で最低保障分を確保します。
ウ.業績によって連動のさせ方を変える
たとえば、営業利益が5億円以上の部分は10%、2億円以上の部分は20%、2億円未満の部分は40%として、安定性を高める手法です。低業績時の保障とともに、高業績時の過大支給を抑制する仕組みにもなっています。
エ.低業績の際は労使間の協議事項とする
営業利益が1億円以下となった場合は労使間で別途協議をするといった形で決定を留保しておくものです。
オ.上限を設ける
アで最低保証分を述べましたが、反対に高業績時にあまりに賞与が高額となるのは、安定性の観点から望ましくないという考えもあります。そのために、1人当たり8ヶ月分を原資の上限とするといった決まりを設けるものです。
以上を組み合わせてもよいし、他にもいろいろ工夫点は考えられると思います。
いずれにしろ、従来の方式よりもメリハリが出てくるのは間違いありません。いや、メリハリがあるからこそ業績連動型賞与を導入する意義があるのです。減るケースの説明はもちろん、それ以上に、経営戦略や経営計画を踏まえて、どうすれば増えるのかを社員と話し合ったり、考えてもらったりすることが非常に大切です。業績連動型賞与を単なる賞与原資決定の仕組みに留めず、経営戦略の浸透・達成のツールとしても活用できればベストといえるでしょう。