目標管理の基本 |
第1講 目標管理とは何か
目標管理は、社員自らが目標を立て管理をすることで、組織業績に貢献していく業務推進手法の1つです。一連のステップの最終段階に評価があることから、人事評価、なかでも業績評価と結びついているケースが非常に多く見られます。
産労総合研究所の「2016年評価制度の運用に関する調査」によると、評価項目に「目標の達成度」を設定している割合は、一般社員で91.8%、管理職で94.1%となっており、目標管理が人事評価の主要ツールとして位置づけられていることがうかがえます。もはや、目標管理の理解なくして、適切な人事評価は進められないともいえます。
人事評価としての目標管理の特徴は、評価者である上司だけでなく、部下も目標管理というツールをしっかりと理解しておかなければならないということです。上司の側からすると、部下の目標管理に関与するとともに、自らの目標管理も実践しなければなりません。
そのような特徴を踏まえ、ここでは、目標管理の当事者(本人および上司)や制度の構築・運用を担う人事担当者として、押さえるべき基本事項を整理していきます。 第1講では、目標管理とはどういうものかを説明したいと思います。
1.目標管理の定義
まずは目標管理とは何か、定義づけておきましょう。
目標管理(MBO=Management By Objectives And Self‐Control)とは、一定期間に達成すべき目標を社員が設定し、それを本人と上司が管理していくことにより実現を図ること |
経営学の大家としておなじみのP.F.ドラッカーが1954年の「現代の経営」にて提唱したとされています。
定義にもあるように目標管理の目的は、“目標の実現”にあります。企業の目標は、顧客に何らかの価値を提供し利益を得ることといえます。つまり、利益獲得あるいは顧客への価値提供のために効果的なマネジメントを展開することが目標管理の本質です。
2.目標管理の「目標」とは?
では、目標管理における「目標」とはどういうものかといえば、次の2つの要件を満たす必要があります。これは、目標管理の大原則ともいえます。
① 組織と個人の目標が統合されていること ② チャレンジ性があること |
①に関して、留意点が2つあります。
1つ目は、組織の目標と関わりのない個人的な目標はダメということです。ただ、どこでその区分をするかに絶対的なルールはなく、各企業が定めることになります。たとえば、自己啓発目標をOKとするか、NGとするかは企業の考え方次第ということです。
2つ目は、個人の意向を無視した押し付け目標もダメということです。組織目標が前提であるといっても、そこに一方的なノルマのようなものがあっては、目標管理の目標として成立しません。
②に関しては、たいした努力もなく達成できるような目標はダメということです。ルーティンワークや毎年達成している目標などは原則としてNGとなります。そもそも当然に達成できることであれば、目標管理など必要ないと考えるべきでしょう。
3.目標管理の「管理」とは?
次に「管理」という点に着目してみましょう。これには、次の2つのポイントがあります。
① Plan-Do-Seeのマネジメントサイクルを回すこと ② 社員が自主的に管理をし、上司はその支援を行うこと |
①に関して、目標管理も「管理」である以上、マネジメントサイクルを展開することになります。当たり前のことなのですが、実際には、なかなか実行できていません。具体的にどのようなサイクルを回すかは、第2講にて説明したいと思います。
②に関して、目標管理の主役は社員であり、上司はサポート役ということです。これも、実行できていない企業が多々あり、中には、主従が逆転している組織も見られます。本来の言葉に“Self‐Control”とあるのを、見落とさないようにしたいです。
第2講 目標管理のしくみ
1.目標管理のしくみ
第2講では目標管理のしくみについて説明をします。前講で指摘したように目標管理も“管理”ですので、マネジメントサイクルをベースに、どのように展開していくかが焦点となります。
具体的には次の図のようになります。
<目標管理のしくみ>
マネジメントサイクルでPLANにあたるのが目標設定、DOにあたるのが目標に向けての実行活動、SEEにあたるのが達成度評価です。
個人のサイクルが目標管理であり、これらが集合して組織のサイクルを回すことになります。さらに、組織のサイクルが集合して、経営戦略を遂行し、企業の目標を達成していくことになります。このとき、個人のサイクルと組織のサイクルを歯車のようにかみ合わせながら回していくのがベストの状態です。歯車がスムースに回るよう潤滑油を差すのが上司の役目ともいえるでしょう。
2.組織目標との連鎖
個人のサイクルと組織のサイクルをうまくかみ合わせるためには、個人の目標と組織の目標がリンクしている必要があります。この点は、前回、目標管理の大原則の1つとして示したとおりです。
個人目標と組織目標との関連は次の図のようになります。
<組織目標との連鎖>
まず、経営計画の達成が経営者の目標であり、その手段として部門計画があるのがわかると思います。同様に、部門計画の達成が部長の目標であり、その手段として課長の目標、さらには社員の目標があります。 逆に言えば、それぞれの社員の目標が達成されなければ、課長・部長・経営者の目標は達成できないということです。
以上は、しくみとしては理解できると思うのですが、実際には、評価の上では個々の社員の目標は達成できているのに、部門の目標は未達という状況をよく目にします。これは、目標の連鎖がなされていないか、評価の仕方に問題があるかのどちらかが原因です。評価の問題は別の講に譲るとして、ここでは目標の連鎖の重要性をあらためて認識しておいてほしいです。
数値がハッキリする営業部門や生産部門は目標の連鎖を比較的認識しやすいのですが、そうではない管理部門などは意識を高めておくことが必要です。特に、階層が下にいくほど、経営計画とのつながりがあいまいになりがちですので、状況に応じた上司の適切なアドバイスが求められます。
第3講 目標管理の効果
第3講では目標管理を実施することの効果を説明します。目標管理の効果は、さまざまに指摘できますが、ここでは“3つのアップ”という観点から整理してみます。
1.目標管理の効果~3つのアップ
(1)モチベーションアップ
● チャレンジングな目標を達成したときに達成感を獲得できる ● 組織業績の中での自分の役割や貢献を認識できる ● 他者への貢献を通じ、自分の存在価値を認めてもらう機会となる ● 定型業務の中に創造性の発揮を持ち込むことができ、マンネリ防止になる |
第1講にて、目標実現のために効果的なマネジメントを展開することが目標管理の本質であると述べましたが、その裏付けの1つが、このモチベーションアップです。
つまり、目標管理には、このようなモチベーションアップ要因が内包されていることから、高いモチベーションを保つことができ、目標達成の可能性も高まるというわけです。
(2)能力アップ
● ストレッチ目標により能力の意図的な開発ができる ● PDSサイクルを自律的に回すことでマネジメント力の向上ができる ● 自己啓発目標を設定することで計画的な能力開発ができる |
ストレッチ目標というのは、背伸びをすれば達成可能な目標ということです。困難な目標にチャレンジすること自体、能力アップ要因となりますが、本人と上司が問題意識を持つことで、意図的な能力開発も見込めます。
また、マネジメント力はビジネスパーソンにとって最重要のスキルといえますが、あまりに基本的すぎて、なかなか意識する機会がないのも事実です。目標管理を実施することで、目標管理シートというツールにより視覚的な理解が得られ、スキルアップを図ることが期待できます。
さらに若手社員などが、目標管理に自己啓発を取り入れることで、能力開発を効果的に進められます。
(3)組織のパフォーマンスアップ
● 目標連鎖により組織目標や施策が具体的に実践できる ● 組織目標達成に向けて、職員のベクトルを合わせることができる ● 組織内のコミュニケーションが活発になる |
3つ目は組織の観点からの効果です。組織目標の達成のためには、メンバー1人ひとりが適切に行動しなければなりません。その適切な行動を導き出すのが目標管理という仕組みです。
上記のうち、コミュニケーションの活発化は、上司-部下という1対1の間だけでなく、部署全体にも広げたいです。そのためには、管理者の果たす役割が重要となります。
具体的には、設定した目標の公開や進捗状況のミーティングなどにより、メンバーがそれぞれの目標を共有し、互いに助け合いながら組織目標の達成につなげていく仕組みを管理者がつくることが求められます。
2.3つの効果の意義
(1)3つのアップの相互関連
以上の3つは、図のようにそれぞれが関連し合っています。
モチベーションがアップするから、能力もアップします。その逆に、能力がアップすることで、ますますモチベーションが高まります。
また、社員のモチベーションがアップすれば、組織パフォーマンスもアップするでしょうし、逆に、組織パフォーマンスがアップすることでモチベーションは高まります。
さらに、社員の能力アップは組織パフォーマンスのアップに直結しますし、組織パフォーマンスの向上は、より高度の課題や新たな課題にチャレンジする機会をもたらし、能力アップにつながります。
3つが相互に影響し合い、高いレベルに向かっていくようになると、目標管理制度としても大成功ということになります。
(2)3つのアップの活用
また、3つのアップは、低い目標しか設定しないなど、目標管理に消極的な社員を主体的に取り組ませたいときの説得材料として活用することができます。
たとえば、「高い目標をクリアすることで大きな達成感を味わえるよ」とか、「計画性をもって仕事を進められるようになり、将来の大きな財産になるよ」、「あなたの目標達成は、会社の目標達成に不可欠なんだよ」といった具合です。
社員の実態に応じ、活用の仕方を考えるとよいでしょう。
第4講 目標管理がうまくいかない要因
前講では目標管理の効果を説明しましたが、そのような効果を発揮できていない企業がたくさんあるのも事実です。目標管理を導入したけれど、うまく機能せず、「余計な仕事」と化し、自然消滅していくというのもよくあるパターンなのです。
第4講では、なぜ目標管理がうまくいかなくなるのか、その要因を考えてみましょう。これを確認しておくことで、制度が機能不全に陥るのを、ある程度避けられると思います。
うまくいかない5要因
(1) 自主性のないノルマ管理 (2) 過度の自主性尊重 (3) 会社や組織の目標が不明確・魅力がない (4) 目標難易度の相違 (5) 目標到達レベルが不明確 |
(1) 自主性のないノルマ管理
ノルマ管理では、強い押付感とやらされ感が生じ、達成への意欲は高まりません。そもそも、社員自ら目標を決めるのが目標管理の本質であり、押し付け目標では目標管理といえないことは、第1講にて指摘したところです。
(2) 過度の自主性尊重
ノルマ管理はNGだからと言って、過度に自主性を重視するのも注意が必要です。「部下に任せている」を口実に、実態は無関心というのもよくある事例だからです。上司が目標管理に関心を持たなければ、部下がやらなくてもよいと思うのは当然です。
(3) 会社や組織の目標が不明確・魅力がない
会社や組織の目標が不明確であったり魅力がなかったりすると、そもそも何のために自分は目標達成するのかがわからず、組織への貢献が実感しづらくなります。よくあるのが、組織目標はあるけれども、毎年同じような文言であったり、根拠のない数値を示したものに過ぎなかったりするケースです。また、説明不足で社員に浸透していない場合もあります。いってみれば、組織目標自体が形骸化しているのです。そうであれば、社員の目標管理が形骸化するのも当たり前です。
(4) 目標難易度の相違
4つ目は目標設定時の問題です。目標難易度が社員によって違うと、評価に不公平感が出てきます。高い目標を立てて未達に終わるよりも、低い目標を達成して評価を得ようというインセンティブが働きますので、全体が簡単な目標設定に流れ、チャレンジしなくなるという現象が起きます。結果として、目標管理の本来の目的である組織業績の向上は期待できなくなります。
(5) 目標到達レベルが不明確
5つ目も目標設定時の問題ですが、顕在化するのは達成度評価の段階です。到達レベルが不明確だと、本人と上司とで達成のイメージが異なるため、評価でもめるケースが出てきます。それが繰り返されれば、双方とも、こんな面倒なことはやりたくないという気持ちになってしまいます。やる気が起こらなければ、制度として機能するはずはありません。
以上、5つの要因から、制度への不信感が募りますが、会社の制度として決められたことですので、個人的にやめるわけにはいかず、「作文としての目標管理」という空しい作業が続けられることになります。当然のことながら、制度として機能せず、組織目標も達成できません。
また、指摘した5つは、やってはいけない目標管理の典型例ともいえます。すでに制度があるのなら、当てはまるものがないか、あるいは、その傾向がないか、チェックをしてみてください。
もしあるのならば、その要因に応じた対策を考える必要があります。特に(4)と(5)は運用上の問題となります。この点をどうすればよいかについて、第5講以降で述べたいと思います。
第5講 目標管理運用のポイント
第5講では、目標管理がうまく機能するための運用上のポイントを整理していきます。
1.適切なPDSがポイント
これまで何度も指摘したように、目標管理とは、目標についてマネジメントサイクルを回していくことです。したがって、目標管理の機能化のためには、PDS (Plan-Do-See)をいかに適切に行うかがポイントとなります。もう少し具体的に説明すると次のようになります。
① P:目標設定→適切な目標の設定
② D:進捗管理→達成を支援する進捗管理の徹底
③ S :評価とフィードバック→達成度の適正評価と次の目標への課題の明確化
「何だ、当たり前のことじゃないか」と思うかもしれません。実際、ごく当然のことなのですが、うまく実践されていないのも事実なのです。
①の適切な目標とはどういうものでしょうか。これには2つの要件があります。
1つは、「何を」「どれだけ」「いつまでに」「どのように」が明確であることです。最初の3つを目標3要素といいます。したがって、目標3要素+達成手段(どのように)が明確になっているものが適切な目標の第一要件です。
もう1つは、意味のある目標であることです。目標3要素の「何を」の部分ですが、明確であれば何でもよいというわけではありません。では、どのような目標かといえば、これも何度も指摘しているように、組織目標の達成につながるものということになります。企業の組織目標ですので、言い換えれば顧客満足につながるものといえます。
①~③の3つのどれか1つが欠けても目標管理は機能しません。たとえ一所懸命に進捗管理を行い、適正な評価をしたとしても、設定した目標が組織目標と関係なければ、組織業績の向上という目標管理の目的は達成できないのです。また、どんなにすばらしい目標を立てても、いい加減な進捗管理をすれば、目標達成はおぼつかないことも理解できるでしょう。
では、3つを適切に行うために何が必要かといえば、P・D・S各段階において本人・上司間のコミュニケーションをしっかりとることです。これが極めて重要となります。なぜなら、両者が相互に関与することで、達成へのチェック機能が働くとともに、本人の達成意欲も高まるからです。
コミュニケーションの場としては、目標設定面談、中間面談、評価面談が主要なものとなりますが、進捗管理については日常的なものも重要となります。
2.目標管理はマネジメントツール
目標管理は評価に用いられることが多いため、達成度評価に最重点が置かれるケースがあります。もちろん、達成度評価も大切ですが、それと同等に目標設定や進捗管理が大切となることを理解してほしいと思います。目標管理は評価ツールではなく、マネジメントツールであることを再認識したいです。
部下に目標を立てさせ、進捗管理を行い、適正に評価するというのは、考えてみれば管理者として当たり前の仕事です。目標管理制度を導入しなくても、成果を上げている管理者はこれを実践しています。目標管理制度は、そのようなマネジメント手法を、管理者全員がシステマティックに進めるためのツールと考えるのもよいでしょう。
以上、第5講では目標管理の運用上のポイントが適切なPDSにあることを示しました。次回以降、PDSの具体的なポイントを解説したいと思います。
第6講 目標設定のステップ~その1
前講で述べたように適切な目標とは、目標3要素+達成手段が明確になっていることと、意味のある目標であることです。
適切な目標を設定するためには、的確なステップを踏むことが必要です。求められるステップは次の6つです。
ステップ1 | 前提事項の整理 |
ステップ2 | ニーズの確認 |
ステップ3 | 対応する課題の抽出 |
ステップ4 | 目標および達成期限の設定 |
ステップ5 | 達成手段の検討 |
ステップ6 | 目標設定面接 |
このうち、ポイントとなるのはステップ1と2です。これが適切に実施されれば、ステップ3以降は適正に進めやすくなります。逆に、ステップ1・2を誤ると、意味のある目標の設定が望めず、ひいてはその期の目標管理自体が失敗する可能性が高くなります。
第6講では、ステップ1の「前提事項の整理」について解説します。
ステップ1.前提事項の整理
目標管理シートを前に、今期の目標をどうしようかと考える段階をイメージしてください。このとき大切なのは、いきなり具体的な目標を考えるのではなく、まずは、前提となる事項を整理することです。前提となるのは次の5点です。
① 前期の到達点 ② 前期の反省点 ③ 環境変化 ④ 自己の役割 ⑤ 会社目標と組織目標 |
①②は、前期は何をどこまでやれたのか、反省すべき点は何だったのかを再確認することです。前期の結果を活かすということであり、これこそが目標管理というサイクルを回すことになります。
仕事というのは継続性があるものです。したがって、目標設定時に一定の到達点があるはずで、これが今期のスタート地点となります。他者から業務を引き継いでいるのであっても同様です。
ただし、全く新しく開始する事業やプロジェクトであればゼロからのスタートということになります。とはいえ、これまでの経験から、仕事を進めるうえでの反省点や注意点があるはずですので、全く新規の取り組みであっても、その点の確認は必要です。
③の環境変化には、大きく外部環境(社外)の変化と内部環境(自社)の変化があります。あるいは、マクロ環境変化とミクロ環境変化という切り口も考えられます。
分析にあたっては、SWOTや3C、PESTなどの枠組みを使うのもよいでしょう。 目標設定をするのは、1年あるいは半年くらいのスパンになると思いますが、今の時代、半年も経てば何らかの環境変化があるはずです。何がどのように変わっているかの認識は、意味のある目標設定に欠かせません。
④の自己の役割とは、現在の部署・職位・職務で果たさなければならない使命・任務のことです。単に「○○の業務をこなすこと」ではなく、担当業務を通じて、顧客や関係者にどのような価値を提供する必要があるかを明らかにするのがポイントです。会社や部署のミッション等が明示されているのなら、それを踏まえて考えるのもよいでしょう。
最近は、目標管理シート上にこのような欄を設ける企業も多くなりました。それだけ、目標管理において自己の役割の明確化が重視されるようになったということでしょう。
⑤の会社目標と組織目標も極めて重要です。意味のある目標とは、組織目標に貢献する目標のことですので、そのためには、会社・組織目標をしっかりと認識しておく必要があるからです。その理解がなければ、組織目標と個人目標との連鎖は望むべくもありません。上司には、部下に会社・組織目標を理解してもらうために、必要性や背景なども含め十分に説明することが求められます。
第7講 目標設定のステップ~その2
目標設定のステップについて続きをみていきます。今回は、ステップの中でも重要となる「ニーズの確認」を説明した後、残りのステップを概観します。
ステップ2.ニーズの確認
ニーズとは、下記のようにあるべき姿と現状とのギャップのことをいいます。
同様のことを問題解決の枠組みでは“問題”といいますが、問題というと悪い所を修正するというイメージになりがちです。そうではなく、現状、満足のいくレベルであっても、さらに良くしていくことも含めるため、ここではニーズという言葉を用います。
ニーズこそが意味のある目標の源泉ですので、ニーズの整理は目標設定ステップの核になるといえます。
ニーズを見つけるには、やみくもに探るのではなく、体系的に考えていきたいです。そのための切り口として、ニーズを次の3つ分けるとよいでしょう。
ア.顧客・関係者のニーズ
顧客や取引先、関連部署、社員等から求められていること。あるいは抱えている問題。
イ.職場のニーズ
職場内で求められていること。あるいは抱えている問題。
ウ.業務上のニーズ
自分の担当業務で改善したいこと。
目標管理に慣れていない社員などから、「目標がはっきり思い浮かばない」「適当な目標が立てられない」といった当惑の声が上がることがあります。
どうしてそうなるのかといえば、課題を認識していないからです。そして、課題を認識していないのは、ニーズが何かをとらえていないからです。さらにその原因を追究すると、現状を整理・認識していなかったり、あるべき姿を描いていなかったりするからです。より根本的には、自分の役割をよく理解していないことに突き当たります。
実際には、これらを全くしていないことはないのですが、不足していることがよく見られます。目標がうまく立てられない場合は、まず、そもそも自分(あるいは部下)の役割が何かを考える(考えさせる)ことから始めるのも大切です。
そのうえで、上記の枠組みに従い、各項目を検討していくのがよいでしょう。
以降のステップ
以下、残りのステップを簡単に説明します。
ステップ.3 対応する課題の抽出
これらのニーズの中から、取り組むべき課題を選び出すことになります。どれを抽出するかの判断は、重要性と緊急性の2軸から検討するのが基本です。
ステップ.4 目標の設定
課題をいつまで、どのレベルまでもっていくかを検討します。この時点で目標として明確化することになります。
ステップ.5 手段の検討
目標達成に必要な手段を検討します。
ステップ.6 目標設定面接
目標の妥当性、内容の確認、達成レベルの摺合せなどについて、目標管理シートに基づき本人と上司とで話し合い、最終的に目標を確定させます。
以上、2回にわたって目標のステップを説明してきました。
目標設定は場当たり的に行うものではありません。前年のシートを見ながら、言葉や数字を適当に置き換えていくような不毛なことはやめにしたいです。自分の役割に照らして、どうすれば新たな価値が産み出せるかを、言い換えると設定する目標に本当に価値があるのかを十分に考えていきましょう。
第8講 進捗管理の仕方
第8講では、目標管理においてPDSサイクルの“D(do)”となる進捗管理のポイントを説明します。
1.進捗管理とは?
進捗管理とは、目標達成のための実行計画を、差異分析により軌道修正していくことです。
軌道のズレは、早目に行えば元に戻すのは簡単ですが、放っておくと修正は不可能となります。つまり、適切な進捗管理は目標達成に不可欠のものといえます。
進捗管理は社員が主体となって行うものであり、上司はそのサポートをしていくというのが原則です。
サポートのタイミングは、社員のレベルや目標の内容にもよりますが、中間点で1度はきちんとした面談の機会を持つようにしたいです。それ以外にも、日常的なコミュニケーションの中で適宜確認をすることが必要です。このとき、「やり過ぎ」には注意しなければなりません。“進捗監視”と受け取られると、社員のヤル気を損なってしまうからです。
2.進捗管理での確認事項
どのようなことを確認するかは、次の6つの観点からチェックするとよいでしょう。
① 進捗状況・進捗度合はどうなっているか
まずは計画通りに進んでいるかのチェックです。その前提として主体的に差異分析を行っているかの確認も必要です。
② 問題は発生していないか、解決の方策は練られているか
この場合の問題は広義でとらえることが大切です。つまり、計画を下回っている場合はもちろん、計画通りだとしても、さらに上回るためにどうするかを考えるということです。要は「問題は必ずある」という認識で臨むことです。
③ 目標の妥当性に変化はないか
環境変化などで当初の予測とは違った状況になるケースがよくあります。業績向上に寄与するのか、適切に評価できるのか、といった観点から目標の妥当性をチェックし、場合によっては目標の修正、変更、削除等の対応が必要となります。
④ 当初に考えた施策や手段は有効か
③と同様に、状況が変わることで達成手段に変化が生じることがあります。その点をあらためて確認する必要があります。
⑤ 達成するための今後の課題は何か
進捗段階においては、現状のチェックや修正で手一杯というケースが多くなります。ただ、マネジメントおいては先を見据えることも非常に大切です。上司の立場からは、その習慣をつけてもらうためにも、今後の課題を考えさせることが求められます。
⑥ 支援してほしいことはないか
目標達成のために、ヒト・モノ・カネ・時間・情報等、上司から支援できることはないかの確認です。
3.進捗管理における留意事項
目標管理におけるPDSの中で、P(目標設定)やS(達成度評価)に比べて、進捗管理は長期間にわたるのが特徴です。したがって、進捗管理がマズイと、目標管理に対する社員の熱が冷めてしまうことがあります。これを避けるために次の3点に留意したいです。
① 社員の目標に関心を持つこと
上司の関心が低ければ、部下は目標達成に力を入れなくなります。言わなくてもわかるだろうではなく、社員の目標達成が組織目標の達成に不可欠であり、大きな期待を寄せていることを、進捗管理の中で言葉や態度に示すことが大切です。
② 上司が本気であることを示すこと
上司が本気であれば、社員のヤル気も高まります。それを示すために、単に「頑張れ」でなく、上記の確認事項で指摘したような具体的支援を心がける必要があります。
③ 主役は社員の認識を持つこと
目標管理は社員が主体的に取り組むことが原則です。これにより、社員は目標達成への動機づけが図られ、マネジメントスキルを向上させることができるのです。あやつり人形であっては、達成の喜びも感じられませんし、成長も期待できません。主役は社員、上司は支援者の意識を持ち、主導権を奪わないよう心がけましょう。
第9講(最終講) 達成度評価の仕方
第9講では、達成度を評価する際のポイントを説明します。目標管理をマネジメントサイクルに置き換えた場合、Plan-Do-SeeのSeeに該当するステップです。
1.達成度判断の原則
達成度の判断は、「結果がすべて」が原則です。つまり、当初設定した目標レベルと比べて、どの程度到達しているかを判定することになります。「目標に向かって頑張ったこと」や「まじめに取り組んだこと」を評価するのではありません。また、他者と比べるものでもありません。唯一絶対の基準が、設定した目標レベルということです。
ただ、企業によっては目標に至るプロセスも評価するケースもあります。このときにも、まずは結果がどうであったかを判定したうえで、プロセスも評価するという具合に、2つを分けて検討することが重要となるでしょう。
「結果がすべて」とすると、次のようなケースで、対応に困る場合があるかもしれませんので、基本的な考え方を示しておきます。
① それほど努力していないけれど達成
例)経済環境に恵まれた、誰かの支援があった、ライバル企業が自滅した等…… ⇒達成は達成として評価する |
このような場合でも、達成度を評価します。ただ、目標達成に向かって努力が不足しているのは見過ごせない問題ともいえます。そこて、そのような努力や取組姿勢といった成果に至るプロセスは、能力評価や行動評価でカバーする必要があります。
② 懸命に努力したけれど未達成
例)想定外の障害が発生した、他の突発業務に時間を取られた等…… ⇒達成は達成として評価する |
①とは逆のパターンですが、同様に達成度を評価することになります。もちろん、能力や行動評価でフォローすることも可能ですが、それはそれとして、次の点から救済されていたり、対応の仕方が不十分であったりするケースもありますので、その検証が必要です。これにより、次回以降は改善が期待できるようになります。
・設定した目標が高すぎた→(困難度の設定があれば)困難度で加点されている ・環境変化があった→目標の変更/修正で対応する ・努力の中身に問題があった→基本的に自己責任である |
2.達成度評価の目的
さて、このように目標管理の評価においては達成状態のみをドライに査定するわけですが、これは次の達成度評価の目的を考えれば、極めて当然のことといえます。
① 業績向上のために必要な措置や対応策の実施につなげること
② 職員の能力開発の課題を明確にすること
つまり、努力や取り組み姿勢など達成度とは関係のない事柄を評価に含めると、達成度の判定をゆがめ、これらの目的に向かっての取り組みにズレが生じてしまうのです。たとえば、本来到達できていない目標を、頑張りを認めて到達できたことにすると、次の目標に向けてのスタート地点を誤ってしまうということです。
どれだけ到達したかを正しく把握することが、目的実現のカギとなります。目標管理活動において、評価は終わりではなく、次のサイクルのスタートと位置づけることが大切です。
3.適正な評価の前提
最後に、評価を適正に進めるための前提を述べておきます。それは、目標設定時に本人と上司との間で目標達成状態を共有化しておくということです。
まずはB評価(100%達成)の状態の共有化が必要ですが、それだけでなく、顧客満足度の高さ、コスト、スピード、波及効果等の視点から、A評価・C評価のケースを想定・共有化しておくと、スムースな評価が期待できるようになります。
各目標についてこの作業をするのは結構大変かもしれませんが、目標の妥当性や達成手段の妥当性の確認にもなり、ひと手間かける価値は十分にありますので、ぜひ実施してみてください。
9回に分けて目標管理の基本を確認してきました。あらためて思うのは、目標管理というのはマネジメント活動であり、そのスキルを磨くための絶好のツールになるということです。
今日、目標管理はビジネスだけでなく、スポーツや教育などにも広く用いられるようになっています。それだけ、「成果」を出すために有効であることが認められてきたということでしょう。 今回の基本をベースに、評価者・被評価者それぞれの立場から、自分なりの目標管理手法を開発していくよう願っています。