■制度構築後の人事部門の役割 Column No.8 | |
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■評価のグレシャムの法則 Column No.9 | |
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■人事考課と人事評価 Column No.11 | |
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■介護業界での人事評価の必要性 Column No.12 | |
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■人事制度の変遷 Column No.13 | |
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■年俸はどれくらい下げられるのか Column No.14 | |||||||||||||||
次に年俸制に関する判例を見てみよう。判例では、使用者と労働者の間で新年度の年俸額について合意が成立しない場合には、
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■目標管理とモチベーション Column No.15 | |
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■ 権限移譲の必要性とポイント Column No.16 | |
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■ 住宅補助の廃止 Column No.17 | |||||||||
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■ 非正規労働者4割についての雑考 Column No.18 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■ 留学費用の返還 Column No.19 | |
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■ 就労条件総合調査について Column No.20 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■ 取締役会と集団的浅慮 Column No.21 | |
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■ 技能実習の安易な受入は禁物 Column No.22 | |
外国人技能実習制度は、諸外国の青壮年労働者を一定期間産業界に受け入れて、産業上の技能等を修得してもらうという制度である。 創設されたのは1993年で、約20年にわたって日本の国際貢献の一翼を担ってきたわけだが、一方で、実習期間中は労働基準法上の労働者とみなされなかったため、さまざまなトラブルも生じた。 一時期、最低賃金法の下限をはるかに下回る賃金での労働や、過酷な労働環境で実習生の失踪が相次いだことなどが問題となったことを記憶している方も多いと思う。 このため、2010年からは制度が改正され、座学以外の実習期間中は労働関係諸法の適用を受けることになり、少なくとも時給300円といった劣悪な労働条件での雇用はなくなった。 ただ、以前のような低コスト労働者として受入は弱まったとはいえ、最低賃金を支払えば労働力を確保できるということで、人手不足の地域などでは結構なニーズがある。 技能実習は、企業自らが受け入れを行う企業単独型と、商工会や中小企業団体等の営利を目的としない団体の斡旋を通じて受け入れを行う「団体監理型」の2種類があり、ほとんどは後者の方式で実施されている。 団体も慈善事業ではなく、実習生1人あたり数万円という手数料が得られるので、企業等に「売り込み」をかけている。中には、”最低賃金でよく働く労働者を供給します”といったブローカーまがいの営業を展開する団体もあるようだ。 しかしながら、この受入を安易に行うのは禁物だ。もちろん、制度の趣旨を理解したうえで、それに則って実施するのであれば何ら問題はない。ただ、単なる労働力確保のための受入ならば、慎重な対応が必要である。 確かに出稼ぎ感覚でやってくる者がいるのも事実で、その場合は、双方のニーズはマッチするのだが、技能向上を目的とする労働者も多くいる。 そういった労働者は、技能修得のことなどほとんど考えていない会社の意向をすぐに察知するに違いなく、処遇に不満が生じるのは目に見えている。 2・3ヶ月の短期間なら我慢もするかもしれないが、実習は3年間という長期にわたるものであり、何らかのトラブルが発生しないほうがおかしい。 受入企業の中には、「実習生は応募にあたって受入機関に保証金を払っているので、少々待遇が悪くても簡単にやめたりはしない」と考えているところもあるようだが、保証金は現制度では禁止されている。そもそも、そういった強制労働を肯定するような発想をすること自体が情けない。 そのような労働力を受け入れても、職場の雰囲気がよくなるはずもなく、トータルで見て会社のメリットになるかは、はなはだ疑問である。 制度目的と違うという「理想論」だけでなく、次のような実際的なデメリットもある。 ①賃金を最低賃金とした場合には、他のパート等の賃金との差からトラブルのおそれがあること。また、パート並みを支給すれば、監理団体への手数料も加えるとメリットが薄れること ②「実習」という趣旨から、単純労働ばかりさせるわけにはいかないこと、また、長時間労働もできないこと ③技能実習計画の作成と、これに基づく指導が求められること ④宿泊施設を確保しなければならず、このとき労基法の寄宿舎の規定が適用されること ⑤事前に日本語の研修を受けるとはいえ、どれだけ意思疎通できるかは不明なこと ⑥実習期間終了までの有期労働契約となるため、途中の解雇は困難なこと 以上から、種々のトラブルの発生や、現場社員への負担の増加が懸念されるのは明らかだ。 労働力確保の面があってもよいが、それ以上に、技能修得・国際貢献という意識が強くなければ、結局のところ、金銭的・時間的・精神的コストが多大にかかった挙句、会社・従業員にも実習生にもメリットのないLose-Loseの関係に終わってしまうリスクが高い。 受入れを考える企業は、この辺のことを検討したうえで、慎重な判断をすべきだろう。 (2011年12月5日) | |
■上司と部下とのコミュニケーションギャップ Column No.23 | |
1.課長・一般社員ともコミュニケーションは取れていると感じている この結果からわかるのは、ある程度のコミュニケーションは取れてはいるものの、上司に比べて部下の方では満足のいくレベルに達していないということだ。 いくつかの会社で同様のテーマでアンケートを取ったり、調査結果を確認したりしたことがあるが、やはり同じ傾向が見られた。厳しい言い方をすれば、上司のコミュニケーションは自己満足に陥っているのだ。 コミュニケーションの主要な目的には、①人間関係の構築と円滑化、②情報の提供、③相手の行動喚起、の3つがある。 注意しなければならないのは、これらの目的を達成できるかどうかは、すべて相手次第ということだ。つまり、コミュニケーションの効果は、送り手ではなく受け取る側に決定権があるということである。上司としては、十分にコミュニケーションを取っているつもりでも、それが有効かどうかは部下に委ねられているのだ。 見方を換えると、コミュニケーションにおいては、自分の意図は完全には伝わらないことを念頭に置くべきともいえる。しっかりと伝えたいならば、それなりの時間や工夫が求められる。といっても、多忙の中、部下とのコミュニケーションばかりに時間を費やしているわけにもいかない。どうしても伝えたいこと、理解してもらいたいこと、行動してもらいたいことには、これまで以上に丁寧なコミュニケーションを心がけるべきだろう。 特に重要となる事項は、可能な限り口頭でのコミュニケーションによるのが賢明である。それも、相手の表情がわかる面と向かっての対話が一番だ。そして、どれだけ理解し、納得してもらえたかを相手の言葉で確認すべきである。 このとき、「わかったか?」「はい、わかりました」では確認とならない。 誰が、何を、いつまでに、どのようにするのかが、自分の意向と合致しているかをチェックしておく必要がある。 (2012年4月23日) | |
■60歳以降の働き方~その1 Column No.24 | |
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■60歳以降の働き方~その2 Column No.25 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3.独立
雇用延長の仕方は、定年の引き上げ、再雇用制、勤務延長、定年制廃止のいずれでもかまわない。たとえば、65歳定年制であっても、60歳到達段階で職種を選択してもらうという制度でもよい。 また、これらすべての選択肢を設ける必要はもちろんない。規模や業種、社員のニーズに応じて適切なものを選択すればよい。 重要なのは、60歳に到達した社員が自己の希望に応じて働き方を選べる制度を提示することだ。選択肢が増えればそれだけ、バラエティに富んだ個性を活かす場も増える。長きにわたって培ったノウハウを活かすことで、企業と社員の双方が満足を得られれば最高である。 (2012年5月28日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■60歳以降の給与を理解するために~その1 Column No.26 | |
給与が高くなれば手取りも増える‥‥・はずだが、これが確実にいえるのは59歳までだ。 社員が老齢厚生年金を受給できるようなる60歳以降は、必ずしもそうはならず、給与を低くした方が、手取りが増えるケースもある。下手な給与設定によっては、会社も社員も損をすることになりかねないのだ。 このことを、経営者や人事担当者は何となく知ってはいる。だが、具体的な話になると、複雑かつ面倒との思いから、ついつい敬遠してしまっていることが多い。結果として、60歳以上の社員の給与について、合理化ができるにもかかわらず放置されているという実態がある。 いや、簡単に「放置されている」で済まされる話ではない。実際、もらえるべきものをもらえず、年に数十万円の損をしている社員もいるのだ。しかも、会社として人件費を抑えられるチャンスを逃していることにもなる。 専門家でなければ手が付けられないことならともかく、少しの労力を注いで仕組みを理解すれば、メリットが期待できるだけに非常にもったいない話だ。 当コラムでは、これから数回にわたって、60歳以降の給与を理解するためのポイントをまとめていく。細かな例外的な事項にとらわれず、ざっくりと基本的な事項を押さえておけば、けっして難解な仕組みではないことがわかっていただけるだろう。 仕組みを理解するうえで大切なキーワードとなるのが、「特別支給の老齢厚生年金」「在職老齢年金」「高年齢雇用継続基本給付金」「加給年金」の4つだ。今回はまず、「特別支給の老齢厚生年金」について簡単に説明する。 ●特別支給の老齢厚生年金 老齢厚生年金は、原則として65歳から支給されるものだが、厚生年金や国民年金などの被保険者期間が25年以上あるなどの一定要件を満たした人には60歳から支給される。これを特別支給の老齢厚生年金という。一般的な会社員であれば、その受給権はあるはずだ。 特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分からなっている。 このうち定額部分は、男性の場合、2001年から段階的に支給年齢の引き上げが行われており、現在は64歳にならないともらえず、2013年4月2日からは65歳となる(女性は5年遅れで、現在は63歳、2018年4月2日から65歳)。つまり今年度は、特別支給の老齢厚生年金の定額部分が受給できる最後の年というわけである。 一方の報酬比例部分は、2013年4月2日より61歳からの支給となり、その後、2025年まで段階的に引き上げられることになっている。この時点で、男性の特別支給の老齢厚生年金はなくなり、65歳からの年金支給の仕組みが完成する(女性は2030年)。 このように、60歳になれば老齢厚生年金が受け取れるといっても、現在は報酬比例部分だけであり、これも今年度いっぱいである(※注1)。ちなみに、2009年のデータでは、老齢厚生年金の平均月額は15.7万円で、内訳は不明だが、大ざっぱに言って報酬比例部分が10万円、定額部分が残りの5.7万円といったところだ。 (次回に続く) ※注1)被保険者期間が44年以上ある長期加入者や3級以上の障害者等は、現在も60歳から全額受給できるが、厚生年金未加入が要件となっている。 (2012年6月5日) | |
■60歳以降の給与を理解するために~その2 Column No.27 | |||||||||||||||||||||||||||
60歳以降の給与を理解するためのキーワードとして、前回(No.26)では老齢厚生年金の説明をしたので、今回は在職老齢年金の説明をしよう。 ●在職老齢年金 60歳以上の厚生年金の被保険者が、企業に勤めながら老齢厚生年金を受給するときには、給与額に応じて年金額の一部または全部を支給停止される。このような調整を受けて支給されるのが在職老齢年金である。「それだけの給料があるのだから、年金は減らしますね」ということだ。(在職老齢年金の仕組みは共済年金等の他の被用者年金にもあるが、ここでは厚生年金を前提に話を進める) それでは、働きながら老齢厚生年金をもらうと、どれだけ支給が減らされるかをみていこう。仕組みとしては、60歳~64歳までの場合と65歳以上の場合との2つがある。 まずは60歳~64歳までの場合で、支給停止額の計算方法は以下のとおり4パターンある。
※給与=総報酬月額相当額‥‥標準報酬月額+過去1年間の賞与の1月分 ※で示した通り、給与は正確には総報酬月額相当額といい、過去1年分のボーナスを含むことに留意してほしい。単に月の賃金だけではないということだ。なお、1回の賞与の上限は150万円となっており、たとえば、夏季180万円、冬季200万円の賞与があったとしても、総報酬月額相当額は(150万円+150万円)÷12で計算する。 また、額面の給与ではなく、社会保険料の基準となる標準報酬月額を使用する。このため、給与を少し下げることで、標準報酬月額が低額となり、社会保険料の減額と同時に支給停止額の減額も期待できるというわけだ。 さて、4パターンもあることから、在職老齢年金は複雑との印象を受けるが、実は年金月額が28万円超というのは一部の高給取りの方で、ほとんどは28万円以内に収まる。また、60歳以降は雇用形態が変わることが多いため、給与も48万円以下となるケースが多く、結局のところ、ほとんどはパターンAを適用すればOKである。 また、65歳以降の場合はもっとシンプルで、次の2パターンだ。
在職老齢年金の留意事項として知っておきたいのは、厚生年金に加入しなければ減額はされないという点である。 在職老齢年金の対象となるのは、“厚生年金の被保険者”であり、週の労働時間を30時間未満にして厚生年金未加入となれば、どれだけ報酬があろうと年金は1円も減額されないのだ。 ただし、厚生年金未加入には問題もある。最大のデメリットは、厚生年金とセットになっている健康保険に加入できなくなるため、国民健康保険に加入しなければならなくなることだ。また、配偶者が60歳未満であれば、配偶者の国民年金への加入も必要となる。どちらも、全額自己負担のため、保険料負担は確実に増えると考えた方がよい。 (2012年6月11日) | |||||||||||||||||||||||||||
■60歳以降の給与を理解するために~その3 Column No.28 | |||||||||||||||||||
3回目は、60歳以降の給与を理解するためのキーワードの3つ目、高年齢雇用継続基本給付金を説明する。 ●高年齢雇用継続基本給付金 高年齢雇用継続基本給付金は雇用保険から給付されるもので、支給要件は次の3つの要件をすべて満たすことだ。 ①60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者であること ②雇用保険の被保険者期間が通算して5年以上あること ③60歳以後の給与が、60歳到達時賃金月額(=「賃金月額」:到達時前6ヶ月の給与の平均額)と比べて75%未満に低下していること 支給期間は、60歳に到達した月から65歳に達する月までである。 ③の要件をみればわかるように、60歳以降の給与をある程度下げることにより、この給付金をもらえる可能性が出てくるということだ。 給付金の計算方法は、各月の給与の低下率によって次の2パターンに分けられる。
パターンBの計算は複雑なので、ハローワークのパンフレットのP7にある早見表を参照するとよい。 高年齢雇用継続基本給付金に関する留意点は以下の事項である。 ①みなし賃金が算定される場合 60歳以降の給与が次の理由で下がった場合は、その分は支払われたものとみなして低下率を計算する。 ア.本人の非行等による懲戒が原因である減額 イ.病気、負傷等による欠勤、遅刻、早退による減額 ウ.事業所の休業による減額 エ.妊娠、出産、育児、介護等による欠勤、遅刻、早退による減額 ②支給限度額以上の場合 ア.給与が支給限度額344,209円(H24年7月末まで)以上の場合は支給されない。 イ.給与と給付金の合計が支給限度額344,209円(H24年7月末まで)を超える場合は、支給限度額と給与との差額を支給する。 ③最低限度額以下の場合 支給額が下限額1,864円(H24年7月末まで)以下の場合は支給されない。 ④「賃金月額」の上限と下限 60歳到達時の賃金月額は、算定した額が451,800円を超える場合は451,800円となり、69,900円を下回る場合は69,900円となる(金額はH24年7月末まで)。 ⑤失業等給付を受給した場合 失業手当をもらうと、雇用保険の期間がリセットされるため、高年齢雇用継続基本給付金はもらえなくなる。 さて、この高年齢雇用継続基本給付金だが、年金とは別に全額もらえるかといえばそうはいかず、老齢厚生年金を受給しながら給付金を受けると、年金を減額される場合がある。併給調整による減額の計算方法は次による。 ア.60歳以降の給与を標準報酬月額に変える イ.過去1年間の賞与は考慮しない ウ.60歳到達時賃金月額を60歳以降の標準報酬月額で割る これにより算定した低下率に応じて以下の2パターンがあり、その額が老齢厚生年金から減額される。
低下率が75%以上であれば減額はない。Bについては、上記のパンフレットP8に早見表がある。なお、高年齢雇用継続基本給付金が不支給となった月は、併給調整は行われない。 (2012年6月25日) | |||||||||||||||||||
■60歳以降の給与を理解するために~その4 Column No.29 | |
第4回目のテーマは加給年金だ。この加給年金を受給できるかどうかが、60歳以降の給与の命運を分けるといってもよかった。加給年金は全額もらえるか、全くもらえないかのゼロサムであり、金額も大きいからである。言葉を換えると、加給年金をもらえるように給与を設定するのが大きなポイントであったということだ。 過去形で書いているのは、現在では、加給年金のメリットがそれほど期待できなくなったからで、その理由は次に述べる。 ●加給年金 加給年金とは、老齢厚生年金における扶養家族手当と考えればよい。支給額は、配偶者がいる場合で年約40万円である。 受給の条件は次の5つ。 ① 本人の厚生年金の被保険者期間が20年以上あること ② 生計維持している65歳未満の配偶者または18歳の年度末までの子を有すること ③ 配偶者や子のそれぞれの年収が850万円未満であること ④ 配偶者の厚生年金加入期間が20年未満であること ⑤ 報酬比例部分と定額部分の年金が支給されていること このように、条件は厳しいものではなく、受給可能な人は結構多い。ただし、気をつけなければならないのは⑤の条件である。 老齢厚生年金のところで指摘したように、男性の場合、現在では定額部分は64歳にならないともらえないため、加給年金が受給できるのは64歳以降になるのだ。そして、2013年4月2日からは、65歳にならないと加給年金はもらえなくなる。女性の場合は、現在、62歳から定額部分ももらえるので、62歳から加給年金も受給できるが、夫が上記②~④を満たす例はあまりないだろう。 それでも、加給年金を受給できるチャンスがあるのなら、できるだけもらえるようにしたい。少し考えて給与を設定すれば受給できるのに、もらえないケースがあるのだ。どういったケースかといえば、在職老齢年金が全額支給停止している場合で、上記⑤の要件を満たさなくなるのだ。このとき、給与を引き下げて、極端な話1円でも老齢厚生年金を受給できるようにすれば、加給年金も受給できるようになる。年金が一部でも支給されていれば、加給年金は停止にならないからだ。 ●その他のルール 今回は最終回ということで、これまで触れていなかったその他のルールも指摘しておこう。 ①70歳以上の在職老齢年金 70歳以上は厚生年金の被保険者でなくなるが、昭和12年4月2日以後生まれの者は在職老齢年金の対象になる。 ②1人1年金制 老齢厚生年金と遺族厚生年金、障害厚生年金は同時に受給できない。 ③遺族厚生年金、障害厚生年金と給与との関係 給与をもらいながら、遺族厚生年金または障害厚生年金を受給しても併給調整はない。ただし、遺族厚生年金は、年収が850万円以上の場合には支給停止となる。 ④失業給付と老齢厚生年金の関係 失業給付(基本手当)の支給を受けている間は、65歳未満に支給される老齢厚生年金は全額支給停止となる。 ⑤給与以外の収入と年金の関係 給与や賞与以外の収入、たとえば不動産収入などは年金に影響しない。 ⑥厚生年金基金の場合の併給調整 厚生年金基金加入の場合は、上乗せ分(=基金給付分)も含めて同様の併給調整を行うが、先に国の支給分で支給停止し、それを超える額について基金給付分で支給停止することになっている。 以上、4回にわたって60歳以降の給与を理解するためのポイントを整理してきた。 大企業はともかく、中小企業であれば、社員の個別の事情に合わせて給与を設定するのもそれほど困難ではないと思う。社員にとっても会社にとっても嬉しい給与の支払い方を、この機会にぜひ再考してみてほしい。 (2012年7月9日) | |
■業績連動型賞与の指標の特徴 Column No.30 | ||||||||||||||||||
業績連動型賞与を導入する企業が増えている。 2008年の日本経団連の調査では、対象318社のうち147社(46.2%)が導入している。4年経過している現在では、大企業ではおそらく50%を超えていると思われる。 業績連動型賞与を導入するにあたっての最大の関心事は、何を指標に採用するかだろう。今回は、主な指標の特徴を整理してみたい。 特徴の説明の前に、あらかじめ指標を選ぶ際のチェックポイントを示しておく。これを確認しておくことで、各指標のメリット・デメリットがより鮮明になるはずだ。
では、主な指標をみていくことにしよう。 (1)売上高 売上高の最大の特徴は、指標として極めてわかりやすいことで、上記チェックポイントの②は、売上高が一番といえる。また、売上目標を立てない企業は存在しないと思うので、①も満たしている。ただ、30年前ならともかく、現代の企業は売上高よりも利益を重視する傾向にあるので、この点は後述の営業利益や経常利益に劣ると考えられる。 売上高に重きを置く業種であり、社員が直接的に売上高に関与するケースが大きい、流通業やサービス業向けの指標である。 (2)付加価値 付加価値は会社が産み出した価値の総額で、売上高から、他社から購入した価値を引いたもの、大ざっぱに言えば粗利益のことだ。付加価値は会社の経営成果であり、成果に貢献してくれた者に分配されることになる。つまり、社員には人件費、銀行には利息、行政には税金、株主には配当、役員には賞与、そして会社には利益留保である。ちなみに、付加価値に占める人件費の割合、つまり社員の取り分を示す比率が労働分配率である。 メリットは、成果配分という性格を持つ賞与のベースとして、説得力があることだ。また、社員の報酬の源泉が付加価値にあることを意識づけ、価値の創出の重要性にあらためて目を向けさせてくれる点もある。 一方デメリットは、付加価値を経営目標とするケースはあまりないこと、社員にはなじみが薄いこと、損益計算書に直接示される数値ではないので計算が必要なことなどである。また、販売管理費や一般管理費のコストダウンへのインセンティブは働かない。そんなこともあってか、建設業など、外注の効率活用が生命線となるような業種を除いては、それほど人気があるとはいえない指標である。 (3)営業利益 営業利益は、非常にわかりやすいのが最大のメリットだ。また、経営計画の目標数値として間違いなくあげられるはずである。付加価値と違って、販管費にも社員の関心を向けさせ、コストダウンの動機づけを図れる。資金運用部門などを別にすれば、社員の業務に何らかの形で関連する。営業利益は企業の本業の成績なので、それを賞与の基礎とするのも納得性が高い。P/Lで示されるので入手は容易である。このように営業利益は、チェックポイント①~④のいずれもクリアする。業績賞与の指標として、もっともバランスがとれており、一番人気がある指標である。 (4)経常利益 営業利益と同様に非常にわかりやすい指標である。経営計画でも目標となるはずだ。また、全社員の業務に関連づけができる点もメリットである。ただし、社員の努力の及ばない数値が入るので、やや納得性に欠ける面もある。このため、償却前の利益(減価償却費や引当金控除前)を使うこともある。営業利益の次に人気がある指標である。 (5)営業キャッシュフロー 在庫管理や売上債権管理などについての社員の努力が個別の項目にはっきり表れるので、特定部門の社員の納得性は非常に高まる。上場企業であれば、決算書の1つとして作成するので、計算の必要はない。ただ、一般的に、経営計画で目標値として重視される指標ではないだろう。当期利益が使われるので、コストダウンのインセンティブとしては弱い。CFを理解していないと納得性を得にくい点もデメリットといえる。 (6)その他‥‥ROA、ROE、EVA等 会社が戦略指標として活用していれば整合性は高く、①の面で優れている。また、P/Lだけでなく、B/Sの視点や株主の視点など、多面的な業績連動ができる。 ただ、多くの社員にとってはほとんどなじみがなく、理解も得にくいことが最大のデメリットである。また、ROAやROEならまだしも、EVAは計算が複雑な点もやっかいだ。資本の有効活用に責任を持つ、管理職向けの業績指標である。 実際の採用事例をわかる範囲であげておこう。内容は導入時点のものなので、現在は変わっている可能性がある。
以上はあくまで「一般論」であり、大切なのは自社に合った指標を選ぶということだ。「ウチは売上高が何よりも大事、売上高の拡大こそがすべて」という企業であれば、売上高を採用すればよい。そのような一貫性のあるスタンスは、社員の納得性を高め、業績連動型賞与の最大の狙いである業績向上にも貢献するはずである。 (2012年8月21日) | ||||||||||||||||||
■人事部門に求められる「情報収集力」 Column No.31 | |
人事部門の仕事には大きく、 1.制度や規則等の作成と運用業務 2.採用、賃金、福利厚生、安全衛生等、社員へのサービス業務 の2つがある。これらを適切に遂行していくうえで重要となるのは、 ①何が問題となっているのかを見出す問題発見力 ②そこから適切な課題を設定する課題設定力 ③具体的な制度を策定する創造力や計画力 ④制度や事務を適切に運用・遂行していく事務管理力 といった能力である。もちろん、前提として人事労務に関する専門知識も必須である。 そしてこれらは、当然、人事部門における地位によって、求められるレベルが異なる。 たとえば、部長クラスであれば、①>②>③>④であろうし、課長クラスであれば②=③>④>①、担当者レベルであれば④>③>②>①といったものになるだろう。 いずれにしろ、求められるのは物事を理詰めできちんと進めていくタイプで、「まっ、こんなのでいっか」とアバウト・ナアナアに済ませていくというタイプではない。 「能吏」とは公務員に対して使う言葉だが、企業の人事部員にもぴったりと当てはまる。 ところで、人事部門に求められる能力には、もう1つ重要なものがある。これは上記①に関連するのだが、一言でいえば「情報収集力」である。 つまり、問題発見のためには、その前提として現状に関する情報が必要なわけで、社員が仕事環境に関してどのような思いを抱いているかを知ることが、これからの人事政策を展開するうえでとても重要になるということだ。 必要な情報の中でも、特に大切なのは社員のナマの声である。 もちろん企業もそのことはわかっているので、人事のマネジャーなどが全社員と個別の面談をしたりする。 これはこれで意義はあるのだが、ここでいうナマの情報とは、そのような公的な場で得られる「発言」ではなく、仕事中についついこぼしてしまうような愚痴である。さらに言えば、もっともっとドロドロした社員の本音である。 評価、給与、昇進・昇格、福利厚生などの人事制度面に対する不満から、ムダな仕事の多さ、無意味な会議、無能な上司・部下、面倒な人間関係、絶望的な長時間労働など、挙げればきりがないが、仕事や組織に関する不満は山のようにあるはずだ。 公式的な面談では、これら不満の氷山の一角しかつかめない。人事マネジャーがソフトに「気になることがあれば、何でもいいからおっしゃってください」と言っても、社員はどうしても構えてしまって、頭の中で整理された「格好のいい不満」しか耳にできない。 だからといって、社内にスパイのような存在を放って、密かに情報を集めるというのも非現実的だ。 そこで必要となるのが、社員の心の奥底に積もった不満を、日常的につかむことができる能力をもった人材である。 いや、能力というよりは資質に近いかもしれない。そのような情報というのは、努力して集めるよりは、自然と集まってくるものだからだ。 簡単に言えば、愚痴をこぼしやすい人、文句を言いやすい人で、どこの企業にも必ずいると思う。 育児休業のことで電話があったのだけれど、「そういえば、この前箱根の保養所に行ったけど、スタッフの愛想が悪かったよ」など、ふと思いついたようなことをついでに言われてしまう人である。こういう、取るに足らない情報の蓄積が大切なのだ。 ただ、得てしてそういう人は、能吏とは正反対のタイプなので人事部門には少ない。というよりは、人事に向かない人材として、遠ざけられているような気がする。 最近では、人事は社員へのサービス部門という認識が高まってきている。良いサービスを提供するために、顧客の気持ちを理解することが重要となるのは言うまでもない。 その意味で、顧客(=社員)の思いに直接数多く接することのできる、このような人材は、今後の人事部門に不可欠といえる。 ある程度の企業規模で人事部員が何人もいるのなら、こういうタイプが1人いてもいいだろう。 すでにいるのなら(ひょっとして使えないヤツと持て余していても)、貴重な情報を集めてくれるという視点で見れば大きな戦力となるはずである。 (2012年9月25日) | |
■配置転換に伴う職務給の減額 Column No.32 | |||
賃金の減額には、制裁措置によるもの、降格や降級によるものなどがあるが、職務給(職種別賃金)を採用している企業では、価値の高い業務から価値の低い業務に異動した場合にも起こりうる。 職務給の考え方からすると、これはごく当然のことなのだが、職種ごとの賃金相場が確立しているアメリカならともかく、基本的に賃金が下がることのない職能給主体の日本では、配転によって賃金が変わることはほとんどなかった。頻繁なジョブローテーションによりゼネラリストを養成することを奨励した日本企業では、むしろそのシステムは好都合でもあった。そのせいか、配転によって賃金が下がるのは「あってはならないこと」と考えられているようだ。 配転に伴う賃金減額についての代表的な判例である「デイエフアイ西友事件(東京地裁平成9.1.24)」では、次のような判断が示されている。
他にも配転に伴う賃金減額の判例はいくつかあるが、総じて使用者に厳しい判決を下している。 賃金減額は素直に考えれば、労働条件の不利益変更にあたるので、安易な実施は禁物であることは理解できる。ただ一方で、同一労働同一賃金をうたう職務給制度のもとでの賃金減額には一定の合理性があるとも考えられる。 前置きが長くなったが、今回は、職務給のもとでの配転に伴う賃金減額の法的な有効性を検討してみる。なお、ここでは、降格や降級を伴う配転ではなく、純粋に職種が変わることによる賃金減額をテーマとする。 先の判例のポイントは次の2つだ。 (1)賃金の減額は、以下の場合以外は認められないこと ①労働者の同意がある場合 ②懲戒処分としての減給処分である場合 ③その他特段の事情がある場合 (2)配転と賃金は別の問題であること この2点を見る限り、職務給であっても賃金減額はNGという結論になりそうである。ちなみに③の「その他特段の事情がある場合」とは、労働者の適性・能力・実績が著しく劣っていたり、経営状態がひどく悪化していたりするようなケースと考えられるため、これを当てはめるのも無理がある。(2)に至っては、職種によって価値は異なるとする職務給の発想とは正反対ともいえる。 ただ、判例を読む限りは、2例とも職務給制度は採用していない可能性が高く、職務給であれば多少は違った見解が見られたかもしれない。 また、いずれも給与額が半分程度まで減額されているのも、減額を不可とした根拠になったと思われる。 では、職務給の場合の賃金減額は認められないのか? 認めるとするなら、何を根拠とすればよいのか? 根拠の1つと考えられるのは、上記の判例後に制定された労働契約法である。労契法第10条では、就業規則による労働条件の不利益変更は、下記の一定の要件を満たせば、労働者の合意がなくても認められることを示している。 ・変更後の就業規則を労働者に周知させること ・労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであること 職務給制度は就業規則や賃金規定で明文化されているはずなので、職務給の仕組みや内容が妥当で、社員にも理解されていれば問題はないということだ。一方で、職種が変わることで、合理的な理由なく収入が半減するというような仕組みであれば、「労働者の受ける不利益の程度」が過大で「内容の相当性」も低く、不利益変更は認められないという結論になるだろう。 職務給だからといって、給与に大きな差を設けるのは考えものということだ。どうしても差をつけたいのなら、賞与等によるのが適切だ。当然ながら、職務間異動のルールもきちんと定めておく必要がある。 職務給を採用する企業では、給与額にレンジのある範囲職務給とすることで、賃金に変動が生じないようにしているところも多いと思うが、まったく減額が発生しないということはないだろう。その際には、ぜひ上記の点に気をつけ、できるだけクリアな制度となるようにしてほしい。 (2012年12月4日) | |||
■総額人件費管理の基本的枠組み Column No.33 | |||||||||||||
リーマンショックや東日本大震災の痛みからようやく立ち直ったかと思いきや、中国での騒動により日本経済は再び低迷してきた。 雇用環境にも悪影響が出ており、つい最近も、シャープが約3,000人を希望退職させたことや、高収益企業として知られるロームが初の希望退職者募集を実施することなどがニュースとなった。また、中高年を本業から外し、“転職先を見つけることを新たな仕事に命じる”などの陰湿な退職強要があるとの雑誌記事も目にした。 欧州危機やアメリカの財政問題、中国経済の失速など、世界経済も明るさが見えないことから、企業の収益環境は厳しいといわざるをえない。そのような中、企業は最大の費用項目である人件費管理には、ますます注目をしていく必要があるだろう。 ただ、人件費というのは社員に直接的に関わる問題であり、やみくもに削減すればよいというものではない。そもそもムダがないところを削っていけば、企業の体力は間違いなく落ちていくし、ムダがあるにしても、どこにどのようなムダがあり、どれだけ、そしてどのように無くすかの検討なしに削っても効果は期待できず、弊害の方が大きいだろう。 求められるのは、企業が成長していくために必要な人件費を適正にコントロールしていくことだ。本コラムでは、企業の適正な人件費管理・・・総額人件費管理について、どのように考えて取り組んでいけばよいかについて整理してみる。 今回はその前半として、総額人件費管理の基本的枠組みを取り上げる。総額人件費管理にあたって、何を検討していけばよいかをざっくり示したものである。なお、執筆に際して、高原暢恭著「人件費・要員管理の教科書」(労務行政)が非常に参考となったことを付記しておく。 ●総額人件費とは? 前提として、総額人件費とはそもそも何かを体系的に整理しておこう。 総額人件費とは、 A:現金給与総額(所定内給与、所定外手当、賞与・一時金) B:(退職金、法定福利費、法定外福利費、現物給与、教育訓練費、その他) からなる。単に賃金として支給するものだけではなく、社員にかかる費用を広い概念でとらえる点がポイントである。 ちなみに、所定内給与を1とすると、現金給与総額はその1.3~1.4倍、総額人件費はその1.6倍というのが大体の目安だ。 また、現金給与総額を1とすると、総額人件費はその1.2倍といったところであり、総額人件費を1とすると、現金給与総額はその0.8倍だ(下記参照)。
●総額人件費管理の基本的枠組み 基本的な枠組みを理解するために、まず、押さえておきたいのは次の総額人件費の算出方法である。 総額人件費=1人当たり人件費×要員数 つまり、総額人件費の管理とは、 1.1人当たり人件費のコントロール 2.要員数のコントロール ということだ。では、以下それぞれについて内容を掘り下げていこう。 1.1人当たり人件費のコントロール 1人当たり人件費のコントロールの対象となるのは次の5つである。 (1)給与制度 (2)賞与制度 (3)退職金制度 (4)福利厚生制度 (5)雇用形態 (1)給与制度は、①基本給の中身をどうするかといった仕組みに関する事項と、②ベア・定昇、昇給ルールといった賃上げに関する事項とに分けられる。①は給与制度の根本的な改革につながっていくことにもなる。 (5)雇用形態とは、正社員にするか、パートタイマーや派遣労働者等の非正規社員にするかということだ。一般に正社員に比べて、派遣労働者は2分の1、パートタイマーは4分の1の人件費で済むといわれている。 2.要員数のコントロール 要員数のコントロールとは、企業にとっての適正要員数を把握し、それを維持管理していくことだ。適正要員数を把握するには、次の3つのアプローチがある。 ①財務アプローチ →目標利益から適正要員数を把握する ②業務アプローチ →必要業務量から適正要員数を把握する ③戦略アプローチ →経営戦略の視点から適正要員数を把握する イメージとしては、①②のアプローチにより各々要員数を把握し、③の視点から差異を調整して決定するというところである。 以上、総額人件費管理を進めるにあたっての基本的な枠組みを示した。 次回は、この基本枠組みのもと、どのようなことに取り組んでいけばよいかを考えていきたい。 (2012年12月17日) |
■総額人件費管理の取り組み課題~その1 Column No.34 | |
総額人件費管理をどのように進めていくか、今回は第2回として、取り組み課題を整理してみる。前回と同様、高原暢恭著「人件費・要員管理の教科書」(労務行政)を参照させていただいた。 取り組み課題として挙げられるのは次の3つである。 1.人件費の分析 2.適正要員数の検討 3.1人当たり人件費の見直し 前回も指摘したとおり、 総額人件費=1人当たり人件費×要員数 なので、1で現状および将来の人件費の問題点を把握し、2であるべき要員数に、3であるべき人件費構造に是正していくというイメージである。 では、それぞれ具体的にみていこう 1.人件費の分析 (1)人件費の現状分析 まずは現状の人件費の分析だ。これには、財務指標分析と賃金水準分析の2つがある。 ①財務指標分析 ・付加価値率 ・労働分配率 ・労働生産性 ・1人当たり人件費 ・1人当たり売上高/営業利益/経常利益 等について、経年・同業種比較・競合比較を行う。 付加価値の計算方法には、加算法(日銀方式、財務省方式が代表的)と減算法(中小企業庁方式が代表的)があり、どれを使ってもよい。同業種比較をしたいのであれば、全国的なデータが入手できる財務省方式が適しているし、計算が簡単なのは日銀方式である。損益分岐点分析なども併せて行いたいのなら、減算法がよい。 いずれにしろ、計算方法によって結構数値が変わる(特に減算法は加算法よりも付加価値が大きくなりやすい)ため、同じ方法を用いることがポイントだ。 1人当たり人件費は、退職金や福利厚生費、教育訓練費といった現金給与総額以外の人件費にも着目する必要がある。単に1人当たり人件費の高低だけでなく、どの費目が高いのか低いのかまでつかんでおきたい。 ②賃金水準分析 ・年齢/勤続年数別の年収比較 これについては、競合比較は困難と思われるので同業種比較を行う。データには、厚労省の賃金基本構造統計調査等がある。 (2)人件費の将来予測 マストではないが、余力があれば将来的にどうなるかの予測にも取り組みたい。これは、次のステップで実施する。 ①現状の社員構成の整理 等級制度があるのならば、等級ごとの人員構成をまとめる。等級制度がなければ、職位(役職)別でもかまわない。 ②今後10年間の社員構成の予測 現状の昇格ペースを参考に、今後10年間に①の社員構成がどう推移するかをシミュレーションする。このとき、新卒採用と定年退職による社員の入れ替えも考慮する。ただ、新卒採用者数が予想できないときは、現状の社員数を維持する形で検討する。 ③今後10年間の人件費の検討 ②に等級ごとの平均給与(昇給込)を掛け合わせ、人件費がどう推移するかを試算する。 ④損益予測 ③で計算した人件費に基づき、経常利益がどうなるかを予測してみる。シミュレーションにあたっては、現在の売上が伸びた場合、同じだった場合、低下した場合など、いくつかのパターンを考える。 (3)問題点・課題の把握 以上から、問題点の抽出と課題の把握を行う。財務指標分析は、やり始めると切りがなく、問題点が拡散しがちになるので、人件費に関連する事項に焦点を絞るよう留意したい。最大のポイントは、1人当たり人件費はどうか、従業員数はどうかである。 ・・・当初の予定では2回のコラムで終えるつもりだったが、想定以上にボリュームが増えてしまった。取り組み課題の「2.適正要員数の検討」「3.1人当たり人件費の見直し」については、次の機会にまとめることにしたい。 (2012年12月24日) |
■出向先での賃金減額 Column No.35 | |
先日、ある企業から、出向している社員の賃金を引き下げることができるかという相談があった。今のところは自社(出向元)と同額の賃金を支給しているものの、出向先の業績が芳しくなく、先方から減額の打診を受けているとのことである。今回はこの件について検討してみる。 まず整理しておきたいのは出向命令を出す際の留意点である。 一般に理解されているのは、「出向を命じるには労働者の同意が必要であるが、それは就業規則による包括的同意でかまわない」ということだ。 これは間違ってはいないが、その中身に注意する必要がある。判例で確立している考え方は、就業規則や労働協約に出向を命じうる旨の規定があり、なおかつ、出向によって賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないように制度が整備され、出向が実質的にみて配転と同視されるような場合には、労働者の個別的同意がなくても出向を命じることができるというものである。単に、「社員を出向させることがある」といった規定では不足で、現状レベルの労働条件の保障が求められるのだ。 この点については労働契約法にも、 「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は無効とする(第14条)」 と示されている。 具体的には、業務上の必要性と出向者の労働条件や生活上の不利益とを比べ、労働条件が大幅に下がる出向や復帰が予定されない出向は、整理解雇の回避等、それを肯定する企業経営上の事情がない限りは権利濫用とされる。 社員の出向に関しては、就業規則や出向規程で、「給与・賞与などの労働条件について不利な取り扱いをすることはない」旨を規定することが多い。相談を受けた企業では、それに加えて、「出向者の給与・賞与は、出向先が全額負担できない場合はその差額を自社が負担する」ことも明記していた。 以上のことから、賃金の引き下げは困難であり、出向先の賃金を下げたとしても、出向元にて差額負担をしなければならないのは明らかである。 なお、個別に労働契約を変更することで賃金を引き下げることも考えられるが、労働契約法第12条で、 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とする。無効となった部分は、就業規則で定める基準による」 と定めていることから、出向規程で賃金保障をしている以上、相談企業では労働契約変更による賃金減額も不可となる。 それでも賃金減額をしなければならないとすると、考えられる手段は転籍である。 転籍であれば、元籍会社の賃金保障などはなく、転籍先の賃金制度に従って支給を受けることが通常だからである。 ただし、転籍は会社の命令で行うことはできず、原則として労働者の個別の同意が必要となる。 同意を得る際には、当然ながら転籍後の労働条件等を説明する必要があり、このとき目先の給与・賞与だけでなく、退職金がどうなるかなど将来的な不利益も説明しなければならない。 当然、社員の理解を得られる可能性は低いが、会社の事情も説明したうえで、新たな労働条件に納得をしてもらえれば、転籍により賃金減額は可能といえるだろう。 (2012年12月31日) | |
■総額人件費管理の取り組み課題~その2 Column No.36 | |
総額人件費管理には3つの取り組み課題があり、前回(№34)は1つ目の「1.人件費の分析」を説明したところであるが、今回は「2.適正要員数の検討」と「3.1人当たり人件費の見直し」について解説する。 2.適正要員数の検討 (1)3つのアプローチ 適正要員数を検討するには以下の3つアプローチの仕方がある。 ①財務アプローチ ②業務アプローチ ③戦略アプローチ ①財務アプローチ 財務アプローチでは、目標利益を達成するためにはどれだけの人件費が許容されるかという観点から適正要員数を検討する。 直近の損益データあるいは利益計画を用いて、目標とする経常利益を出すには、人件費がいくらであればよいかシミュレーションをする。もちろん、人件費以外の経費のコストダウンにより利益を増加させることも可能だが、問題が複雑化するのを避けるために、まずは人件費のみのコストダウンにポイントを絞る。 許容人件費を算出し、これを1人当たり人件費で割ると、目標利益達成に必要な要員数が出てくる。 部門別(本社・製造・営業等)の損益データがあれば、これを活用して部門ごとの適正要員数を算定することもできる。 部門別損益を出していない企業でも、営業部門に本社・製造の費用を売上高や要員数に応じて適宜配賦することで、適正要員数の目安は策定可能である。 ②業務アプローチ 業務アプローチでは、全社員への業務調査を行って、業務ごとの適正労働時間数を試算し、これを所定労働時間で割ることにより適正要員数を設定するというのが正当な方法である。非常に手間暇はかかるが、業務の効率化につながるという実際的なメリットも期待できる。 このような方法がとれない場合は、たとえば管理者へのヒアリングを通じて適正労働時間をつかむなど、より簡易な手法をとることになる。 ③戦略アプローチ 経営戦略の視点、長期的な成長の視点等から、一定要員数を確保する必要のある部署を検討する。たとえば、メーカーにおける研究開発部門や製品開発部門などは長期的な競争力の源泉となる部門であり、一律的なコストダウンにそぐわないともいえる。このような部門を、トップの判断で一種の聖域扱いすることも必要となる。 (2)適正要員数の決定 ①~③のアプローチから、適正要員数を決定する。このとき、既存組織の枠組みだけでなく、組織の統廃合も視野に置きながら検討すべきである。たとえば、人事部の適正要員数が5.5人、総務部の適正要員数が6.5人となったのなら、人事総務部に統合をして12人とするなどである。 (3)適正要員数に是正していくにあたっての留意事項 当然ながら、適正要員数が設定されたからといって、その人数に合わせるために社員を解雇すればよいというわけではない。退職者の状況を踏まえながら、ある程度時間をかけて進めていく必要がある。 3.1人当たり人件費の見直し 1人当たり人件費の見直しの内容としては以下のものだが、分析を通じて課題となった部分にスポットを当て修正をしていくことになる。 (1)給与制度の見直し ①賃上げ(ベア・定昇)の見直し ②仕組み・昇給ルールの見直し (2)賞与制度の見直し (3)退職金制度の見直し (4)福利厚生制度の見直し (5)雇用形態の見直し このとき、注意しなければならないのは、特に(1)~(3)の場合は不利益変更を伴うケースが多いので、労働法的にも、また社員のモラール的にもなかなか実施しづらいことである。 したがって、一般的には1人当たりの人件費の見直しよりも、適正要員数への是正を優先すべきといえる。 もちろん、見直しの必要性が大きければ実施すべきではあるが、社員に対する説明をしっかりと行いながら、着実に進めていく必要がある。 ~参考:高原暢恭著「人件費・要員管理の教科書」(労務行政) (2013年1月9日) | |
■職務給の基本事項 Column No.37 | |||||||||||||||||||||
ある中小企業(製造業)から職務給を導入したいとの相談があった。現在の職能給が年功的運用となっており、人件費の高騰化を抑制したいとのことである。 なぜ職務給なのか、能力給や役割給、業績給等ではダメなのかの検証が必要となるが、とりあえず本コラムにおいて、職務給の基本事項を確認してみたい。 今回は職務給の基本事項である。 職務給とは、「職務そのものの難易度、責任の度合いなどを評価し、職務によって賃金を決める方式」(日本経団連出版「人事労務用語辞典」)である。具体的には、総務、人事、経理、秘書、営業、営業管理、製造ライン、生産管理、品質管理、研究開発等々、職務によって賃金額や賃金テーブルが異なる給与制度である。たとえば人事という職務を、人事制度運用、給与、採用、研修といった具合にさらに細かく分ける場合もあるが、アメリカのように職種ごとの賃金相場が確立していない日本では、事務職、営業職、生産職、研究開発職といった、より大きなくくりとする場合もある。 職務給が企業にどれくらい導入されているかを調べたところ、職務給そのものではないが、“役割・職務給”という分類でのデータが日本生産性本部にあるのを見つけた(「日本的雇用・人事の変容に関する調査」)。2009年の結果は次のとおりである。 ●管理職
●非管理職
思ったより多いという印象だが、調査対象が上場企業というのも影響しているだろう。後で述べるが、職務給の導入や制度維持には手間暇がかかるため、ある程度の専門人材が求められるからだ。 ところで、2007年の調査では、管理職合計は72.3%、非管理職合計は56.7%となっており、99年以降右肩上がりで増えてきた導入割合が2009年に減少していることに気づく。“行き過ぎた成果主義”の揺り戻しのせいか、賃金の職務給化は一段落という状況である。 職務給のメリットは、 ①同一労働同一賃金という合理性がある ②成果と賃金をリンクさせやすい ③年功的賃金から脱却により、人件費の抑制ができる などが挙げられる。一方、デメリットは、 ①職務異動による賃金低下が起こりうるため、柔軟なジョブローテーションをしにくくなる ②職務調査・職務評価が必要で、導入やメンテナンスに手間がかかる ③単一給(シングルレート)だと基本的に昇給がないため、社員のモチベーションが下がる などである。このうち、特に問題となるのはデメリット①で、頻繁なジョブローテーションによる人材育成を特徴とする日本企業では、この点をクリアするのが最大のカギといえる。 次回は、職務給をどのような体系にすればよいのか、具体的なモデルをいくつか検討していきたい。 (2013年1月29日) | |||||||||||||||||||||
■職務給の具体的モデル~その1 Column No.38 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前回は職務給の基本について確認を行った。今回は職務給の具体的なモデルを、いくつかのパターンに分けて整理してみよう。整理にあたっては、「役割・貢献度賃金」(日本経団連出版)を参照した。 賃金体系は、対象者が管理職か一般社員かによって大きく異なるので、次の3つに分けて検討する。 1.一般社員の定型的職務(一般事務職、現業技能職、販売職等) 2.一般社員の非定型的職務(企画職、調査職、営業職、研究開発職等) 3.管理職 では、それぞれを説明しよう。 1.一般社員の定型的職務 (1)職務給(単一型)+習熟給(積み上げ型)(表1) 定型的職務の内容は人によって大きく変動することがないため職務給をメインとし、仕事の量や質は習熟度によって異なることから、習熟度合いに応じて習熟給を支給するという考え方である。 (表1)
習熟給の昇給度合いは、習熟度評価によることになる。たとえば、習熟度をA~Dの4段階に分けて、Aなら3号俸アップ、Dなら据え置きといった具合である。 なお、表2のように、習熟給の賃金表を作成せず、上限だけを設定しておいて、人事評価に基づく昇給額を示すという方法もある。 (表2)
また、今のご時世では定額の昇給が困難ということであれば、表3のように人事評価部分を指数方式にすることも考えられる。 (表3)
昇給基準額を毎年の業績に基づいて決定し、これに指数をかけることで習熟昇給額とするものである。ただ、昇給額がわからない、たとえ良い評価を得ても前年より少額となる可能性があるなど、社員の不満を高める要素もある。 (2)職務給(範囲型)(表4) (2)は、職務給に習熟度を含めて一本化したものであり、(1)と本質的には同じである。シンプルではあるが、わかりやすさからいえば習熟度を分離した(1)の方が適切だろう。 (表4)
(3)職務給(単一型)+習熟給(レベル別定額)(表5) (1)(2)の方式のネックとなるのは中途採用者への対応で、中途採用者は1号俸からスタートさせるか、適当なところに貼り付けざるをえないことである。このデメリットを解消するのが(3)の方式である。 (表5)
(3)は、習熟度のレベルを毎年評価し、レベルに応じた習熟給を支給するものである。中途採用者の場合は、想定される習熟度に見合った習熟給を設定すればよいことになる。 この方式は洗い替え方式のため、理論上は賃金が下がることもありうるが、習熟度というのは経験が重要となるので、よほどのことがない限り下がることはなく、経年とともに昇給していくことを想定している。難点は、習熟度の基準づくりが難しいことや、昇給が数年おきとなるため社員のモチベーションに問題が生じる点である。 なお、これら以外にも年齢給や職能給との組み合わせも考えられるが、年功型賃金からの脱皮が求められているのが今日の大きな潮流との認識から、あえてそのようなパターンは除外した。 次回は、一般社員の非定型職務および管理職の職務給のパターンを検討してみる。 (2013年2月5日) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■職務給の具体的モデル~その2 Column No.39 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
職務給の具体的なモデルとして、前回は1.一般社員の定型的職務を説明した。引き続き今回は、2.一般社員の非定型的職務と3.管理職を解説しよう。 2.一般社員の非定型職務(企画職、調査職、営業職、研究開発職等) 一般社員の非定型職務は、習熟度もさることながら本人の能力や仕事上のセンスがより重要となる。一方で、まだ育成段階にあるので、業績を厳しく問うというよりは、さまざまな職場でたくさんの経験を積ませることが大切である。とすると、基本となるのは、 (1)職務給(単一型)+能力給(範囲型)(表6) (2)職務給(範囲型) である。能力給(範囲型)の設定の仕方は、前回1.一般社員の定型的職務で述べたように積み上げ型やレベル別定額がある。表6では積み上げ型を示した。 (表6)
一般社員でも上位クラス(係長・課長補佐等)となり、能力発揮の側面が強く求められることになれば、職務給の割合を高めることや、業績給を加えることなども考えられるだろう。 (2)職務給(範囲型)は、職務給に能力給要素を含めたもので、能力の発揮度合いに応じて昇給するというイメージである。事例は前回表4を参照してほしい。 3.管理職 (1)職務給(単一型)+業績給(積み上げ方式)(表7) 管理職は、自ら課題を設定し、その達成が求められるポジションであるため、職務給+業績給を基本とするのが合理性がある。 (表7)
業績評価に応じて給与額がドラスティックに変動する仕組みである。過去の実績はキャンセルされるので、業績給の設定は業績目標の達成度等、業績そのものによるのが適切である。 業績によっては大幅に下がることもありうるので、管理職の中でもある程度高額の固定給が確保できる上位クラスに向いている方式である。課長クラスに導入する場合には、変動幅をあまり大きくしないなどの配慮も必要だろう。 (2013年2月18日) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■65歳雇用延長の事例 Column No.40 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本年4月1日から高年齢者雇用安定法が改正され、高年齢者雇用確保措置として継続雇用制度を導入する場合、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定める仕組みが廃止される。 改正法が施行される2013年3月31日までに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた企業には経過措置があるものの、60歳以上の社員の雇用モデルについて抜本的な対応が必要となるのは間違いない。企業には自社の特性に応じたモデル構築が求められるが、他社がどのような対応をしようとしているのかは気になるところだろう。そこで本コラムでは、新聞等に掲載された事例を紹介・整理したいと思う。 まずは2013年2月8日付の日経新聞にて紹介された事例である。
次にネットや雑誌等で調べた事例である。
これらをみると定年延長の事例もあるが、定年延長は確実に人件費の増大につながり、財務的な裏付けがなければ難しい。将来はともかく、現時点で定年延長に踏み切る企業はまだ少なく、基本は再雇用制だろう。日本生産性本部の調査でも、9割は再雇用制を選択するとの結果が出ている。そして、大半は経過措置を設けるものと思われる。 ところで、雇用延長には人件費の問題とともに、社員のモチベーションの問題もある。これは、高齢社員だけでなく、高齢社員を”部下”として扱わなければならない若手社員の視点からも検討する必要がある。 モチベーション問題に対応する事例としては、以下のものがある(出典は日経ビジネス2013年3月4日号)。
65歳までの雇用が事実上義務化されることで、社員のモチベーションの問題は今後さらにクローズアップされるだろう。こういった事例を新聞等で目にする機会も多くなると思う。社員のモチベーションを高め、人件費以上の稼ぎを産み出してもらうことを理想に、自社の特徴に合った制度を考えてほしい。 (2013年3月11日) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■役員に対する臨時報酬 Column No.41 | |
社員の給与や賞与と違って、役員に対する報酬は社長が自由に決めるわけにはいかない。特に、いったん定められた報酬の期間途中の増額は、いわゆるお手盛りを防ぐことや利益操作に使われないようにするために、会社法や税法で厳しい規制がある。 では、特別な貢献のあった者への褒賞など、何らかの事由で期中に役員に対して臨時的な報酬を支給することができるだろうか? 結論としてはYESである。ただし、クリアしなければならない課題がいくつかあり、また、税法上の問題もあることに注意する必要がある。以下、説明していこう。 会社法では、役員報酬は定款で定めるか、株主総会決議によって定めることを規定している(361条)。定款の変更は、株主総会の特別決議が必要となるため、通常は総会決議で定める企業がほとんどである。 さて、法361条では総会決議で定める事項として、 ①報酬等のうち額が確定しているものについては、その額 ②報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法 ③報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容 の3つを挙げている。このうち②は業績連動型報酬のことであり、③は非金銭的報酬(たとえば社宅の提供やストックオプションの付与)なので、本件に関連するのは①となる。 つまり、①についてどのような総会決議をしているかだが、①の内容には、 ア.1年間の役員報酬総額の枠 イ.1カ月間の役員報酬総額の枠 ウ.1年間の役員ごとの個別額 エ.1カ月間の役員ごとの個別額 等、いろいろなパターンがある。この中で、アの1年間の役員報酬総額を定めておき、個別役員への分配は取締役会に委任するというのが一般的である(さらに、取締役決議で社長に一任することもある)。 アのような定め方をしていれば、今回の臨時報酬を含めた支給額が①の総額の枠内に収まるのなら、取締役会での決議により支給可能ということになる。 もし、枠内に収まらなければ、株主総会の決議が必要となる。この場合の決議方法は普通決議である。 このように本件は、取締役会あるいは株主総会の決議により支給は可能だが、留意しなければならないのは法人税法の定めにより、臨時報酬部分は損金扱いできないことである。 法人税法で損金にできる役員給与・賞与は、 ①定期同額給与 ②事前確定届出給与 ③利益連動給与 の3つで、本件はこれに該当しないためだ。本件は、①の定期同額給与に上乗せされて支給する形となるので、損金不算入となる。 唯一認められるのは、本件が会計期間開始の日から3ヶ月以内の改定で、臨時報酬分を残りの月数で割り、同額で支給するケースである。たとえば、3月決算の企業で、月額報酬100万円の取締役に50万円の臨時報酬を支給したいとき、7月分から105.6万円(100+50÷9)とするのである。これなら、①の定期同額給与ということで認められる。 すでに3ヶ月を過ぎており、それでも損金扱いにしたいというなら、次期の役員報酬にその分を上積みし、月割りで定額支給するしかないだろう。「臨時報酬」という意味合いは薄れてくるが、法人税と所得税の二重課税を避けられるメリットはある。 (2013年4月1日) | |
■採用面接の限界 Column No.42 | |
4月に入り、面接等の選考活動が解禁され、ビジネス街では着慣れないスーツ姿の学生を多く見かけるようになった。このところ2年続けて改善している内定率は、今年はさらによくなりそうで、学生にとって少しは明るい状況だろうが、バブル期のような売り手市場というわけにはいかず、就職活動が厳しいことに変わりはない。 一方、企業側からすると、買い手市場だからといって、必ずしも自社にマッチする人材が獲得できているわけでもないようだ。厳選したはずの人材が、まったく使えなかったり、常識では考えられない言動を示したり、挙句にあっさりと辞めたりという話もよく聞く。 結果として、企業はますます学生の選別に躍起となり、その手法に工夫を凝らす。特に充実を図ろうとするのは面接である。 採用にあたっては面接を重視する企業が多い。2012年の経済同友会の調査でも、「新卒採用の選考で特に重視するもの」で、大学院卒から高卒まで、面接が圧倒的な1位となっている。ちなみに大卒/大学院修士修了の2位は適性検査(SPI等)、3位は学校での専攻分野/研究内容である。 企業は人物本位とか人物重視という言葉が大好きで、それを面接で見分けようとするのだ。 このように採用というのは面接を抜きにして考えられないわけだが、面接による選抜手法が優れているかといえばそうでもなさそうだ。組織心理学において、面接では次の5つのエラー・問題点が起きることが指摘されている(参考:「産業・組織心理学」山口裕幸他・有斐閣)。 ①即時的決定 面接の際、学生はあがってしまったり、不慣れであったりして、本来の自分を出せないことがあるが、人間は第一印象に影響される傾向があるため、その誤った情報を元に面接者が判断をしてしまうこと。 ②確証バイアス 履歴書や適性検査結果など、事前に得た情報から先入観や思い込みにとらわれ、その印象に応じた評価をしてしまうこと。同じような回答をしても、有名大学と無名大学では面接者の受け止め方が違う、というのは経験的にありうる。 ③不都合な情報 何かの間違いでダメな人材を採用してしまうのを避けるために、欠点や弱点をあらさがしするなど、学生にとって不都合な情報を重視してしまうこと。優れた長所を持つ学生も、たった1つの欠点で落とされてしまう。 ④厳格化 面接官は、過去の経験から積み上げた高い理想像・基準をもっているため、ほとんどの学生は基準以下となるなど、評価が激辛になってしまうこと。結果的にかなり優秀な学生でも、ふるい落とされてしまう。人を見る目に自信のあるベテラン人事マンなどによく見られる傾向。 ⑤非言語的行動 言語以外の、姿勢、身振り、表情、服装、容姿、化粧など、一般的に仕事に関する能力や意欲とは無関係な非言語的要素が評価に大きな影響を与えること。 学生側からすると、これらを認識のうえで面接に臨むのが成功の秘訣となるかもしれない・・・。それはさておき、もちろん企業も、このような問題が生じないよう、面接での視点や合否基準を打ち合わせておくなどの努力を行っているが、結局のところ、面接官の好みが大きな基準となってしまうのは避けられない。 人は自分と似たタイプを好むものだ。最終的に社長や役員の好みで決まった人材が、配属された現場で「?」となるのも仕方がない。数度の面接をクリアするということは、それだけいろいろな人に好かれるということで、これはこれで意味のあることかもしれないが、仕事の能力の中ではごく一部にすぎない。 一定時間で、一定量を確保しなければならないという制約のもとでは、面接を過度に信頼するのは無理がある。せいぜい、その企業にまったく合わない人だけは排除する(それも本当かどうかはわからないが)システムという程度に考えておいたほうがよいのかもしれない。 (2013年4月15日) | |
■65歳雇用延長に向けてやるべきこと Column No.43 | |
改正高年齢者雇用安定法が4月から施行され、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止となった。今回の改正を機に高齢者の雇用制度を再設計する企業も多いようだ。 背景として、2006年改正時に設けた雇用延長制度で、60歳以降の社員を補助的業務の従事者として一律的に処遇したことにより、高齢社員のモチベーションが上がらず、受け入れ側としても戸惑いが生じ、結果として組織風土を悪化させたことがある。 その反省から、この機会に見直しを図るのは基本的によいことだと思うが、安易に他社の事例を取り入れるような拙速な見直しは、ますます雇用環境を悪化させる危険がある。下手に制度を整えたことで、今度はそれが社員の既得権となり、簡単には変更できなくなる恐れもある。 改正高齢者法への対応でポイントとなるのは、 ①人件費の問題 ②(高齢社員と受け入れ側社員の双方の)モチベーションの問題 の2つであることは間違いない。 ①と②は基本的にトレードオフの関係になるので、いかにそのバランスを図るかということだ。 このポイントを踏まえ、高齢者雇用制度を再設計するにあたって「やるべきこと」を整理してみよう。 やるべきことの第1は現状の把握で、押さえておきたいのは次の2点だ。 ①現状の雇用延長制度 ②該当者の状況(人数・部門・役職・ニーズ) ①の現状の雇用延長制度では、仕組み、問題点、課題などを再確認し、新制度に反映させる。 ②の該当者の状況では、該当者が多数いるならば、本格的な制度設計が必要となるだろうが、該当者が数年間はいないならば、とりあえず法的に求められる最低限の仕組みだけをつくっておくという選択肢もある。 また、該当者が数人であれば、該当者の個別の状況(部門・職務・役職・能力・本人のニーズ等)を考慮のうえ制度を策定することも考えられる。このときも、複雑・高度な仕組みは避け、後々変更できるようにしておく方がよいだろう。 第2は再設計にあたって考慮すべき事項の整理で、以下の7つである。 ①経営戦略/事業戦略 既存事業をどう展開していくか、新規事業への取り組みはどうか、グループ会社経営はどうするか、といった事項の確認である。これらの展開次第で、高齢者をどう活用するかが変わってくる。たとえば、高齢者に原則的に新規事業を任せる企業も存在する。 ②人員計画 部門・部署・関係会社ごとの必要人員数および新卒・中途採用計画である。どの部門・部署・関係会社に何人くらい雇用可能かが把握できる。 ③財務状況/人件費予算 現在の財務状況と今後の財務計画、今後の人件費予算などである。端的に言えば、人件費はどれくらい増やせるか、あるいは増やせないかだ。サントリーが65歳定年に踏み切ったのは、今後の売上・利益の拡大が見込まれ、人件費が増えても問題ないとの判断があったからである。 ④人事制度 現状の等級制度、評価制度、賃金制度等の再確認である。現在の人事諸制度は活用できるか、 高齢者向けに新規に構築が必要か、が焦点となる。役割給や職務給などで年功的要素が完全に排除されているならば、現行制度を高齢者にも適用できる可能性がある。 ⑤年齢別社員構成 特定時期に高齢社員が増えることはないか、技能継承は進んでいるか、といった点がポイントなる。技能継承が課題となるのであれば、若手へのノウハウ伝授役として高齢社員は最適といえる。 ⑥担当職務 高齢者が担う職務として、どのようなものが想定できるかである。現に存在する職務を担当してもらう以外にも、スペシャリストやインストラクター、コンサルタントなど、専門機能に特化した職務も考えられる。 ⑦企業風土 企業風土には、家族的、官僚的、保守的、ベンチャー的、年功序列的、成果主義的等さまざまなものがあり、これらは社員のモチベーションに影響する。たとえば、家族主義的な雰囲気を重視するのであれば、高齢者に優しい制度を設けるのが常道といえるだろう。ただ、企業風土というのは能動的に変えていかなければならない場合もあり、あえて厳しい処遇をするという選択もある。そういった視点からの制度設計も大切である。 以上、主要なものを示したが、これら以外にも各企業に重視すべきものがあるかもしれない。要は企業の特徴を踏まえた、高齢者の処遇が重要ということである。 (2013年4月30日) | |
■業務調査による適正要員数の算定 Column No.44 | ||
以前、総額人件費管理の課題について述べた(№33、№34、№36)が、その中で、適正要員数の算定が必要であること、算定方法の1つに業務アプローチがあることを指摘した。業務アプローチとは、業務の実態とあるべき姿を調査・検討することで適正人員を算出する手法である。本コラムでは、これについてのポイントを2回に分けて整理したいと思う。前回と同様に、高原暢恭著「人件費・要員管理の教科書」(労務行政)を参照させていただいた。 ●業務調査による適正要員の算定とは? まずは、これが何かを確認しておこう。業務調査による適正要員の算定とは、売上高目標や利益目標などの経営計画を達成するために、必要な業務を確認し、その業務の質(内容)と量(所要時間)から要員数を求めることである。言い換えると、必要な業務をこなすのに何人の人員が求められるかを算定することだ。ここでいう「必要な業務」とは、お客様に満足を与え、かつ継続的な事業展開ができる仕事である。どちらかが欠けてはダメなことに留意したい。 ●部署ごとの一律的な削減の危険性 人員削減をする際、部署ごとに一律10%削減するといった方法がある。痛みを平等に分かち合うという公平感があり、何より手っ取り早いので、しばしば用いられる。 しかし、このやり方には大きな副作用がある。人手が足りなくなった組織では、必ずやらなければならない定型業務で、締め切りがはっきりしている業務だけが行われ、本当に大切な問題解決型業務が行われなくなる危険性が高いのである。結果的に企業競争力が失われ、会社は弱体化する。 したがって、やみくもに削減するのではなく、業務の実態を確認したうえで、それに見合った要員数を設定する手法が求められる。 ●目的と効果 業務調査の目的は、当然ながら適正要員数の設定(またはこれによる適正人件費の実現)ということになるが、業務調査を通じて以下のようなさまざまな効果も期待できる。これらは、顧客満足や社員満足につながるものであり、ひいては、経営計画の達成に寄与するものである。
次回は、業務調査の進め方と調査結果をどのように要員数の設定に活かすかを説明したい。 (2013年5月13日) | ||
■業務調査による適正要員数の算定~その2 Column No.45 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今回は、業務調査のステップと調査結果をどのように要員設定に活用するかを整理する。前回に引き続き高原暢恭著「人件費・要員管理の教科書」(労務行政)を参照させていただいた。 ●業務調査のステップ 業務調査のステップは次の3段階となる。 1)現状の把握 2)改善案の策定 3)要員数の割り出し 1)現状の把握 現状の把握とは、現在の業務量の棚卸しを行うことで、業務量棚卸しの方法には、代表的なものに以下の4つがある。 ①思い起こし法 部署ごとに業務項目を棚卸し、担当者がどれくらい労働時間をかけているかを想起して記録する方法 ②実績記録法 実際に行った業務の所要時間を記録していく方法 ③ストップウォッチ法 作業単位ごとにどれくらい時間がかかっているかをストップウォッチで測定する方法 ④ワークサンプリング法 一定期間の一定業務のサンプルを取り、統計処理をして業務量を推計する方法 それぞれのメリット・デメリットをまとめると次のようになる。
適正人員を算定するという目的から、どうしても全社の業務量の棚卸しが必要であり、同時に時間や手間をなるべく少なくしたいため、思い起こし法によるのが実際的である。 では、思い起こし法をどうやって進めるかだが、その手順は次のとおりである。 ①業務体系表の作成 業務体系表とは部署ごとの業務を大分類/中分類/小分類で示す帳票で、作成責任者は、各課長・室長・所長等である。一から分類していくのは大変なので、職務分掌規程や内部統制資料、業務マニュアルなどを活用して分類するのがよい。 ②業務内容記録表の作成 業務内容記録表は、小分類ごとに頻度・件数や所要労働時間などを記録する帳票である。作成責任者は各担当者となる。 ③業務マップの作成 業務マップは課ごとの業務量を集計する帳票で、作成責任者は各課長・室長・所長等、業務体系表の作成者となる。 以上により、現状の業務量が労働時間ベースで算定される。 2)改善案の策定 次は、この労働時間を「改善」によって削減していくことがテーマとなる。これにより、標準時間(=無理のない最もよいやり方で行った場合にかかる所要時間)を設定する。 (1)改善案策定の2段階 改善案の策定には、大きく次の2段階がある。 ①部門ミッション分析による改善(⇒マクロ視点からの改善) 各部門の使命に照らして、その業務の重要性の高低を検討する分析手法である。大して重要でないのなら、とりあえず止めてみるという判断が求められる。やはり必要ということであれば、復活させればよい。特に会議や資料などが廃止の狙い目である。 ②業務分析による改善(⇒ミクロ視点からの改善) 業務内容記録表に記載された全業務について、次の観点から、最適な業務のやり方を発見・検討する分析手法である。 ア.1つひとつの業務の目的や効果 イ.目的達成のための方法や手順 ウ.業務遂行者の要件(能力・経験等) (2)改善後業務マップの作成 改善案が実行された場合の業務マップを作成する。これにより、改善後の労働時間が導き出される。 3)要員数の割り出し 改善後労働時間が以下のようになったとすると、改善後は、3.01人で業務遂行ができると考えられるので、要員数を4人から3人にするといった判断を下す。
なお、3.5などの中途半端な人数が出た場合には、 ①業務的に関連のある部署と統合する ②業務を再度見直す ③人員の能力レベルを高める ④非正規社員や外注を活用する といった方策を検討することになる。 ●適正要員数の決定 業務調査によって適正要員数を導き出したところで、これを財務アプローチによる適正要員数と照らし合わせる。基本的なパターンは次の2つだ。 ①財務アプローチ要員数<業務アプローチ要員数 財務アプローチ要員数が適正要員数となるため、さらなる業務改善によって、業務量を削減しなければならない。 ②財務アプローチ要員数>業務アプローチ要員数 業務アプローチ要員数が適正要員数となる。この場合は、目標利益よりも多い利益が見込めるという望ましい状況といえる。 2つのいずれかに経営視点による政策的判断を加え、要員数について最終決定を行うことになる。 (2013年5月20日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■65歳雇用義務化に求められる2つのバランス Column No.46 | |||||||||||||
改正高年齢者雇用安定法が4月から施行され、企業は65歳まで働くことを希望する社員に雇用の場を提供しなければならなくなった。 65歳雇用義務化への対応はいろいろな切り口でとらえることができるが、ここでは重要な課題を「2つのバランス」の観点から整理してみよう。 1つ目は、人件費抑制と高齢社員のモチベーションとのバランスである。 みずほ総研の試算では、今回の改正で日本の企業の人件費は1%上昇するとのことである。これは企業全体の数値で、すでに対応済みの企業も含まれているため、これから対応を講じる企業では、もっと高くなること考えられる。 財務的な視点に立てば、人件費は抑えるに越したことはないが、高齢社員の立場からすると、極端な“買い叩き”に会えばやる気を失う。 人件費と高齢社員のモチベーションとを軸にすると、高齢社員の雇用は次の3つに類型化できる。どの類型が適正かは企業の状況によるが、まずはバランス重視型が基本となるだろう。
もちろん、高齢社員のモチベーションを左右するのは給与や賞与だけではないが、人件費が大きなウェイトを占めるのは間違いない。鉄鋼、造船などの労働組合からなる基幹労連の調査(第2回総合意識実態調査)でも、「60歳以降も働く際に重視する事柄」として、「仕事に見合った賃金水準である」がトップだった。 高齢社員のモチベーション低下が問題なのは、高齢社員自身のパフォーマンスが低下するだけでなく、他の社員にも悪影響を与えることである。「愚痴ばかりで、こちらもヤル気がなくなる‥‥」「自分もあんなふうになるのか‥‥」。こういった嘆きが職場に増えれば、組織の活力は確実に低下していく。 ポイントは、人件費の増大を抑制しながら、いかに高齢者の能力を発揮できる場の設定ができるかである。このとき、人件費にウェイトを置きすぎないことだ。 2006年の改正時には、多くの企業が「人件費重視型」に走ったために、種々の問題を惹起させた。今回の改正はそれを教訓にしなければならない。必要なのは、バラエティに富む高齢社員のニーズや特性に対応できる処遇制度の設計である。 2つ目は、高齢社員と若手社員との処遇のバランスである。 高齢社員の「過度な優遇」は、若手社員の活躍の場を狭めるリスクもある。従来は後任に譲られたポジションが、引き続き高齢社員に占拠されてしまうようなケースだ。 また、65歳雇用義務化のために若手社員の人件費が抑制される場合は、当然ながら感情的な反発も大きくなる。資料づくりもまともにできないのに、それなりの賃金をもらっていることに不満を持つ若手も多い。 ポイントは、企業に貢献してもらうという姿勢を明確化し、貢献度に応じて処遇するしくみをつくることである。給与以上に貢献していることが明らかであれば、周囲は納得する。 2つのバランスが欠けると、お荷物社員が増加するだけでなく、有能な人材が流出しかねない。65歳雇用義務化への対応は、組織全体に大きな影響を及ぼすことを肝に銘じておく必要がある。 (2013年6月17日) | |||||||||||||
■2次評価者の役割と課題 Column No.47 | |
人事評価において、被評価者の直属の上司とその上の上司とが2段階で評価を行う2次評価制を採用している企業は多いと思う。 2次評価の目的として考えられるのは、 ①1次評価者が気づかなかった点を評価することで、評価の客観性を高める ②同じ事実や行動でも違う視点や角度から評価することで、評価が偏るのを防ぐ ③2次評価者が複数の部署を評価対象とすることで、部署間のバラツキを少なくする などだ。要するに、評価の納得性と信頼性を高めることが目的といえる。 このような目的を達成するために重要となるのは、1次評価者と2次評価者が各々の役割を理解し、果たすことである。2次評価のシステムは、単に評価者を2人に増やしたわけではないのだ。 評価者の役割については評価に関する基本的な解説書などで述べられているが、これは一般に1次評価者のものだ。 それでは、2次評価者に特有の役割というものは何だろうか。期待される役割として挙げられるのは次の3つだ。 1.1次評価が適切であるかどうかのチェック ①個別の評価項目の妥当性のチェック 各評価項目の1次評価者の評価が、自己の観察から見た評価と比べてどうかである。2次評価者自身もきちんと評価を行うことが前提だ。「信頼するA課長の評価に間違いはない」といった考えは、2次評価者としての役割を放棄していることになる。 ②総合的な評価の妥当性のチェック 個別の評価項目とともに、総合的な評価の妥当性も確認する必要がある。1次評価者は、個別の評価項目の評価に注力するあまり、その積み重ねである総合評価には無頓着となるケースがあるからだ。この辺りは、大所高所からの評価を期待される2次評価者の重要な役割の1つである。 ③エラー傾向に陥っていないかのチェック 評価にエラーはつきものであるが、評価者自身は自分では認識しづらい面もある。第三者の視点から、エラー傾向がないかをチェックする。 2.1を踏まえた1次評価者へのアドバイス・意見調整 評価制度の仕組みにもよるが、1次評価者と2次評価者とで評価が相違した場合は、話し合いをするのが一般的だろう。特に、評価が2レベル以上乖離している場合は、互いの評価の根拠を確認し合い、両者が納得のいく調整をする必要がある。単純に真ん中のレベルをとるといった安易な調整をしてはならない。 3 .1次評価者の評価能力の開発・向上 マネジメントスキルにおいて、メンバーを評価する能力というのは重要なウェイトを占める。1次評価者の評価能力を高めるのは、直属の上司である2次評価者の重要な役割ということになる。 次にこれらの役割を果たすために、どのような取り組みが必要かを整理しておこう。課題となるのは以下の3点である。 1.被評価者をしっかり観察すること 適正な評価の基本は、まずは被評価者をしっかりと観察することだ。2次評価者であってもそれは同じである。もちろん、1次評価者と違って、被評価者を直接マネジメントするケースは限られるだろうから、その機会は少なくなるかもしれないが、心がけ次第でチャンスはいくらでもあるはずだ。特に、トラブルが発生したときなどは、2次評価者が乗り出すことも多いだろう。このときの被評価者の対応ぶりなどをよく把握しておきたい。 2.1次評価者の評価傾向をつかんだ上で評価を行うこと 全体的に評価が甘いとか、中間点が多いとか、1次評価者はさまざまな評価傾向をもっている。これをつかんだ上で、評価をすると1次評価者のバイアスを減少できる。もちろん、自分自身の評価傾向も認識しておく必要がある。 3.部署全体の視点から評価をすること 当然ながら、2次評価者は1次評価者よりも広い管理範囲を有しているので、評価対象者も多い。複数の部署の2次評価を行うことも多いはずだ。そうすると、ある部署と別の部署との比較ができることになる。ある部署でA評価された事実も、他の部署から見ればB評価が妥当ということも十分にある。これらの判断ができるのは2次評価者ならではといえる。 このように2次評価者には、2次評価者としての役割と課題がある。人事評価に直接的に影響を与えるのは1次評価者だが、その評価に責任を持つのは2次評価者である。何のために2次評価をするのかをしっかりと認識しておくことが大切となる。 (2013年7月1日) | |
■降職に伴う賃金減額 Column No.48 | |||
以前のコラム(No.32)で配置転換に伴う賃金減額について述べたが、今回は降職に伴う賃金減額を整理してみる。なお、降職とは部長から課長になるというように職位を引き下げることである。類似の言葉に降格というのがあるが、広義には職位の引き下げも含むものの、一般には資格等級の引き下げを意味する。職位と等級は密接に結びついているので、降職・降格が同時に行われることもよくある。ともあれ、ここでは降職という呼び方を使う。 降職となれば、企業組織のうえでの役割や貢献度合が低下するのだから、その対価となる賃金も減額するのは当然といえる。ただし、当事者の立場に立てば、月に数万円、場合によっては10万円以上も給料が下がるのは我慢できない面もあるだろう。特に、懲戒による降職など、自分に非があることが明らかなら場合はともかく、「部長として期待される成果を上げられなかった」などのあいまいな理由では、納得のいかないケースもある。このため、人事部や各種の労働相談に苦情・相談を持ちかけたり、場合によっては訴訟を提起したりする例も見られる。 このようなトラブルを避けるために、企業としてはどのような点に留意しておく必要があるのだろうか? 降職に伴う賃金減額は、降職の妥当性と賃金減額の妥当性の2つに分けて考えることがポイントとなる。 1.降職の妥当性 降職には懲戒処分としての降職と人事権行使としての降職がある。 前者であれば、懲戒処分の妥当性が問われることになる。これについては、「懲戒規定適用のポイント」を参照していただければと思う。 後者の人事権行使としての降格は、就業規則等に明確な根拠規定がなくとも、使用者の裁量的判断によって行うことができるとされている。
ただし、当然のことながら人事権は無制限に行使できるものではなく、権利の濫用は認められない。その判断は以下の事情を総合考慮することになる。 (ア)業務上・組織上の必要性の有無及びその程度 (イ)能力・適正の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度 (ウ)労働者の受ける不利益の性質及びその程度 (エ)当該企業における昇進・降格の運用状況 言葉を換えると、会社側はこのような観点からきちんと説明ができるよう、降職を行うべきということだ。万一、権利の濫用となれば、降格処分は無効ということになる。 2.賃金減額の妥当性 次に賃金減額の妥当性だが、一般に減額となる賃金は、①役職手当分の減額と、②資格等級引き下げによる減額とに分けられるので、これに即して考える必要がある。 ①役職手当分の減額 降職に伴う役職手当の減額は、当該役職を外れることから、合理性があるとされる。もちろん、降職の妥当性については上記1のとおり別に検討しなければならない。 ②資格等級引き下げによる減額 判例では、職能資格等級の引き下げによる賃金減額は、労働者の同意がある場合を除き、就業規則等において、使用者が資格等級の見直しによる降格をなしうる旨の根拠規定が必要であるとしている。
したがって、賃金減額が、役職手当による減額以外に等級引き下げによるものが含まれるのであれば、就業規則等の根拠を明確にしておくことが重要となる。さらに、その定めが適正に運用されていることも求められる。 なお、判例では「職能資格等級」としているが、他の資格制度であっても基本的に同じと考えればよいだろう。 このように、降職の際の賃金減額で重要となるのは、降職そのものの妥当性と、降格の定めなど減額の根拠を明確化しておくことである。さらに言えば、これらの根拠となるのが適正な人事評価や日常の指導であることに留意しておきたい。 (2013年8月5日) | |||
■業績不振による賃金カットの留意点 Column No.49 | |
業績不振が長引いたり、その程度がひどかったりすれば、社員の賃金をカットせざるをえない場合も出てくる。言うまでもなく賃金カットは社員にとっては一大事であり、会社が一方的に実施できるものではない。 賃金カットは、労働条件の不利益変更となるので、(1)労働者の個別の同意、(2)労働協約の締結、(3)就業規則の変更、のいずれかの手続きが必要となる。以下、それぞれを確認していこう。 まず(1)の労働者の個別の同意だが、事後のトラブル防止の観点から、これが最も妥当な手続きとなる。ただし、1人1人の納得を得て、引き下げについての同意書を徴取するという手間のかかる作業が求められる。また、1人でも同意しなければ、変更できなくなるおそれがある。賃金カットの理由や程度にもよるが、会社が小規模で、カット期間が短期と予想されるのであれば、比較的同意は得られやすいので、(2)(3)よりも確実といえる。 (2)は、労使関係が良好な会社であれば、割とスムースに進められるが、締結内容は原則として組合員しか拘束しないので、組合員以外は個別同意が必要になる。ただし、労働協約の適用を受ける組合員が事業場の3/4以上であれば、一般的拘束力として非組合員も拘束する。また、協約を結んでいない組合の組合員には一般的拘束力は及ばないので、これに対しては個別同意が必要になる。 個別の同意を避けたいのなら、(3)による方法となる。この場合、変更後の就業規則を周知させ、かつ、就業規則の変更が、 ・労働者の受ける不利益の程度 ・労働条件の変更の必要性 ・変更後の就業規則の内容の相当性 ・労働組合等との交渉の状況 ・その他の就業規則の変更に係る事情 に照らして合理的である必要がある(労契法第10条)。なお、賃金に関しては高度の必要性に基づいた合理的な内容が求められることに留意しなければならない。 また、就業規則の変更が適正に行われれば個別の同意は不要であるが、 ・事後のトラブルを避けるため ・カット後の賃金を個別に明示する必要があり、手間はそれほど変わらないため できれば同意書を得た方がよい。あくまで“できれば”であるが、正当に就業規則の変更がなされていれば、賃金カット自体は成立しているので、同意というよりは確認に近いもので、社員の理解は得られやすいはずである。 以上を整理すると、とるべき方法としては次のようになる。 1.個別の同意が得やすい⇒(1)個別の同意 2.個別の同意が少し難しい⇒(2)労働協約の締結 3.個別の同意が難しい⇒(3)就業規則の変更 ただし、労使間で話し合ったという事実が大切なことから、組合があるのなら、2の労働協約は締結したほうがよいと思われる。その上で、1または3の方法を検討すべきである。 どの方法を選ぶにせよ、事前に労働組合または社員への説明が不可欠である。その際、 ①業績が低迷している理由 ②自社の現状と賃金カットをせざるを得ない理由 ③賃金カットの前段階としてどのような方策を実施したのか ④業績回復のためにどのような手を打とうとしているのか ⑤いつまで、あるいは業績がどこまで回復したら元に戻すのか 等を十分に説明する必要がある。これらの手間を惜しむと、結果的にもっともっと手間がかかるような事態に陥る危険性が大きい。 最後に確認しておきたいのは、就業規則や賃金規程で賃金カットについて触れられているかどうかである。 「会社の経営状況および業績等の変化により必要があるときは、賃金を改定することがある」 「業績の著しい悪化がある場合には、賃金を減額することができる」 等の定めがあると、これを根拠に賃金カットは進めやすくなる。 こういった定めがなくても、上記の必要性や合理性があれば実施は可能だが、スムースに進めるためにあった方がよいのは間違いない。 (2013年8月26日) | |
■住宅補助に対する課税 Column No.50 | |
現物給与は原則として給与所得であり、課税対象となる。現物給与の典型例に、社員への社宅・寮の提供があるが、このとき、家賃としてある程度社員に負担してもらっていれば所得税はかからないとの認識は、人事担当者であれば持っていると思う。ただ、細かい点はよくわからないというのが実態ではないだろうか。今回は、住宅補助に対する課税はどのようになっているかを整理してみる。 社員に社宅や寮などを貸したときの課税の原則は、社員から1か月あたり一定額の家賃(=賃貸料相当額)以上を受け取っていれば給与として課税されない、というものである。 この賃貸料相当額とは、次の①~③の合計額である。 ①(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2% ②12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル)) ③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22% 会社が所有している社宅や寮を貸与する場合だけでなく、他から借りて貸与する場合でも、この3つを合計した金額が賃貸料相当額となる。 なお、社員に無償で貸与する場合には、この賃貸料相当額が給与として課税される。 また、社員から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合には、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与所得として課税される。 ただし、社員から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与所得として課税されない。 多くの企業では、住宅補助に関して所得税を徴収していないと思うが、この要件に該当するからだ。言葉を換えれば、所得税を負担させないために、この要件を満たす必要があるということだ。 以上のルールを事例で考えてみると、賃貸料相当額が1万円の社宅を社員に貸与した場合、 ①社員に無償で貸与すれば、1万円が給与所得として課税される ②社員から3千円の家賃を受け取る場合は、賃貸料相当額である1万円と3千円との差額の7千円が給与所得として課税される ③社員から6千円の家賃を受け取る場合は、6千円は賃貸料相当額である1万円の50%以上なので、賃貸料相当額である1万円と6千円との差額の4千円は給与所得として課税されない ということだ。 ここで気になるのは、賃貸料相当額とはいったいいくら程度になるかだろう。正確な金額は、「固定資産税の課税標準額」を物件の所有者に確認しなければならないが、目安としては、家賃の概ね5~10%というところらしい。まあ、10%を見積もっておけば間違いないだろう。 たとえば、家賃10万円の物件であれば、 10万円×10%×50%=5,000円 これ以上を社員に負担してもらえば、税負担は回避可能ということだ。 一般的に社員負担は、1万円以上はあると思われるので、普通の社宅・寮であれば、まずはクリアできるはずである。 最後に、住宅手当として現金で支給する場合や、社員が直接賃貸役契約をしている場合の家賃負担は、社宅の貸与とは認められず、給与所得として課税されるので注意していただきたい。 (2013年9月16日) | |