2025/9/14

AI時代の若手社員の仕事

 生成AIの代表格であるChatGPTが公開されてから約3年が経つ。エン・ジャパンが7月31日に発表した「日常・仕事でのAI活用」調査結果によると、週に1回以上利用している人は全体(10~60代)の33%で、うち10代が71%、29代は61%と若い世代での普及が目立つ。

 8月25日に日本能率協会が発表した「2025年新入社員意識調査」結果を見ると、この先、AIを使っての仕事の意向について、「したい」が28.5%、「機会があればしたい」が61.3%で、約9割が「したい」と回答している。

 このように若年世代はAIをポジティブにとらえ、活用している。彼ら・彼女らからすれば、これまでの若手社員が経験してきた、まずは定型的な業務を覚えてもらうといったやり方は、もはや時代遅れとの認識かもしれない。そのような業務はAIに任せ、われわれは最初から非定型的・創造的な業務をやらせてほしい、こちらのほうが早く成長でき、“タイパ”の面からも優れているというわけだ。

 ただ、これが若手社員にとって、本当によいことなのかはわからない。定型的な仕事、言い換えると当該業務の基礎的な部分を知らずに、その応用となる非定型業務をこなせるか疑問だからである。

 メーカーの法人営業を例にとれば、顧客から「生産ラインに新しい装置を導入したいが、既存設備との相性は大丈夫か」と相談を受けたとする。この場面では、カタログ通りの答えでは通用しない。顧客の事情に寄り添い、過去の経験や現場感覚を踏まえた提案が求められる。

 その際の基盤となるのが、定型業務の経験である。新人時代に見積を繰り返し作成し、契約や納期調整に携わったからこそ、顧客の質問の裏にある本音を察知できる。「この仕様なら追加費用が発生する」「この納期は絶対に動かせない」といった勘所は、机上の学習だけでは身につかない。

 AI時代において、定型業務は単なる作業ではなく、応用力を鍛えるための基礎訓練である。若手社員がすべてをAI任せにすれば、AIの出力を正しく評価し、応用する力は育たない。まずは自らの手で基礎を経験し、そのうえでAIを活用することによって、ようやく価値ある非定型業務に挑戦できると考えられる。

 AIがビジネスの現場に浸透し、仕事のやり方も大きく変わりつつある。見積書、提案書、各種資料の作成、よくある質問への回答といった定型的な業務は、AIが正確かつ迅速にこなすようになった。これからの時代、若手社員にそのようなことを担当させる必要はないのでは、との意見が出てくるのも自然な流れであるが、「定型業務→AI活用→非定型業務」という段階を踏ませることが、長期的にみて本人の成長になるのではないかと思う。         

 


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