2025/9/7

女性管理職とポジティブアクション

 帝国データバンクが8月22日に公表した「女性登用に対する企業の意識調査(2025年)」によると、女性管理職の割合の平均は11.1%で過去最高となったが、前年比0.2ポイント増と小幅の上昇にとどまったとのことだ。

 自社における管理職に占める女性の割合が「30%以上」なのは11.9%である。政府は、管理職などの指導的地位に占める女性の割合を「2020年代の可能な限り早期に30%程度」という目標を掲げているが、目標にはほど遠い。ちなみに管理職が全員男性である企業は42.3%で、女性管理職がいない企業が日本ではまだまだ当たり前といえる。

 このような現状を改善するために期待される仕組みがポジティブアクションである。ポジティブアクションとは、「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現すること(内閣府)」だ。たとえば、管理職になるための研修の実施、目標数値の設定などである。

 だが、実際にポジティブアクションに取り組んでいる企業は少ない。同調査の「女性の活躍推進のために自社で行っていること」を見ると、上位は、「性別に関わらず成果で評価(61.9%)」「性別に関わらず配置・配属(51.5%)」で、いずれも“男女平等”に関わる項目である。ポジティブアクションに関する項目は、「女性管理職の数値目標を設定(3.6%)」「キャリアに関するモデルケースを提示(2.8%)」と極めて低水準である。

 ポジティブアクションというと女性を優遇するものであり、「不公平」「逆差別」との声が上がることがある。「能力や意欲に関係なく、性別を理由に特別な機会を与えている」「男性は同じ研修を受けられないのに、女性だけ優遇されている」「本来は実力や成果で昇進すべきなのに、性別で加点しているのではないか」といった指摘である。

 一見、もっともな指摘に思えるが、事態を表面的にしかとらえていないと考えられる。このようにポジティブアクションを不公平と考える人をどう説得すればよいだろうか?

 まずは、現状の不均衡を知ってもらうことである。女性管理職比率の低さや昇進機会の差をデータで示し、「スタート地点が公平ではない」ことを伝える。

 次に、「結果の平等」ではなく「機会の平等」を目指すものであることを理解してもらう。女性にゴールを保証しているのではなく、これまで機会が得にくかった必要な環境・スキルを補うのが目的であると強調する。そのため、ポジティブアクションは機会を均すための一時的手段であることも付け加えると、理解を促進できる。

 組織全体へのメリットを伝えることも重要だ。多様な視点が意思決定に加わることで企業の競争力が高まる、ダイバーシティ推進は人材確保や企業評価にもプラスになる、といった「ポジティブアクションがもたらすメリット」を説明する。

 日経新聞に、定期的にフィナンシャルタイムズの記事を掲載するコーナーがある。9月1日の記事に、「(オランダはジェンダー平等が遅れており)管理職に占める女性の割合はわずか27%と、OECD加盟国の中でも低い部類に入る」との文章があった。27%を“わずか”と認識する記者が、11%という日本の数値を目にしたら、どのような反応をするか見てみたいものである。         

 


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