2025/8/24

最低賃金1,000円越え

 8月4日、厚生労働省中央最低賃金審議会が2025年度地域別最低賃金額改定の目安を答申した。引上げ額の目安は、「Aランク」(東京、大阪など6都府県)と「Bランク」(北海道、兵庫、広島など28道府県)が63円、「Cランク」(青森、沖縄など13県)が64円となった。全体の引き上げ率は6.0%である。

 目安どおりに各都道府県で引上げが行われれば、全国加重平均は1,118円、上昇額は63円で、1978年度に目安制度が始まって以降の最高額となる。目安を下回ることはまずないので、全都道府県で1,000円を越えることが確実となった。

 答申は、44年ぶりに7回もの審議を重ねた。議論が長引いたのは、労使の意見の相違に加えて、6.4%の引き上げを求める政府の意向が背景にあったからとされる。

 政府は、2020年代に平均1,500円を目指している。実現には、今回の改定前で年7.3%の引き上げが必要とされる。とにかく、可能な限り上げておきたいというのが政府の思いだろう。

 もっとも、今回は6.0%アップなので、理論上、ハードルはさらに高まったことになる。今後、毎年0.7ポイント上昇させることで、29年度に1,507円になるという計画だそうだが、29年度は8.8%ものアップとなる。正直、机上の空論と言わざるを得ない。

 今後は、国の答申を参考に、各地方の最低賃金審議会で答申を行い、都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することになる。8月21日の日経新聞では、地方最低賃金審議会で国の示した目安を超える答申が相次いでいることが報じられている。たとえば、鳥取県では目安額よりも9円高い1,030円、隣の島根県では8円増の1,033円で答申されたとのことだ。近年、隣県間での競争激化が目安越えを促しているとの指摘があるが、まさにその典型例である。

 日本はようやく最低1,000円を越えることになったが、他の先進国から見ると圧倒的に低い。一例を挙げると、ドイツ2,116円、イギリス2,264円、オーストラリア2,293円、カナダ1,808円といったところだ。失われた30年の影響がここにも見てとれる。

 最低賃金の上昇は、労働者の生活改善には望ましいことだが、一方で、経済・雇用・企業経営の面からいくつかの懸念点も指摘される。

 特に中小企業や労働集約型の業種(飲食、介護、小売など)は、売上高に対する人件費比率が高いため、最低賃金上昇が経営を圧迫する。結果として、雇用の削減・抑制の動きが出てくる。また、時給は上がってもシフトが短縮され、実際の月収が増えないこともある。

 さらに、人件費上昇が商品・サービス価格に転嫁され、物価上昇を加速させる可能性もある。生産性の低い企業の淘汰など、経済全体への影響も考えられる。

 最低賃金で働く労働者は全労働者の6%といわれる。最低賃金近傍(1.1倍以内)だと14%にもなる。このように最低賃金レベルに張り付く労働者の割合が、今後増加するのは確実と考えられる。         

 


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