2025/8/17

転勤して良かったこと

 近年、若年社員を中心に転勤を忌避する傾向が強くなっている。

 エン・ジャパン社の「転勤に関する調査結果」によると、「転勤をきっかけに退職を考えたことはあるか」では、44%が「ある」と回答している。年代別では20代の69%、30代の61%、40代以上の40%が「ある」と回答し、年代が低いほど転勤への抵抗感が大きいことがわかる。

 「今後、転勤の辞令が出た場合、退職を検討するきっかけになりますか?」という質問にも、全年代で半数以上が「なる」「ややなる」(20代:66%、30代:67%、40代以上:54%)と回答している。

 昭和・平成の時代も転勤を望む人は多くなかったと思うが、それでも会社員の宿命と受け入れるのが普通だった。ここまで転勤に対する忌避感は強くなかったはずだ。

 背景として、共働き世帯の増加や子育て・教育環境の固定化、介護負担の増加といった生活基盤の変化や、ワークライフバランスや自己のキャリアの重視といった価値観の変化、リモートワークの進展による転勤の必要性低下などが考えられる。

 つまり、以前と比べて、転勤により物理的・精神的に変えなければいけないことが多すぎる。そのような過度の負担をかけてまで、転勤したくはないということなのだろう。

 もっとも、転勤にも良い面はある。同調査で、転勤をしたことがある人に、「転勤を経験して良かったこと」を尋ねている。上位の回答は以下のとおりだ。

「知らない土地・環境を知る機会になった」56%
「仕事の人的ネットワークが広がった」42%
「業務範囲が広がった」39%
「自身の能力が向上した」35%
「適応能力の獲得につながった」25% 女性33%

 トップの「知らない土地・環境を知る機会になった」は転勤ならではの醍醐味といえる。「住めば都」というが、最初は嫌だった転勤先も、最後は離れがたくなったというのもよく聞く話である。

 回答を男女別で見ると、「適応能力の獲得につながった」は女性が33%と高いのが興味深い。筆者の感覚では、元々女性の方が適応能力は高いと思うが、それを実感する機会が少なかったところ、転勤によりあらためてその能力を確認できたというだろうか。

 人間には現状を変えたくないという現状維持バイアスがある。現状維持は心地よく、精神的な安定を得られる。一方で、緊張感を失い、「ゆでガエル」になる危険性もある。

 生活環境も含め、現状を大きく変える機会となるのが転勤である。現状変革に自ら踏み出すのは困難なことだが、転勤によれば半ば強制的に変えてくれる。

 以前に比べて転勤しづらくなった環境にあるのは確かだが、かといって転勤を頭ごなしに否定せず、そのメリットを考えてみるのも大切と思う。         

 


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