2026/8/16

企業と社員の能力認識のギャップ

 7月31日に公表された厚生労働省の「能力開発基本調査」を見ると、企業が重要と考える能力・スキルと、労働者が自信を持っている能力、今後向上させたい能力との間にギャップがあることがわかる。

 企業調査の「最も重要と考える能力・スキル」では、管理職を除く正社員について「チームワーク、協調性・周囲との協働力」が最も重視されている。50歳未満では54.3%、50歳以上でも41.7%に上る。また、「マネジメント能力・リーダーシップ」は50歳未満34.9%、50歳以上57.0%、「課題解決スキル」もそれぞれ31.1%、37.3%と高い。

 これに対し、個人調査を見ると、正社員が「自信がある」と答えた能力では、「チームワーク、協調性・周囲との協働力」が52.6%と高い。ここでは企業と社員の認識は比較的一致している。

 一方で、マネジメント能力・リーダーシップに自信がある正社員は14.0%、課題解決スキルは19.1%にとどまる。企業が強く求めている割には、社員自身は十分な自信を持っていない。

 ただし、これは単純な意識のズレではないと思われる。「向上させたい能力」を見ると、マネジメント能力・リーダーシップは40.2%、課題解決スキルは33.5%と上位に入っているからである。社員はその重要性を理解しながらも、自分には不足しているとの認識が強いといえそうだ。

 企業から見れば、これは人材育成上、好都合な領域である。会社が必要としており、本人も伸ばしたいと思っているからだ。管理職候補者へのリーダーシップ教育、問題解決研修、プロジェクトへの参画など、実践的な育成機会を用意することで、双方のニーズを一致させやすい。

 反対に、興味深いのが「チームワーク」である。企業は非常に重要視し、社員自身も52.6%が自信を持っているが、「向上させたい」とする正社員は13.5%にすぎない。本人としては「すでにできているので、あえて学ぶ必要はない」ということだろう。

 しかし、そこには注意が必要である。社員が考えるチームワークが「周囲と仲良く仕事をする」「頼まれれば協力する」というレベルである一方、企業が求めているのは「部門を越えて利害を調整する」「異なる専門性を持つ人を巻き込む」「チーム全体の成果を最大化する」といった、より高度なスキルかもしれない。同じ「チームワーク」という言葉でも、求めている水準が異なっている可能性がある。

 逆方向のギャップもある。典型的なのが語学力とITに関する専門能力である。正社員で「語学力」を最も重要とする企業は1~3%程度にすぎないが、社員の23.1%が今後向上させたいとしている。「プログラミング、システム開発等のITに関する専門能力」についても、企業が重要とする割合は1割未満であるのに対し、27.2%の正社員が向上させたいと答えている。

 なぜこのような違いが生じるのか? 最大の理由は、企業と社員では能力を見る視点が異なるからだろう。

 企業は基本的に、「自社の事業を発展させるために、多くの社員にどのような能力が必要か」という視点で考える。そのため、チームワーク、マネジメント、コミュニケーション、課題解決といった、職種を越えて組織成果につながる能力を重視しやすい。

 一方、社員は「自分のキャリアに何が役立つか」という視点から考える。語学やITスキル、高度な専門知識は、現在の仕事で直接必要でなくても、転職や職域拡大、将来のキャリア形成に役立つというイメージを持てる。いわば企業が「組織内で必要な能力」を見ているのに対し、社員は「労働市場でも使える能力」を意識しているのである。企業は組織の将来を考え、社員は自分の将来を考えている。その視点の違いが、求める能力の違いとなって表れている。

 会社の視点を押しつけても、社員のニーズが低ければ効果は望めない。「会社が身につけさせたい能力」と「本人が身につけたい能力」。その2つをいかに重ね合わせられるかが、これからの能力開発を考えるうえで重要なポイントになる。

 会社がなぜその能力を必要としているのかを伝える一方、社員がどのような能力を伸ばし、どのようなキャリアを描きたいのかにも耳を傾ける必要性があるということだ。          

 


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