2026/8/30

残業45時間の一律指導見直し

 8月19日、厚生労働省は労働基準監督署による時間外・休日労働の指導方法を見直し、9月1日から新たな運用を始めると発表した。

 これまで労基署では、特別条項付き36協定によって月45時間を超える時間外労働が適法に認められる場合であっても、時間数に着目し、月45時間以内に削減するよう一律的に指導してきた。

 9月以降は、このような指導を見直し、36協定で定めた健康・福祉確保措置が実際に行われているかを重点的に確認し、事業場の実態に応じて必要な指導を行うことになった。

 この見直しが、企業・労働者にどのような影響を及ぼすかを考えてみよう。

 まず、企業への影響である。元々、この見直しは、法律上認められているにもかかわらず、一律に45時間以内への削減を求められるという経営側の不満を受けてのものであるから、企業側のメリットは大きい。

 最大のメリットは、繁閑に応じた柔軟な人員運用がしやすくなることだろう。受注集中、決算、システム障害対応など、一時的に業務が集中する企業にはメリットが大きい。人手不足への対応力も高まる。一時的な業務量増加について、採用・派遣・外注だけでなく既存社員の時間外労働も選択肢として使いやすくなる。

 ただ、留意事項もある。企業の労務管理がラクになるとは限らないことだ。これまで以上に、長時間労働者の健康管理について注意が必要となる。医師による面接指導、勤務間の休息、休暇取得などを個別に確認する必要性が高まる。今回の変更は、企業に柔軟性を与える一方で、より実質的な健康管理を求めるものともいえる。

 次に労働者への影響である。企業側のメリットが大きいことから、労働者には不利な影響が想定される。

 最大の懸念は、企業が今回の変更を「45時間を超えて残業させてもよくなった」と受け止めることである。月45時間という一律的な基準には、それなりに長時間労働を抑制する効果があった。それが弱まれば、特別条項の利用が常態化し、長時間労働が増える可能性は否定できない。長時間労働が増える一方で、健康確保措置については十分でない企業もあるはずだ。そうなると労働者の健康リスクは高まる。

 もっとも、労働者にとってプラス面もある。繁忙期などに一時的に仕事が集中する場合でも、45時間という数字だけを理由に仕事を翌月へ先送りしたり、短期間に無理に業務を圧縮したりする必要は減る。また、時間を制限されずハードに仕事をしたい人や、時間外手当による収入を望む人にとっては、働き方の選択肢が広がる面もある。

 さて、もう1つ注目しておきたいのは労基署の監督指導への影響である。

 従来の45時間という基準は客観的で、監督官にとっても企業にとってもわかりやすかった。今後は、例えば「月60時間の残業が続いているが、医師面談や勤務間インターバルは十分に実施されている」といったケースについて、どの程度の指導が必要かを個別に判断しなければならない。

 健康確保措置の確認自体はこれまでも監督実務の一部であり、特に新しい仕事ではない。しかし、「措置を実施しているか」だけでなく、「その措置が実際に健康障害の防止に機能しているか」まで見るとなれば、判断は格段に難しくなる。

 その結果、同じような事案でも、監督署や監督官によって指導内容に差が生じる可能性がある。企業からすると、行政指導の予見可能性が低下することになる。どのような場合に健康障害のおそれが高いと判断するのか、健康確保措置をどの程度実施していればよいのかなどについて、できるだけ明確で統一的な運用が求められる。

 今回の見直しは、企業側にメリットがあって、労働者側にデメリットがあるという単純なものではない。そのような中、できるだけ双方にメリットが出るよう、労基署監督官には頑張ってほしいものである。          

 



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