企業のハラスメント研修では、ハラスメントの定義や類型、具体的な態様、起きる要因、防止のための取り組み、起きたときの対応などを学習する。ただ、実際の防止にあたっては今ひとつ効果がないとの指摘も多い。知識を与える研修にはなっていても、現場の行動を変える研修になっていないというのだ。
社員が腹落ちし、実際にハラスメントが起きないようにするために、研修でどのような工夫をすべきだろうか。8つのポイントを示したい。今回は1~4を説明する。
1.研修の目的を「望ましい行動の習得」に移す
従来型研修では、受講者の関心が「これはパワハラに該当するのか」「どこまでなら叱ってよいのか」「パワハラと指摘されないために何を避ければよいか」といった方向に偏りがちである。
しかし、ハラスメントの定義に該当しなくても、職場の信頼関係を損なう言動はある。むしろ、その方が大半だといえる。したがって、研修の中心を、「何をしてはいけないか」から、「同じ内容を、相手の尊厳を損なわずにどう伝えるか」へ移すことが重要である。
たとえば、「何度言ったらわかるんだ」という言い方について、単に不適切と説明するのではなく、「前回も同じミスがあったので、原因を一緒に確認したい。どこで判断に迷ったのか教えてほしい」など、代替となる具体的な言動を考えさせることだ。
2.極端な事例ではなく「グレーゾーン」を扱う
暴力、暴言、性的接触などの明白な事例だけでは、多くの受講者が自分には関係ないと受け止める。効果を高めるには、次のような日常的な場面を教材にしたい。
・会議中に部下の提案を強い口調で否定する
・ミスをした社員を長時間指導する
・忙しい時期に何度も進捗確認をする
・冗談のつもりで年齢、容姿、家庭事情に触れる
・メールで深夜や休日に返信を求める
重要なのは、単純に「ハラスメントに該当するか、しないか」を当てさせることではない。①業務上の目的、②必要性、③言葉の内容、④場所・タイミング、⑤頻度・継続性、⑥相手との力関係、⑦相手に与える影響、⑧より穏当な代替手段の有無、という観点から考えてもらうことだ。
3.自社の実態を反映したケースを使用する
一般論よりも、匿名化した自社事例や、過去の相談・ヒヤリハットを素材にした方が腹落ちする。研修前に簡単な匿名アンケートを行い、
・見聞きしたことのある言動
・上司に言いにくいこと
・指導の際に困っていること
・相談窓口を利用しにくい理由
・改善してほしい職場慣行
などを把握する。その結果を基に、営業、製造、管理、研究開発など、職場ごとのケースを作成する。
4.講義よりも発言の演習に時間をかける
知識を聞くだけでは、実際の場面での行動をイメージしづらい。研修時間の半分程度を演習に充てることが望ましい。たとえば、ケースを読ませて、次の3段階で考えてもらう。
第1段階:問題点を見つける
「どの言動が、誰に、どのような影響を与えているか」
第2段階:その場での言い換えを考える
「どのように言えば意図する目的を達成できたか」
第3段階:実際に発言する
「考えた言葉を具体的に発言してみる」
上司役、部下役、同席者役に分かれて、1分程度のロールプレイを行う。知識を実際に発言してみることで定着の度合いが高まる。