2026/6/21

転職希望と転職実現率

 リクルートワークス研究所の「働き方の定点観測」は、同一個人の働き方の変化を定点観測しているユニークな調査である。今般公表された2025年調査で興味深かったのは、転職希望者の割合は増えているにもかかわらず、実際に転職した人の割合が減少傾向にあるという指摘である。

 具体的には、就業者に占める転職等希望者の割合は、2015年:12.7%(812万人)、2024年:14.8%(1,000万人)と増加傾向にある(総務省統計局「労働力調査」)一方で、2025年の前年転職希望者の転職率は11.8%で2016年と比べて2.7ポイント減少しているとのことだ。、前年転職活動者の転職率で見ても、2025年は32.6%で2016年と比べて3.5ポイント減少となっている。

 このように労働市場全体では就業者に占める転職等希望者の割合は増加する中で、転職希望を実現している人の割合は減少傾向にある。一見、矛盾するようにも映るが、その背景・要因にどのようなことが考えられるだろうか。

 まず注意が必要なのは、総務省統計の「転職等希望者」には、純粋な転職希望者だけではなく、「現在の仕事のほかに別の仕事もしたい人」、つまり、副業・兼業の希望者も含まれる点である。したがって、物価高、将来不安、収入増ニーズなどを背景に、今の仕事以外にも働きたいという人が増えても、それがそのまま転職実現率の上昇にはつながらない。

 次に、転職希望者の裾野の広がりである。近年は転職サイト、スカウト、SNS等により、在職中でも自己の市場価値を確認しやすくなった。そのため、積極的に退職を考えていなくても、「とりあえず希望をしてみて、よい条件があれば転職したい」と回答する人が増えていると考えられる。一方で、実際の転職には、年収、勤務地、在宅勤務、職場風土、仕事内容、家族事情など多くの条件が絡むため、希望者の母数が増えるほど、平均的な実現率はむしろ下がりやすくなる。

 第三に、求人倍率が高いといっても、転職希望者が望む求人が多いとは限らない。たとえば2025年3月の有効求人倍率は1.26倍、正社員有効求人倍率は1.05倍であり、全体としては求人超過でも、正社員・好条件・都市部・事務系・専門職など、希望が集中しやすい領域では競争が残る。特に、給与を上げたい、リモートワークをしたい、勤務地を限定したい、管理職ではなく専門職で働きたいといった希望は、求人側の条件と合わないことがある。

 第四に、企業側も人手不足だから誰でも採るわけではなく、むしろ中途採用では即戦力性・専門性・定着可能性を重視しやすくなっている。リクルートワークス研究所の中途採用実態調査でも、2025年度上半期の中途採用における人材確保は厳しい状況にあるとされている。これは、企業に採用意欲はあっても、求める経験・スキル・賃金水準に合う人材を採用できていない、あるいは候補者側から見ても魅力的な条件を提示できていないことを示唆する。

 第五に、現職企業による引き留めや処遇改善も影響していると考えられる。人手不足下では、企業は離職防止のために賃上げ、柔軟な働き方、配置転換、職場改善などを進める。すると、前年時点では転職を希望していた人でも、現職で一定の改善があれば、実際には転職しないという選択を取りやすくなる。リクルートワークスの同調査でも、長時間労働に相当する月45時間以上の法定外労働割合は低下する一方、就業時間中に中抜けできる割合は増加しており、職場の働き方改善が進んでいる面も確認できる。

 したがって、この現象は、単純に転職市場が悪化しているというわけではなく、転職希望の裾野が広がる一方で、実際の転職は、より選別的・条件依存的になっていると見るのが妥当であろう。人手不足で求人はあるが、求職者はどこでもよいわけではなく、企業も誰でもよいわけではない。その結果、転職希望者の割合は増える一方で、希望を実際の転職に結びつける割合は低下する、という構図が生じていると考えられる。         

 


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