リスキリングといえば社員が行うものとのイメージがあるが、経営者であっても、いや、経営者だからこそリスキリングが必要と考えられる。
なぜなら、AI・DX・GXなどの技術革新や環境規制の変化に対応するには、経営者自身も新しい知識やスキルを身につけなければ、意思決定が遅れたり、成長機会を逃したりするリスクがあるからだ。
また、経営者自らが学び直す姿勢を示すことで、社員に対してリスキリングの重要性を浸透させることもできる。社員の能力アップが必要と、研修や自己啓発を奨励するのならば、「まずは隗より始めよ」ということだ。
では、経営者自身はリスキリングを行っているのだろうか。東京商工会議所が9月12日に公表した「経営者の学び直しに関するアンケート調査結果」によると、自身で学び直しに「取り組んでいる」のは50%、「取り組んでいないが2~3年以内に取り組みたい」が20%、「過去取り組んでいたが、現在は取り組んでいない」が8%、「取り組んでおらず、取り組む予定もない」が22%とのことだ。
これを見ると「取り組んでいる」と「取り組みたい」で7割となり、経営者はリスキリングに熱心な様子がうかがえるが、調査回答率が1.8%と非常に低かったことから、東商では「実際の取り組み状況は、この結果よりも低い水準にあることが推測される」と指摘している。とはいえ、そのことを考慮しても、思ったより取り組み率は高いというのが実感ではないだろうか。
ちなみに社員はどうかというと、令和5年度に自己啓発を行った人は正社員で45.3%である(厚労省「令和6年度能力開発基本調査」)。経営者で取り組んでいるのは50%なので、概ね社員と同じくらいの取り組み割合と言えそうだ。
経営者の学び直しの内容は、「既存事業で必要な知識・スキルの習得」が最多で76%、「新規事業で必要な知識・スキルの知識」が55%、「デジタル・ITに関する知識・資格取得」が55%である。「既存事業のため」は当然のこととして、「新規事業のため」は経営者ならではと言えるだろう。
課題としては、「時間的拘束が長く、業務に支障がある(45%)」と「費用負担が重い(30%)」を挙げる経営者が多い。リスキリングに取り組んでいない経営者も、「時間が確保できない(50.3%)」を最大の理由としており、時間確保が最大の課題と言える。この点は、社員も同じで、先の厚労省調査で自己啓発における問題点として「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない(正社員55.9%)」をトップに挙げている。
学び直しの効果としては、「自社の経営を俯瞰して見直し、将来像を考えられるようになった」が最多の60%、「既存事業の生産性向上につながった」が46%、「経営へのモチベーション向上につながった」が45%、「従業員の人材育成制度の推進・改善につながった」が44%と、経営者としての資質やモチベーション、業績などに幅広い影響を与えていることがうかがえる。「従業員の…」には、冒頭で指摘をした「隗より始めよ」効果も見られる。
このように経営者のリスキリングは、会社の成長に大きな効果をもたらしうると考えられる。行っていない30%の経営者は、行っている会社にじわじわと差を付けられている可能性がある。経営者のリスキリングは、会社の将来に予想外に大きな影響を及ぼすものかもしれない。