
現代の企業では、人手不足が慢性化している。近年、経営者や社員にインタビューをすると、ほぼ全員が「人手が足りない」「忙しすぎる」という言葉を口にする。
データを見ても、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」結果では、2025年7月時点での「正社員の不足を感じている企業」は50.8%で、3年連続で50%を超えている。
9月に公表された労働政策研究・研修機構の「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査」でも、「働きにくいと感じている」理由(複数回答)として、「慢性的な人手不足(67.8%)」を挙げる声が突出して高い。
このように人手不足は現代企業の大きな課題なのだが、求める人材が集まらなかったり、人件費の制約から人手を増やせなかったりで、思うように解消できていないのが実情である。ぎりぎりのところで、何とか社員に踏ん張ってもらっているのが、多くの企業の実態ではないだろうか。
とはいえ、このまま放置するのはやはり問題である。ここは発想を変えて、慢性的な人手不足だからこそ期待できるメリットを考えてみてはどうだろうか? 事例を挙げながら整理してみよう。
①業務効率化を推進できる
まず期待できるのは業務効率化の推進である。人が不足しているからこそ、業務の棚卸しやプロセスの改善に本腰を入れざるを得なくなる。具体的には、ムダな会議や資料の削減、RPAや生成AIによる業務の自動化の加速、属人化業務の標準化・マニュアル化などである。
~地方の中堅製造業では、人手不足を契機に受注処理や経理業務をRPAに置き換え、社員を新規顧客対応に振り向けた結果、売上が伸びたというケースがある。
②人材の早期育成やキャリア拡大ができる
人が足りないからこそ、一人の社員に任される役割や裁量が大きくなり、結果的に成長スピードが速くなる。若手社員が早い段階で責任あるポジションを経験できる。あるいは、部署横断で仕事を担い、スキルの幅を広げることができる。
~外食チェーンの店舗では、人手不足により入社3年目の社員が店長に抜擢され、早期にマネジメントスキルを習得したケースがある。
③エンゲージメントを強化でき、離職防止につながる
人手不足ゆえに、一人ひとりの存在感が増し、「自分は会社に必要とされている」という感覚を持ちやすくなる。組織の中で必要とされれば、誰しもモチベーションは高まる。これは、 社員同士の結束感を強めることにもなる。助け合わないと業務が回らないからである。
~介護業界では人手不足が顕著だが、その中でも「利用者から直接感謝される」「チームで支え合う」文化が逆に定着し、離職率を下げている事業所もある。
④外部リソース・多様な人材を活用する契機となる
人材確保が難しいからこそ、副業人材やフリーランス、シニア・外国人材など、多様な人材との協業を進める契機になる。仕事は自社の社員だけでやるものという固定観念から脱却し、社外との協働による新しい発想やノウハウを導入できる可能性がある。
~ITベンチャーでは、人手不足を背景に副業人材プラットフォームを活用し、短期間で新サービスの立ち上げに成功したケースがある。
⑤サービスや事業を見直す機会となる
人が足りないからこそ、「すべてやる」から「本当に価値のある事業に集中する」方向に舵を切ることもできる。採算の悪い事業・商品・サービスを縮小・廃止し、その分を高付加価値分野に集中投資する。
~運輸業界では、慢性的なドライバー不足を背景に、不採算路線を整理し、その分人員を利益率の高い輸送に振り向け、収益改善につなげた例がある。
慢性的な人手不足は企業にとって深刻な課題であるが、あえてポジティブな側面を見れば「組織の効率化」や「人材の成長」を促す契機にもなる。人手不足を組織の変革を後押しする「外圧」として活用してみてはどうだろうか。