2025/6/1

賞与を給与化

 

近年、賞与を給与化する企業が見られる。ソニーでは冬の賞与を廃止し、その原資を給与と夏の賞与に回すという。これにより、2025年度の新卒者の初任給は月額で3万8000円引き上げられたとのことだ。大卒の初任給を10万円引き上げて35万円とした大和ハウス工業も、賃上げに加え、給与と賞与の比率を見直すことで高水準の給与を実現している。他にも、バンダイや伊藤忠テクノソリューションズなどでも、賞与の一部を給与に組み込むことが行われている。

 企業が賞与を給与化するのは、次のようなメリットを期待してのことと考えられる。

① 初任給のアップ
 激化する昨今の新卒採用競争において、高額の初任給をアピールできる。上記の企業では、いずれも大卒で約30万円超の初任給を実現している。
② 社員の定着促進
 収入が安定化することで、社員は生活の安心確保ができ、定着を促すことができる。
③ 社会保険料のコストダウン
 保険料の標準報酬月額には上限があることから、給与を増やすことで社会保険料を減らせる可能性がある。
④ キャッシュフローの平準化
 業績に関わらず一定額を月々支払うことで、キャッシュフローを平準化することができる。
⑤ グローバルスタンダードとの合致
 世界的に見れば、日本の賞与制度は例外的であり、グローバル企業にとっては世界標準に合致させることができる。

 一方、デメリットとしては次のものが考えられる。

① 業績・成果意識の希薄化
 社員に業績や成果に対する意識が薄れる可能性が出てくる。
② 就労意識のメリハリ感の喪失
 毎月の給与とは別に年2回多額の報酬を得られることは、社員の就労意識にメリハリ感を与え、一定のモチベーション維持が期待できるが、その機会が失われる。
③ 固定人件費の増加
 固定人件費が増加することになり、業績変化への柔軟性が低下する。賞与であれば業績に応じて減額は可能だが、給与の減額は困難である。

 デメリットではないが、次のような懸念もある。それは、社員から「賞与がない・少ない」との不満が出てくることだ。変更してしばらくは、賞与を給与に回したことを全員が認識しているが、それ以後に入社した社員が増えてくると、そういった経緯を知らずに、単に他社と比較して「賞与がない・少ない」と不満に思う社員が出てくる。

 「そのときはまた賞与に戻せばよい」というのは早計である。賞与の給与化は、少なくとも会社が決めてしまえばそれほど困難ではないが、逆に給与を賞与化するのは、社員の不利益が大きく、会社業績の悪化などの理由がなければ実施は困難と考えられる。この点からも、賞与の給与化は基本的に一方通行であると認識すべきだろう。

 初任給を引き上げるという目先の事情だけで、安易に賞与を給与化するのは要注意である。        

 


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