2025/3/23

OJT、会社と社員のギャップ

 労働政策研究・研修機構(JILPT)が発表した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査、労働者調査)結果を眺めていて、面白いことに気づいた。どういうことかといえば、OJTに関する企業と労働者の認識のギャップである。

 企業側の調査で、「日常の業務のなかで、従業員に仕事を効果的に覚えてもらうために行っている取り組み(OJT)」として、以下の項目が上位に挙げられた(複数回答)。

「仕事のやり方を実際に見せている」63.9%
「とにかく実践させ、経験させる」62.2%
「仕事を行う上での心構えを示している」44.5%
「身につけるべき知識や能力を示している」44.3%
「目指すべき仕事や役割を示している」34.3%

 一方、労働者側の調査では、「仕事を効果的に覚えるために、いまの会社で仕事をするなかで経験したこと(OJT)」として、以下の項目が上位に挙げられた(複数回答)。

「とにかく実践させてもらい、経験させられた」32.3%
「仕事のやり方を実際に見せてもらった」31.5%
「仕事の幅を広げられた」24.6%
「仕事を行う上での心構えを示された」21.8%
「身につけるべき知識や能力を示された」21.3%

 挙げられた項目は、双方で4つ重なっており、この点に認識の違いは少ない。問題はパーセンテージで、労働者側の数字は企業側のほぼ半分である。企業はOJTに取り組んでいるつもりであっても、社員の半数はそれを認識していないということだ。

 実際、労働者側は「特にない」と回答した人が28.0%にも上っており、実に3割がOJTを受けていないとの認識である。企業側の「何も行っていない」との回答はわずか2.9%なので、大きなギャップが生じている。

 仕事を覚えるときに、調査で挙げられた項目が全く実施されていないとは考えにくい。そのため、このギャップは労働者の意識の問題に起因していると考えられる。

 確かに、仕事を離れて行うOFFJTや自己啓発と違って、仕事の中で行われるOJTは教育を受けているという意識を持ちにくいだろう。しかし、その意識の有無により、教育効果は違ってくると思われる。自分が指導を受けているとの意識が高いほど、相手の期待に応えようとする意欲も高まるはずだ。

 では、社員のOJTに対する意識を高めるために、企業は何をすべきか。ヒントは本調査に示されている。

 調査では、「勤務している会社の人材育成や能力開発の方針が明確か」というのを尋ねている。結果は「明確である」(14.1%)、「どちらともいえない」(38.6%)、「明確ではない」(19.4%)、「そもそも方針があるかどうかわからない」(27.9%)となっており、方針が明確な企業は少ないことがわかる。

 一方で、「今後取り組みたいこと」を尋ねており、その結果について、方針の明確性とのクロス分析を行っている。それによると、方針が「明確である」とした労働者のほうが、今後の取り組みについて前向きな回答が多くなっている。

 OJTの効果を高めるためには、OJTの質を向上させることも大切だが、その前に人材育成や能力開発の方針を明確にし、社員に浸透させておくことが重要といえる。        

 


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