春闘たけなわ、ベースアップの満額回答が相次いでいるなか、初任給引き上げのニュースもよく見かける。
初任給が低いことで知られる銀行業界では、三井住友銀行が大卒20.5万円から25.5万円に16年ぶりに引き上げ、みずほ銀行も大卒20.5万円から26万円に13年ぶりの引き上げを行うとのことである。
また、ファーストリテイリングの大卒25.5万円から30万円、伊藤忠テクノソリューションズの23万円から29.55万円、セガの22.2万円から30万円など、大幅な引き上げも目立つ。従来の数千円アップではなく、桁違いの引き上げをする企業が多いのも最近の特徴である。
理由はもちろん、優秀な学生の確保であるが、果たして学生は初任給額を企業選びの際に重視するのだろうか? 結論から言えば、「重視する」と言えるようだ。
就職情報サービスの学情が昨年10月に2024年3月卒予定の学生に実施した調査(「就職において、初任給はどの程度意識しますか?」という質問)では、9割近くの学生が初任給を重視していることがわかった(「最も重視している」10.9%、「最優先ではないが重視している」76.1%)。重視していないはわずか7%である(「あまり重視していない」5.2%、「重視していない」1.8%)。
もう1つ、ディスコが3月に、2024年3月に卒業予定の大学3年生を対象とした「就職活動調査」では、「企業選びにおける初任給引き上げの影響」というのを尋ねている。結果は、「意識する」の76.7%に対して、「意識しない」は 23.3%で、こちらも初任給の重要性がうかがえる回答となっている。
初任給が高いとその分生活にゆとりが出るという現実的な問題のほかに、初任給が高い・引き上げがある=「業績がよい」「経営が安定」「ヒトを大切にする」といったイメージの問題も大きいと考えられる。
これまではどちらかと言えば、中小企業など人材難の企業が、志望者を増やすために初任給を高くするのが一般的だったが、そういった構図は崩れつつあるようだ。鷹揚に構えていた金融機関も、さすがに5万円以上の差がついて、「これはマズイ」と思い始めたようである。
このような状況のなか、「とりあえず他社が上げるからウチも上げなければ」と考える企業も多いだろう。ただ、安易な引き上げはリスクを伴うので注意が必要である。
新卒者の給与を上げれば、当然ながら、既存の若手社員の給与もそれ以上にしなければならない。さらに影響は若手社員だけにとどまらず、若手が上がったのなら中間層も上げなければならない。そうすると、残業代込みで管理職の給与を逆転してしまい、さらに管理職も上げざるを得ないと、ドミノ倒しで波及し、結果的に大幅な人件費増になりかねない。いったん上げた給与を下げるのは難しい。初任給を引き上げる際には、自社の許容人件費をしっかりと検討しておく必要がある。