2025/3/9

人手不足倒産

 人手不足が深刻である。帝国データバンクの調査では、2025年1月時点で正社員が「不足」と感じている企業の割合は53.4%で、コロナ禍(2020年4月)以降、最も高くなったとのことだ。

 人手不足の深刻化は会社の存続にもかかわる。同社によると、「人手不足倒産」は2024年に342件発生しており、調査を開始した2013年以降、2年連続で過去最多を更新している。

 ところで、業績不振によるものならともかく、人手不足により倒産に至るのは、何か釈然としないという人も多いのではないだろうか。製品・サービスが売れていないわけではないからだ。たとえば、人手が足りないのなら、現状の人員で回せる規模に事業を縮小すればよいのではないか、という考え方もある。

 ただ、人手不足倒産が起こる理由は、単に「事業を縮小すればよい」というほど単純ではない。以下のような要因が絡み合って発生する。

1. 受注があっても対応できない
 特にBtoBの業界では、一度受けた仕事を途中で放棄することは信用問題になる。人手不足で納期が守れない、品質が維持できないとなると、取引先が離れ、結果として売上が激減することになる。

2. 固定費は容易に減らせない
 事業を縮小しても、オフィス賃料、機械リース代、ローン返済などの固定費は急には減らせない。売上が落ちても支出は減らず、資金繰りが悪化して倒産するケースがある。

3. 育成が間に合わない
 人手不足を現在の人員でカバーしようとしても急には育成できない。たとえば、生産部門の人手が足りないからといって、管理部門の社員を回しても、簡単な作業しか任せられないだろう。一人前になるまで時間がかかり、短期的には人手不足は解消できない。

4. 既存社員の疲弊と退職
 少ない人数で業務を回し続けると、既存社員の負担が増す。一時金等で苦労に報いたくても、業績は悪化しているので、それも難しい。結果として離職が進み、さらに人手が足りなくなるという悪循環に陥る。

5. 経営者の判断ミス
 事業縮小は簡単ではない。どの業務を縮小すれば利益を確保できるのかの判断を誤ると、逆に採算が取れなくなる。縮小の対象・規模・タイミングを見誤ることで倒産リスクが高まる。

6. 銀行や取引先の信用低下
 人手不足が深刻になると、取引先や金融機関が「この会社は危ないのでは?」と警戒し、資金調達が難しくなることもある。結果として資金がショートし、倒産するケースもある。

 このように、人手が不足すると「単に規模を縮小すればよい」という話ではなく、売上減少・固定費負担・信用低下・社員の離職など、さまざまな問題が連鎖して発生する。これらが複合要因となって、最終的に倒産に至る。

 人手不足倒産を防ぐには、①業務プロセスの見直しやITツールの導入による業務の効率化、②受注の選別やサービスの絞り込みによる事業の高付加価値化、③周辺業務のアウトソーシングや他企業との協業等による外部資源の活用などがある。

 これらの対策は、人手不足が深刻化してからでは対応が難しい。混乱に拍車をかけるだけになる恐れがある。人手不足を見越して、少しでも余裕のあるうちに手を打つのが大切である。        

 


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