ストレスチェック制度が始まって10年が経つ。現在は常時50人以上の事業場で実施が義務づけられているが、2025年の労働安全衛生法改正により50人未満の事業場にも対象が拡大される。施行は2028年5月までとなっており、いよいよ中小企業にも本格的に広がっていくわけである。
ただ、その一方で、ストレスチェックは本当に役に立っているのかと感じる人も少なくないだろう。Smart相談室が2026年3月に公表した「ストレスチェック受検者の認識と行動に関する実態調査」では、ストレスチェックを「自分の状態を知る良い機会」と受け止める人が36.0%いる一方で、「形式的であまり意味がないもの」が18.6%、「義務的に受けているだけのもの」が12.1%という結果が示されている。さらに、「すべて本音で回答している」と答えた人は35.3%にとどまった。
高ストレス判定後の行動も、やや気になる。同調査では、受検者の3人に1人が高ストレス判定を経験している一方で、判定後に何らかの対処をした人は約半数にとどまった。対処しなかった理由としては、「相談しても状況は変わらない」が43.5%、「形式的なもので意味がない」が31.9%とされている。制度はあっても、その先の行動につながっておらず、こうした結果を見ると、「制度はあるが、十分には機能していないのではないか」と思わざるを得ない。
ストレスチェックの目的は、労働者自身がストレスに気づく「セルフケアの促進」、高ストレス者への医師面接指導による「メンタルヘルス不調の未然防止」、そして集団分析による「職場環境の改善」の3つである。これらの目的が実現できているかどうかという視点から、ストレスチェックの効果を確認してみよう。データの出所は、厚生労働省が2024年に示した検討会資料(「ストレスチェックの効果に関する調査研究結果等」)である。
まず、労働者自身がストレスに気づく「セルフケアの促進」については、比較的わかりやすい結果が出ている。厚労省資料では、IT関連企業の労働者371人を対象にした研究で、ストレス対処の特徴への気づきや対処意欲の高まりがみられ、その意欲は2か月後まで維持されたとされる。また、別の委託調査で、事業者が「社員のセルフケアへの関心度の高まり(53.1%)」や「メンタルヘルスに理解のある職場風土の醸成(27.8%)」を効果として感じていることや、労働者の半数以上が、ストレスチェック制度の効果として、「自身のストレスを意識することになった(50.2%)」点を指摘している。
次に、高ストレス者への医師面接指導による「メンタルヘルス不調の未然防止」については、医師面接を受けた人のうち、それを「有用だった」とした割合は2016年調査で59%、2017年調査で57%だった。受けた人にとっては意味があると言ってよいだろう。ただ、現場ではそこまでたどり着かないことが多い。面談を申し出ることへの心理的抵抗や、会社に知られたくないという不安が、その手前でブレーキになっていると考えられる。面接指導という制度の効果は期待できるものの、効果を発する前の段階で止まってしまっているのである。
集団分析による「職場環境の改善」を見てみると、常勤労働者3,891人を1年間追跡した研究で、ストレスチェック受検と職場環境改善の両方を経験した人は、どちらも経験していない人に比べて、心理的ストレス反応が有意に低下したとされている。また、職場環境改善を経験した人のうち、それを有用と感じた割合は2016年で63%、2017年で59%だった。つまり、単に受けただけでは効果は見えにくいが、結果を職場の改善に使ったときには、制度はきちんと効果を持ち始めると考えられる。
もっとも、その運用はまだ十分とは言えない。令和6年の「労働安全衛生調査」では、ストレスチェックを実施した事業所のうち、集団分析を行ったのは75.4%、さらにその分析結果を活用したのは76.8%だった。前年より改善しているとはいえ、すべての職場で結果が具体的な改善行動にまでつながっているわけではない。受検者が形式的と感じる背景には、こうした実施後の対応が不十分な点もあるのだろう。
結局のところ、この10年のストレスチェック制度を振り返ってみて、確実に効果があるとまでは言えないようだ。セルフケアのきっかけとしては一定の意味があり、高ストレス者の把握にも役立つ。実際、高ストレス者は、そうでない労働者に比べて1か月以上の疾病休業の発生リスクが男性で6.6倍、女性で2.8倍高いという研究も厚労省資料で紹介されている。問題は、そこで終わってしまうケースが多いことだ。
制度を受けるだけのものにすると形骸化するが、職場を見直す材料として使えば、十分に活かしようはある。50人未満企業への義務化が近づく今、具体的な改善行動にどう結びつけていくかが制度の効果を左右する。ただ、規模が小さくなるほど、その具体的改善行動が難しい。この点にどう対応するか(国・厚労省から言えばどう対応させるか)が、ストレスチェック制度が機能するためのカギとなるだろう。