2025/2/9

「初任給30万円時代」に思う

 「大卒初任給30万円時代」-という見出しで、1月19日の日経新聞は、ファーストリテイリングや三井住友銀行、大成建設などが、初任給を30万円以上に引き上げることを報じていた。

 一部の例外的企業と思うかもしれないが、1月21日に公表された経団連「2024年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、大卒初任給が30万円~35万円未満の企業は7.2%である。2024年でこの数値なので、2025年は10%を超える可能性がある。決して一部の例外企業とは言えない。

 同調査では、過去3年の引き上げ額をたずねているが、10,000円~20,000円未満の推移は、2022年度8.1%、2023年度27.5%、2024年度45.3%となっている。一方、1円~5,000円未満は、2022年度33.3%、2023年度12.3%、2024年度5.6%だ。この3年間で、引き上げ額が顕著に大きくなっていることがわかる。

 初任給引き上げの背景には、新卒者の採用競争の激化があるのは間違いない。経団連の調査で、引き上げの要因(2つまで指摘)として、「人材の確保」が85.5%で圧倒的なトップとなっている。日本商工会議所が1月31日に公表した「早期景気観測」1月調査でも、採用活動にあたって取り組んだ事項として、「初任給の引き上げ」を実施した企業が、前年同月比10.8ポイント増の61.0%となっており、その必要性が高まっていることがわかる。

 新卒者にとっては、初任給引き上げは大歓迎である。その一方で、既存社員にとってはどうだろうか。若手は、初任給アップに伴い自分の給与もアップするのでウェルカムとなるだろう。一般に、新卒と既存若手社員との給与が逆転しないよう、既存社員の給与を調整するからだ。

 ただ、そのような調整の対象外となる中高年社員は、複雑な気持ちというのが正直なところだろう。人件費は限られている。どこかを増やせば、その余波がどこかに波及する。「それは自分たち中高年の人件費に跳ね返ってくるのではないか」と考えるのも自然である。

 これについては経団連の調査で、初任給引き上げの原資をたずねている。結果は次の通り。

「新たに初任給引上げの原資を追加」63.6%
「既存社員を含めた給与等人件費の原資内で調整」34.0%
「その他」2.4%

 つまり、6割強の企業では、そのような心配は無用だが、3割強の企業では、不安が現実化する恐れがあるということだ。いきなり給与を下げられることはないにしても、昇給額が減少したり、賞与原資を削減されたりすることはあり得る。

 「永年貢献してきた自分たちよりも、まだ何の貢献もしていない新卒者を優遇するの?」との愚痴が聞こえてきそうだが、これもまた現実だ。「初任給30万円時代」は、中高年社員に厳しい現実をあらためて突きつける時代ともいえる。        

 


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