2025/1/26

第3号被保険者見直しの方向性

 昨年12月24日、5年に1度行われる年金制度改革の厚生労働省案が、厚労省の諮問機関である社会保障審議会に示された。パート労働者の厚生年金拡大などが提示されたなか、主に専業主婦が該当する第3号被保険者の見直しは見送られた。

 第3号被保険者は、106万円や130万円といった「所得の壁」の根源となっている制度である。公平性などの観点から見直しの必要性は高いのだが、見直しによる影響の大きさから実施が困難という代物である。

 第3号被保険者の見直しというのは、端的に言えば誰が保険料を負担するかだ。ここでは、その方向性を考えてみよう。

 まず考えられるのは、第3号被保険者の特例的な扱いを廃止し、これまで負担していない人に保険料の支払いを求めることだ。

 第3号被保険者の仕組みは、いわば国が支給する配偶者手当である。近年、配偶者手当の廃止が進んでおり、国家公務員も廃止となった。ただし、いきなりゼロにするのは影響が大きいため、数年かけて減らしていくのが一般的だ。第3号被保険者も同様に5年くらいかけて徐々に負担を増やし、5年後に第1号被保険者と同額とする仕組みが考えられる。

 この別バージョンとして、第3号被保険者を扶養する第2号被保険者の保険料を引き上げる仕組みもある。世帯単位で考えれば、保険料負担の総額は変わらない。

 次に考えられるのは税方式だ。基礎年金分を税で賄う仕組みに移行させる。この場合、第3号被保険者だけというわけにはいかないので、全雇用者の基礎年金を税負担で賄うことになる。国民からすれば、保険料負担なしで基礎年金を受け取ることになるので、事実上のベーシックインカムである。税源としては、広く徴収できる消費税が想定されるだろう。

 では、どれくらいの増税が必要か。基礎年金額(国民年金額)は1年間で約20万円。就業者と第3号被保険者で約7,400万人とすると、約15兆円の新たな財源が必要となる。2023年の消費税収入は23兆円なので、1%あたり2.3兆円の収入と考えると、6.5%のアップが必要である。

 どちらが妥当かは、考え方次第だ。第3号被保険者による負担は、現在の社会保険の仕組みを大きく変えなくてよいというメリットがある。一方で、第3号被保険者、実際には扶養者である第2号被保険者の負担が増す。

 税方式は、働く人の負担は減るが、既にリタイアした年金生活者や学生、子どもの負担が増える。まあ、学生や子どもはいずれ就業者となるので、その負担には見返りが期待できるが、現在の年金生活者は消費税の増額分が重くのしかかる。また、これまで支払ってきた基礎年金分の保険料をどう反映させるかという問題も残る。

 いずれにしても不利益を被る人が多く、実現は容易ではない。特に税方式は、表面的に国民全員の負担が増すことになるので、これを打ち出す政党は相当な批判を覚悟しなければならず、選挙で不利になる可能性が高い。もちろん、熱烈な支持を受ける可能性もあるが。

 第3号被保険者の見直しには、経団連をはじめとする経済団体も、また連合も賛成している。政治家も必要性を認めながら、言い出せないという人が大半ではないだろうか。仮に実施できれば、その政権は、少なくともその実行力において後世に名を残すに違いない。        

 


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