2024/12/8

教員の残業代問題

 公立学校の教員の残業代は、教員給与特別措置法(給特法)に基づき、「教職調整額」として一律額が支給されている。その額は基本給の4%である。

 4%の根拠は、1966年度に文部省が行った教員の勤務状況調査で、当時の時間外勤務が月8時間だったことなどを踏まえたものだ。

 現在の状況はどうかといえば、平日の在校時間は小学校10時間45分、中学校11時間1分である(令和4年度教員勤務実態調査)。さらに土日は小学校36分、2時間18分である。これを月換算すると、小学校で57時間、中学校で69時間程度となる。あくまで在校時間であって勤務時間ではないが、60年前と比べて、大幅に労働時間が増加しているのは間違いない。

 教員といえば、夏休みなどがあるのではと思われるが、同調査によれば、夏季休業期(8月の平日)の出勤日数は小学校5.6日、中学校8.7日である。確かに一般の会社員よりは出勤日数は少ないものの、子どもと同じように長期間休んでいるわけではないことがわかる。

 近年、教員のなり手不足が顕著である。2023年度の教員採用試験の全国平均倍率は3.4倍と過去最低となっている。東京都の小学校に至っては1.1倍と、落ちるのが難しいくらいの状況である。

 打開策の1つとして、文部科学省が目を付けたのが教職調整額の改定だ。教員の処遇改善を図るため、2025年度予算の概算要求で教職調整額を13%に引き上げる案を盛り込んだのだ。ところが、そこに財務省が待ったをかけた。「13%は月26時間の残業時間に相当し、中央教育審議会が示した月20時間に縮減するとの目標との整合性に欠ける」などと指摘し、別の案を提案してきたのである。

 財務省案は、働き方改革により教員の残業時間を縮減できれば、調整額を段階的に引き上げていき、10%に達した時点で、時間外勤務時間数に応じたに移行するというものだ。順調に進めば30年度ごろに達成するとの見込みで、財務省は「働き方改革に取り組む強力なインセンティブになる」と主張している。

 …ということだが、仮に財務省案が実施されることになれば、サービス残業の多発が想定される。教員からすれば、残業代引き上げのために目標は必達である。となると、実際の労働時間はともかく、とりあえず残業を減らしたように見せるだろう。まじめに申告して4%を続けられるよりも、過少申告をして引き上げてもらったほうがトクになるからだ。

 もともと、一般の会社員と違って、教員の仕事はどこからどこまでが労働時間の線引きが困難だ。仕事を終えて帰り支度をしているところに生徒が質問に来れば対応するだろう。「先生は業務終了したから明日にしてくれ」という先生はいないはずだ(だからこそ、「教職調整額」という形で支給をしてきたのだろう)。残業時間の申告は恣意的にできると考えられる。

 もう1つ気になるのは、「残業手当」に移行した際に給与が減る教員が出てくることである。時間外勤務がゼロであれば、基本給の10%分が無くなってしまうことになる。「残業もないのに、それまでもらっていたのがおかしい」というのは正論だが、永年の既得権というのはそれなりに保護する必要もある。中には頑張って時短に取り組んだ教員もいるだろう。その挙句、給与が減らされるのも不合理である。

 構図としては、実態に合ったものにしたい文科省と、理想を実現したい財務省の対立ということだろう。理想か現実か。理か情か。おそらく折衷案のような形に落とし込まれると思うのだが、議論の行方に注目しておきたい。       

 


 過去記事は⇒ミニコラムもご参照ください。
 お問い合わせは⇒お問い合わせフォームをご利用ください。

にほんブログ村 経営ブログ 人事労務・総務へ

にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
 

PVアクセスランキング にほんブログ村
にほんブログ村に参加しています。