2023/11/19

中小企業の確定拠出年金導入~その1

 退職金には一時金と退職年金の2つがある。このうち退職年金は大企業のもので中小企業とは無関係というイメージがあるが、そうでもない。令和5年就労条件総合調査によれば、退職金制度のある従業員数30~ 99人企業の22.8%が退職年金を有する。平成30年調査では17.9%なので、退職年金制度のある中小企業の割合は増えている。

 30~ 99人規模の退職年金制度がある企業について、支払準備形態(複数回答)別の企業割合をみると、「厚生年金基金(上乗せ給付)」が 26.5%、「確定給付企業年金(CBP を含む)」が36.2%、「確定拠出年金(企業型)」が 45.8%となっており、確定拠出年金(DC)が半分近くを占めている。

 このように中小企業であっても退職年金を有する企業は一定数あり、その半数近くがDCを導入していることがわかる。また、導入企業も増えていると推察され、DCには一定の関心があるといえそうだ。

 そこで本コラムでは、中小企業が導入する際のポイントを述べてみるが、その前にまずDCの概要を整理しておきたい。

 DCの種類は、企業が制度運用する企業型と社員個人が運用する個人型(iDeCoイデコ)の2つがある。

 このうち企業型は、退職金型と福利厚生型に分けられる。退職金型は、退職金制度として、会社が給与に上乗せして掛金を拠出するものだ。なお、これに上乗せする形で、社員個人も拠出するマッチング拠出というパターンもある。

 福利厚生型は、福利厚生制度として、社員がDCを選択した場合に既存の給与の一部を拠出していくものだ。これに会社が掛け金を拠出するパターンもある。なお、DCを選択しない場合はセカンドライフ手当などと称して毎月受け取ることになる。退職金の前払いという意味合いとなる。

 個人型(iDeCoイデコ)には、通常のiDeCoと中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)の2つがある。通常のiDeCoは、個人で加入する確定拠出型の私的年金である。中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)は、iDeCoに加入している社員に会社が掛け金を上乗せ拠出する制度で、300人以下の中小企業だけが導入できる。

 本コラムは企業の退職金を想定しているので、以下、企業型を前提に話を進めたい。

 企業型DCのメリットとデメリットを、会社・社員双方の視点から整理しておこう。
まず会社のメリットは以下のものである。
・退職金債務を確定できる
・全額損金算入可能(現在は中退金のみ)
・人材採用で有利となる
・経営者も加入できる

 人材採用面に関して言えば、大企業出身者はDC保有者が多いので、転職先にそのまま移管したいというニーズがある。中小企業でそのニーズに応えられれば大きなメリットがある。

 次に会社のデメリットは以下のものである。
・制度運営コスト・手間がかかる
・勤続3年以上の自己都合退職や懲戒解雇に対する減額支給・不支給ができない

 続いて社員のメリットは以下のものである。
・持ち運びができる
・税制や社会保険の優遇が受けられる
・福利厚生型の場合、退職金の前払いを選択できる

 社員のデメリットは以下のものである。
・運用の手間、リスクがある
・60歳まで資金化できない

 導入の費用は、50人~100人規模の中小企業であれば、初期費用に40~80万円、ランニングコストに月4~5万円といったところである。

 これらのメリット・デメリット、費用を踏まえて導入を検討することになる。中小企業がどのように導入していくか、そのポイントを次回まとめていく。    

 


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