リスキリングが大流行だ。政治家、経営者、学者などがリスキリングについて発言をしたり、企業のリスキリングの取り組みを紹介したりする記事を毎日のように目にする。
岸田首相は、人への投資が経済のカギであるとの認識のもと、リスキリングによる能力向上、ジョブ型の人材マネジメントの導入、そして労働移動の円滑化の3つからなる三位一体の労働市場改革を進めている。
このように官民を挙げてリスキリングの必要性を訴えているものの、当の労働者の動きは今一つ、いや、かなり鈍いようだ。
パーソル総合研究所が8月31日に発表した、「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」結果によると、ミドル・シニアの70.1%が「何歳になっても学び続ける必要がある」と学び直しの重要性を認識しているものの、実際に「学び直しをしている」は14.4%にとどまるとのことだ。「学び直す意欲はあるが特に学んでいない」(29.8%)と「学び直す意欲がない」(47.5%)を合わせると77.3%になり、8割近くは何も学ぼうとしていない。
日本の自己啓発意欲の低さは国際的に見ても顕著だ。同じくパーソル総合研究所が世界18ヵ国・地域の就業者を対象に行った「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」において、勤務先以外で自分の成長を目的に行っている学習・自己啓発で、日本は「何も行っていない」割合が52.5%と突出して高かった。2位のオーストラリアが28.6%なので、その突出ぶりがよくわかる。全10項目のすべてで全体平均を下回り、7項目が最下位となるなど自己研鑽意欲の低さが際立つ。
なぜ学びへの意欲が低いかと言えば、ジョブ型雇用を基本とする諸外国のようにリスキリングが雇用や賃金アップに直結しないからと考えられる。
ジョブ型雇用では、仕事に求められるスキルとレベルが明確化しており、このスキルでこのレベルなら、これだけの賃金がもらえるというのがハッキリしている。逆に言えば、スキルを高めない限り賃金アップは望めない。したがって、自己研鑽意欲は自ずと高まる。
一方、日本のメンバーシップ型雇用では学びが昇進・昇格に直結しない。仕事のスキル以外の要素、積極性や協調性、コミュニケーション力などが重視されるからだ。また、せっかく学んでも、そのスキルを必要としない別の部署に異動する可能性もある。別の見方をすると、特にスキルを高めなくても昇進・昇格できるし、少なくとも定年までは勤められる。
転職も同様で、一定の資格を別にすれば、スキルを学んだからといって賃金が高くなるわけではない。もちろん、採用に有利にはなるだろうが、どちらかといえばそれまでの経験が重視される。このような状況では、リスキリングをする必要性がどうしても低くなってしまう。
そのような意味でジョブ型雇用への転換は、リスキリング促進の面で効果は高いと思われる。とはいえ、リスキリング促進のためにジョブ型雇用に切り替えるのは本末転倒である。
リスキリングを推し進めるのであれば、ジョブ型雇用の普及が求められ、ジョブ型雇用の普及には円滑に労働移動ができる労働市場の充実が必要である。まさに三位一体の労働市場改革が求められ、その意味で岸田首相の言うことは正しいのだが、それだけに容易には解決しないのが厄介である。