2025/5/4

職務給と役割給の違い

 厚生労働省が「日本における職務給取組事例集」という資料を出している。職務給を導入している企業の詳細な事例をまとめたものだが、掲載されている9社の事例の中身は、職務給が2社で、他の7社は役割給の事例となっている。事例集では、職務給と役割給が同一視されているのだ。

 確かに、年齢や学歴など属人的な要素で決定する属人給か、仕事要素で決定する仕事給かで言えば、職務給も役割給も仕事給に属するが、両者は明らかに別物である。あらためて両者の違いを整理しておきたい。

 まず、職務給を定義づけると、担当する職務の内容や価値に基づいて決定する給与となる。特徴として、以下が挙げられる。

①職務の難易度、責任の重さ、市場価値などに応じて金額が決まる。
②同じ職務なら、誰がやっても基本的には同じ給与水準となる。
③基本的に単一給であり、職務が変われば金額も変わる。

 一方の役割給を定義づけると、社員が担う役割や期待される成果に基づいて決定する給与となる。特徴としては以下のものである。

①組織の中で、どれだけの役割(ミッションや目標、成果)が期待されるかで金額が決まる。
②同等の役割であれば、誰であっても基本的には同じ給与水準となる。
③一般に範囲給であり、職務が変わっても同等の役割であれば金額は変わらない。

 ざっくりと言えば、個々の職務に応じて設定するのが職務給、それよりも大きな役割という括りで設定するのが役割給である。たとえば、営業部長の給与は60万円、製造部長の給与は55万円とするのが職務給、部長職という役割であれば60万円とするのが役割給である。

 次にそれぞれのメリット・デメリットを整理してみよう。職務給のメリットとしては以下のものがある。

①同一労働同一賃金で公平性が高い
 同じ職務であれば、誰が担当しても同じ給与になるため納得感が得やすい。
②市場と連動しやすい
 職務の価値が市場相場に応じて決まるため、外部競争力を保ちやすい。人材の獲得にも有効となる。特に希少性の高い専門人材を高給で処遇できる。
③職務記述書が整備される
 職務内容が明確になり、採用や評価の基準がはっきりする。
④年功主義から脱却できる
 職務で処遇が決まるため、年功的な運用から脱却できる。

 一方で職務給のデメリットは以下のものである。

①日本型組織との相性が悪い
 職務を明確にせず、多様な職務を協働して遂行する日本型組織では運用しづらい。また、職務の変更により給与が変動するので、ジョブローテーションが難しくなる。
②個の成果を反映しづらい
 職務基準のため、個人の能力アップ、努力や成果が給与に直結しづらい。
③定期的な昇給が困難
 原則として、上位の職務に就かない限り昇給はないので、社員のモチベーションに影響する。
④職務記述書の作成、メンテナンスが必要となる
 職務ごとの職務記述書の作成およびメンテナンスが必須で、手間がかかる。

 次に、役割給のメリット・デメリットを見ていこう。まず、メリットは以下のものである。

①成果主義との親和性が高い
 組織に対する貢献度を反映しやすく、給与と会社業績の連動性が高まる。
②人材育成や成長と連動しやすい
 社員の能力向上に応じて給与アップが可能で、モチベーションを高められる。
③職務変更による給与変動リスクが低い
 設計の仕方にもよるが、職務変更による給与変動リスクが職務給に比べて低く、ジョブローテーションをしやすい。
④詳細な職務記述書は不要
 職務給のように詳細な職務記述書を作成する必要はない。

 役割給のデメリットは以下のものである。

①基準があいまいになりがち
 役割の定義や評価の仕方が不明確だと、給与決定に不透明感が出やすい。
②恣意的運用のリスク
 上司の制度理解が足りなかったり、誤っていたりすると、不公平感が生じたり、年功的な運用に流れたりする懸念がある。
③制度設計に手間がかかる
 役割定義やグレード設計をしっかり作らないと運用が混乱しやすい。

 このように役割給は柔軟性があり、メンバーシップ型雇用が一般的である日本企業との親和性が高い。もっとも、社会の流れとしては、社員の個性や処遇の明確性を重視する職務給が求められているといえる。今後は、両者の折衷のような日本型職務給(たとえば、部門ごとに役割を設定し、それに基づいて給与を定めるなど)が増えていくことが予想される。        

 


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