2022/10/30

研修・教育訓練の課題

 このところ、「人的資本経営」「リスキリング」など、ヒトに着目した経営キーワードを見聞する機会が非常に多くなった。

 世界の先頭を走っていたはずが、いつの間にか周回遅れになっているニッポンの現状に愕然とし、物的資源の乏しいこの国で頼りにすべきはヒトであることに改めて気づいたといえる。ヒトの重要性は今に始まったわけではないが、これまで以上に「何とかしなければ」との切迫感を感じるのは筆者だけではないだろう。

 一部の大手企業では、全社員にDX教育を実施するなどの動きも見られるが、一般的な動向はどうなのだろうか。

 東京商工会議所が10月26日に公表した「研修・教育訓練、人材育成に関するアンケートの集計結果について」では、社員に対する研修・教育訓練を「とても重要である」(58.0%)、「まあまあ重要である」(41.2%)と、ほぼすべての企業が「重要」と認識していることがわかる。まあ、これはもっともな結果だろう。問題はそれをどう実践するかである。

 今後2~3年程度を見据えた対象者一人当たりの予算について、「大幅に増やしたい」(3.3%)、「ある程度増やしたい」(44.9%)、「増減なし、現状維持」(46.2%)で、「増やしたい」と考えている企業は約半数にとどまる。「減らしたい」のは2.7%とごくわずかなので救いはあるものの、理想と現実のギャップがうかがえる。

 具体的な研修テーマを見ると、今後2~3年程度を見据えて強化していきたい内容・テーマに関して、階層別では、「リーダー社員研修(40.9%)」、「中堅社員研修(39.8%)」、「管理職向け研修(39.2%)」を挙げる企業が4割程度で拮抗している。「新入社員研修(22.6%)」「経営層向け研修(17.7%)」はそれほどでもないことから、現場の中核となる層の強化が主要な課題となっているといえそうだ。

 スキルアップ、知識・ノウハウの習得に関しては、「法務、コンプライアンス、リスク管理」(30.1%)、「コミュニケーション能力、プレゼンテーション」(28.8%)、「技術・技能の習得・向上」(26.1%)などが人気である。

 業務改善、事業変革に関しては、「業務のデジタル化(DX化、43.4%)と「業務効率化、生産性向上(37.6%)」が他を圧している。DX化は、直近1年間に実施したのは21.9%なので今後大きく伸びそうである。スキルアップ研修よりもこちらに注力する企業も大いに違いない。研修業者からすると、DX研修は“金のなる木”となる。

 とはいえ、流行だからといってやみくもに研修を実施しても効果は低い。実施に際しての課題として、3割(30.5%)の企業が「研修・教育訓練の方針や計画が無く、体系的に行われていない」を挙げており、行き当たりばったりの研修に不安を抱えていることがうかがえる。過去記事の「OFF-JTは効果があるか」でも触れたが、人材育成・能力開発の方針が浸透している企業では、OFF-JTの効果が高い傾向にある。

 「人的資本経営」「リスキリング」によって人材育成の必要性を再認識するのはよいが、実施にあたっては体系性や計画性が求められることにも留意しておきたい。       

 


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