3月は新卒者向けの企業説明会など就活が始まる一方で、永らく勤めた社員が定年を迎える時期でもある。定年退職者にとって一番の関心事は退職金がいくらになるかだろう。
退職金額は、大企業と中小企業とで大きな差があるというのは一般的な認識と思う。ここでは、3月15日に発表された経団連の「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」を基に、退職金額をはじめとする大企業の退職金制度の実態を概観したい。なお、調査は中小企業も対象となっているようだが、500人以上が7割を占めるということなので、概ね大企業の実態を表わしていると考えて差し支えないだろう。
まずは会社都合退職者の60歳モデル退職金額は以下の通りだ。
「管理・事務・技術労働者(総合職)」大卒 2,243万円、高卒 1,953万円
「生産・現場労働者」高卒 1,782万円
中小企業はどうかといえば、東京都「令和2年中小企業の賃金事情」によれば、
大卒定年退職者 1,119万円
高卒定年退職者 1,031万円
である。やはり、格差は歴然としている。
次に、賃金改定と退職金算定基礎額との関係では、「賃金改定額とは関係なく別建て」とする企業が8割強を占めている。つまり、退職金を算定するときの代表例である基本給連動方式は2割もないということで、この結果はやや驚きである。ちなみに別建ての内訳は、「ポイント方式」が76.7%、「別テーブル方式」(17.6%)、「その他」5.7%となっており、ポイント方式の人気が高い。
そのポイント方式のポイントの配分割合は、「資格・職務要素」が60~70%、「年功要素」が20~25%、「考課要素」が10%といったところで、年功よりも能力や成果を重視していることがうかがえる。
現在ポイント方式を採用している企業も、元は基本給連動方式であったところが多いと思う。切り替えの大きな目的に年功からの脱却があったはずなので、それが反映されているということだろう。
最後に、退職金制度の形態を見ると、「退職一時金制度と退職年金制度の併用」が66.1%と3分の2を占め、「退職一時金制度のみ」 15.9%、「退職年金制度のみ」10.3%と続く。
これが中小企業だと、「退職一時金のみ」が71.8%と7割を占め、「退職一時金と退職年金の併用」が23.3%、「退職年金のみ」が4.9%である。「退職一時金のみ」の大卒定年退職金額が987万円であるのに対して、「併用」の場合は1,364万円である(上記東京都調査)。退職年金制度の有無が、大企業と中小企業の退職金額の格差に大きな影響を与えているといえそうだ。