若手社員の退職理由としてよく挙げられるのが「この会社では将来のキャリアが描けない」というものだ。キャリア教育が小中高等学校で行なわれるようになって久しく、今の20代~30代ならば、自分のキャリアに重大な関心を持っている…と思うのだが、実際のところ、社員は将来のキャリアをどう考えているのだろうか?
労働政策研究・研修機構が公表した『人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(労働者調査)』では、正社員に対して、「将来のキャリアについてどのような見通しや希望をもっているか」を尋ねている。
結果を見ると、最多となったのは「将来のことは考えていない(33.8%)」で、およそ3分の1を占めた。調査対象は18歳~65歳で、中高年者の回答の影響もあると思われるので、若年者の数値を見ると、男性18~29歳25.7%、女性18~29歳30.0%となっている。全体に比べれば低いものの、それでも4分の1以上である。
企業規模別では、規模が小さいほど高く9人以下では4割を超える。9人以下では組織や職制も整っておらず、将来を考えても仕方がないという面もあるのだろう。業種別では、運輸業・郵便業41.5%、卸売業・小売業36.1%、生活関連サービス業・娯楽業35.8%などが高い。
このように年代や規模、業種による差はあるものの、キャリアについて考えていない社員は意外と多いという少し脱力感を覚える結果となった。
2番目に挙がったのは、「いまの会社で専門職として現在の職を究める(27.3%)」である。専門職志向の高さは、日々のコンサルティングにおいても実感しており、たとえば、専門職制度を導入すると社員の関心はこちらが想定している以上に高く、積極的に手を挙げる人が多い。中には管理職から移りたいという人もいるくらいである。
3番目は「転職する(19.2%)」、4番目は「いまの会社で幹部(部・課長以上)になる(15.5%)」である。専門職志向の高さとは裏腹に管理職志向の低さが目を引く。「社員が管理職になりたがらない」という嘆きは、経営者や人事担当者から常々お聞きするが、あらためて数字として認識できる。何しろ「転職する」よりも低いのである。
ひとつは、そもそも管理職になりたくてもなれないという諦めもあるだろう。一部の成長企業を除けば組織拡大は望めず、管理職ポストは限定的である。特に中小企業ではポストが固定化されており、現職者が定年となるまで空席が出ないという企業も多い。実際、規模別に見ると、9人以下12.2%、10~29人12.3%、30~99人11.6%、100~299人13.4%、300人以上18.4%と規模が小さいほど管理職志向は低い傾向が見られる。
そして、やはりというべきか男女間でかなりの差がある。男性18.6%に対し女性は8.7%である。年代別でも最も多い30歳代でも10.6%に過ぎない。
最下位は「独立・開業する(4.3%)」である。性別・年代別では、男性は若年者の方が高く、女性は40代・50代の方が高いという結果となっている。女性の方がしっかり経験を積んでから独立という傾向がうかがえる。業種別では、学術研究、専門・技術サービス業(10.8%)、宿泊業・飲食サービス業(8.3%)が際立って高い。
以上、自分のキャリアを考えていない社員が3割いる一方で、7割は何らか考えを持っていることがわかった。3割の中には、考えても仕方がない、あるいは考える機会がない、といった人も多数いるはずだ。そういった人たちも含め、企業が社員のキャリアにこれまで以上に関心を持つ必要があるのは確かと言えるだろう。