2025/5/25

小規模企業のストレスチェック

 5月8日の衆院本会議で改正労働安全衛生法が可決・成立し、これまで従業員50人以上の事業場を対象としていたストレスチェック制度が、規模を問わず、すべての企業に義務付けられることになった。施行は公布(5月14日)から3年以内とされているので、2028年4月頃と見込まれる。

 ストレスチェックは、メンタルヘルス不調の未然防止のため、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して、自身のストレスの状況への気づきを促すとともに、検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげるものだ。具体的なプロセスは以下のとおりである。

① 衛生委員会等において、ストレスチェック制度の実施方法等について調査審議を行うとともに、ストレスチェック制度の実施方法等を規程として定める。
② 労働者に対して、医師等によるストレスチェックを行う。
③ ストレスチェックを受けた労働者に対して、医師等の実施者から、その結果を直接本人に通知させる。
④ 通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者から申出があった場合は、医師による面接指導を実施する。
⑤ 面接指導を実施した医師から、就業上の措置に関する意見を聴取する。
⑥ 医師の意見を勘案し、必要に応じて、適切な措置を講じる。
⑦ 実施者に、ストレスチェック結果を一定規模の集団ごとに集計・分析させる(努力義務)。
⑧ 集計・分析の結果を勘案し、必要に応じて、適切な措置を講じる(努力義務)。

 このように手間のかかる作業であり、担当者の負担も生じてくる。小規模企業では、人事労務の専任者を置いていないところも多いが、法定されたからには、適当な担当者がいないからといって実施しないわけにはいかない。

 では、小規模企業がどのように実施するか。選択肢としては、外部業者・専門機関に依頼するか、あるいは厚生労働省のツール(ストレスチェック実施プログラム)を使って自社で実施するかの2つになるだろう。

 外部業者・専門機関に依頼すれば、実施から結果通知、面談指導、集計分析までワンストップ対応可能というメリットがある。また、プライバシーの面でも社員の安心感を保てる。一方で、当然ながら費用がかかる(一般的に1人あたり500〜1,500円程度)。

 このため、衛生管理者や産業医の体制が整っていない、実務をなるべく外部に任せたい、メンタルヘルスに力を入れたい、といった企業に適している。

 厚生労働省のツールを使用する場合は、金銭的コストがかからないというメリットがあるものの、ある程度の専門的な知識や制度の理解がないと運用が煩雑になる可能性があり、医師等の実施者を自社で準備する必要がある。

 このため、衛生管理者が社内にいる、産業医と契約している(または外部に相談できる)、 個人情報の管理体制が社内にある程度整っている、といった企業に向いている。

 このように、小規模企業のストレスチェックの実施は、とにかく金銭的コストを抑えたいのであれば、厚生労働省の無料ツール+最低限の体制で自社実施がよい。一方、効率・専門性・従業員の安心感を重視したいのであれば外部業者に委託するのがよい。

 外部業者を選定する際のポイントは、コスト、専門性、付加サービスの3点である。初期費用やランニングコストを抑えたいか、メンタルヘルス専門医のサポートを受けたいか、多言語対応や結果を職場環境改善につなげるなどのサービスを受けたいか、といった観点から選ぶことになる。厚労省が作成している「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」も参照するとよいだろう。        

 


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