有期雇用者の無期転換制度(有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みにより無期労働契約に転換できる制度)が導入されたのは2012年で、実際に転換権が生じるようになったのは2017年である。
制度ができた当初は、多くの有期雇用者が無期雇用に転換し、企業が混乱に陥るのではと不安視されたが、そうした話しはほとんど聞かない。1つは折からの人手不足と重なり、非正規社員の正社員化を押し進めるなど、企業が積極的に無期雇用への転換を図った点である。そしてもう1つは、制度そのものが当の有期雇用者に浸透していない点である。
厚生労働省が7月28日に公表した2021年度有期労働契約に関する実態調査結果によれば、有期契約労働者が無期転換ルールに関する知識(※制度内容に関する基本的な5つの知識)について、いずれか1つでも知っていると回答した割合は38.5%であった。
そして、「内容は知らないが無期転換ルールという名称は聞いたことがある」17.8%、「無期転換ルールについては何も知らない・聞いたことがない」が39.9%である。
当事者である有期雇用者自身の認知度合いが、「制度名は聞いたことがある」を含めても6割程度なのだ。無期雇用への転換というのは、その人の人生を左右しかねない重大事項と思える。そう考えると、この認知度合いは低いと言わざるをえない。
それでは、無期転換ルールを知っている人はどのようにして情報を入手したのだろうか。情報入手ルート(複数回答)の上位は以下となっている。
「勤務先(派遣会社を含む)」55.5%
「新聞報道やテレビ、雑誌や本」18.6%
「職場の同僚や友人、家族等」13.2%
「厚生労働省ホームページ」10.4%
勤務先が圧倒的に高割合だが、それでも5割超で、企業が情報提供に積極的でないことがうかがえる。
そうした企業の姿勢もあってか労働者の側も消極的である。有期契約労働者の無期転換の希望の有無を見ると、
「無期転換することを希望する」18.9%
「無期労働契約への転換は希望しない」22.6%
「わからない」53.6%
と、「希望する」は2割弱しかおらず、しかも「希望しない」を下回っている。「わからない」が半分以上を占めているのも関心の低さを物語っている。
無期転換を希望しない理由(最大3つ、複数回答)には、
「高齢だから、定年後の再雇用者だから」40.2%
「現状に不満はないから」30.2%
「契約期間だけ無くなっても意味がないから」20.5%
「責任や残業等、負荷が高まりそうだから」15.8%
などが挙げられており、あえて希望しない人だけでなく、消極的に希望しない人がいることが見受けられる。中には、本当は希望するのだが、言いたくても言えない人もいると思われる。特に、無期転換制度の情報提供を行っていない企業では、その傾向が強いだろう。企業はそういった人たちの気持ちを汲んでほしいものである。最低限、情報提供くらいはすべきと考える。