2020/2/17

新人のジレンマ

 経済学のゲーム理論に“囚人のジレンマ”というのがあるが、企業においては、新卒者を採用する際に“新人のジレンマ”が発生する。“新人のジレンマ”とは、新人の教育に力を入れれば入れるほど、育った人材が他社に流出してしまう現象である。

 最近の学生が企業を選ぶポイントとして重視するのは、入社した企業でいかに自己成長できるかだ。そのため、企業としては、希望の職種への配属や充実した能力開発制度と育成プログラム、メンターによる綿密な指導など、新人の成長を促す仕組みが万全であることをアピールし、実践する。

 もちろんこれまでも企業は充実した新入社員教育をうたってはいた。ただ、実態は新入社員研修をするくらいで、後は職場任せとするのが普通だった。新人が育つかどうかは、配属された職場の上司次第で、運・不運に左右されるケースが多かった。今でもそういうところはたくさんあるはずだ。こういった企業との差別化を図る意味で、真に新人を育てようとする企業が増えつつある。

 実際に新人たちは着実に成長し、3年くらいすると立派な戦力となる。まだ20代半ばで、それなりの実績を持つのだから他社からも引く手あまたである。成長意欲が高いゆえ、よりよい会社、より面白そうな仕事、よりよい待遇を求めて他社に移る。残るのは、このような仕組みがあるにもかかわらず伸びなかった社員だけ……。というのは極端な図式だが、このように熱心に新人を育成すると、育った人材が辞めてしまい、力を入れなければ、そもそも人材が集まらないというのが“新人のジレンマ”である。

 さて、企業としては嘆いていても始まらないので、対応をどうするかだ。

 1つは、「自社の魅力度を高める」という王道の方策である。
 このまま居続けたほうがよいと若手社員が思うような会社になる。待遇の良さ、仕事の裁量、仕事のやりがい、人間関係の良さ、経営者や上司の魅力等々、言葉を変えると会社へのエンゲージメントを高めることに他ならない。地道な方策ではあるが、若手だけでなく既存社員にも大きな影響を及ぼすので、ぜひ検討したいテーマである。

 次に、一種の開き直りだが”早期退職OK”とする方策。
 「他社に欲しがられるくらいの人材に育ってくださいね」と社内外に宣言し、実際に退職するときには「わが社のすばらしさをPRしてもらう」くらいの気持ちで送り出す。リクルートや野村総研など、人材輩出企業として知られているが、それを目指すのだ。「磨いたスキルを他社で役立て、社会に貢献してこい」と太っ腹になることだ。このようにして気持ちよく送り出した社員の中には、他社で武者修行をし、さらに能力を高めてから、自社への復帰を望む人もいるだろう。もちろん、そういう人はウェルカムである。
 
 もう1つ、「新卒の育成よりも中途採用に注力する」という選択もある。
 人材を奪われる企業から奪う企業に転換する方策である。金太郎飴ではなく多様な人材をそろえるという意味でこれからの時代にマッチしているが、企業として目指す方向や理念が明確でないとバラバラになりかねない。経営者のリーダーシップが求められる。個々人の専門性が重視される業種で、規模的にも数十人以下でないと難しいだろう。

 この方策にしても、会社に魅力がなければ、好待遇で迎えた社員もすぐに流出してしまう。自社の魅力を高めることが、まずは一番大切といえるだろう。    
 

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