2019/12/30

複業社員の他社での労災

 厚生労働省の労政審・労災保険部会で、複業者が被災した場合の給付額を見直す旨の報告がなされた。現在は、災害が発生した会社の賃金分だけで給付額が算定されるが、「非災害発生事業場の賃金額も合算した上で給付額を決定する」のが適当とした。

 「本業」での被災であればそれなりの補償を受けられるが、「副業」での被災だと少額の補償しか受けられないという複業のリスクを軽減するもので、政府による“複業のススメ”に沿った取扱いである。
 
 気になるのは、こうした場合にメリット制により、非災害発生会社の保険料も高くなってしまうのでは? ということだが、「メリット収支率の算定の基礎とはしない」としている。

 さて、これはこれでよいのだが、非災害発生会社では他にも様々な問題が発生する。特に被災者が休業を余儀なくされた場合である。

 まず、他社の労災に基づく休業をどのように取り扱うかである。自社においても労災休業とするのか、それとも、私傷病等による休業扱いとするのか。

 また、年次有給休暇の出勤率算定にあたって、通常の労災のように「出勤したものとして取扱う日数」となるのか。

 その他、賞与の算定、退職金の勤続年数、昇給や昇格の実施などにも影響を与える。労災による休業であれば、社員の不利益となる取り扱いはしないのが普通だが、他社の労災に基づく休業となれば、どのように取り扱うべきか。

 さらに、労災休業期間とその後30日間は解雇できないが、このケースは解雇可能なのかどうか。部会報告書では、「非災害発生事業場の事業主は、現行どおり労働基準法に基づく災害補償責任を負わないものである」とするが、解雇については触れていない。

 常識的に考えれば、私傷病の場合と同様の取扱いとするのが筋ではないかと思うが、厄介なのは、非災害発生会社であっても労災に間接的に関与している場合があることだ。たとえば、過労によって注意散漫となり事故を起こした場合、非災害発生会社に全く責任はないといえないケースも出てくるだろう。

 これらについて今のところ厚労省から通達等は出ていないようだが、今後、示されるかもしれない。とりあえず現段階では、複業をしようとする社員に対して、「他社での労災休業は私傷病休業扱いとする」等の事前説明をしっかり行うことが重要と考えられる。   
 

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