2018/11/26

パワハラ防止法制定へ

 
 厚生労働省が今月19日に行われた労政審「雇用環境・均等分科会」で、パワーハラスメント防止のための措置を法律で義務づける方針を示した。
 セクハラに関しては、20年以上も前(1997年)に男女雇用機会均等法で定義や事業主の防止措置が定めらたが、パワハラに関してようやくその目途が立ったことになる。

 法制化の背景には、都道府県労働局における職場の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が増えていることや、パワハラによる精神障害の労災認定件数が増加していることがあり、分科会の資料では、「職場のパワーハラスメント防止は喫緊の課題であり、現在、法的規制がない中で対策を抜本的に強化することが社会的に求められている」と指摘している。

 その上で、企業現場での確実な予防・解決に向け、現場の労使が対応しやすくなるように、職場のパワハラの定義や考え方、企業が講ずべき措置の具体的内容を明確化していくことが必要として、以下の「取りまとめに向けた方向性」を示した。

(1)パワーハラスメントの定義
 まず、定義については、
①優越的な関係に基づく
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
 の3要素を満たすことを提案している。なお、顧客や取引先等からの著しい迷惑行為については、「職場のパワハラに類するものとして、指針等で対応のために望ましい措置を周知・啓発する」こととし、今回の法規制からは切り離すようだ。あくまで職場でのパワハラを対象にするという方針である。

(2) 職場のパワーハラスメントの防止対策
 防止対策として提案されたのは以下の4つである。
①事業主にパワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付ける。
②措置の義務付けにあたっては、均等法のセクハラ防止指針を参考に、パワハラの定義や事業主が講ずべき措置の具体的内容等を示す指針を策定する。
③均等法のセクハラ防止対策と同様に、パワハラに関する紛争解決のための調停制度や助言・指導等の履行確保のための措置について法律で規定する。
④中小企業はパワハラ防止に関するノウハウや専門知識が乏しいこと等を踏まえ、コンサルティングの実施、相談窓口の設置、セミナーの開催等の支援を積極的に行う。

 対策は、均等法のセクハラ防止規定を念頭に、同様の規定をイメージしていることがうかがえる。企業側からするとセクハラと同様に対応すればよく、いわば企業の「効率性」に配慮した内容と見られる(実際、以前の分科会で、「すでにパワハラ対策に取り組んでいる企業はセクハラ対策と同様の対応をしているため、セクハラ指針をベースに検討するのがよい」という意見があった)。

(3) 指針において示すべき事項
 指針においては、特に以下の事項を示すべきとしている。
①職場のパワーハラスメントの定義について
・3つの要素の具体的内容や考え方、具体例など
②事業主が講ずべき措置等の具体的内容について
・事業主の方針の明確化、パワハラ行為が確認された場合の処分内容についての就業規則等への規定、それらの周知・啓発等の実施
・相談等の必要な体制の整備
・事後の迅速、適切な対応
・相談者・行為者等のプライバシーの保護等の措置
③事業主が講ずることが望ましい取組
・パワハラ発生の要因を解消するための取組(コミュニケーションの円滑化、職場環境の改善等)
・顧客や取引先等からの著しい迷惑行為に関する取組

 このように、ガイドラインを核に、パワハラ防止のため企業が取るべき措置が具体的に示される見込みである。
 一方で、パワハラを明確な違法行為と位置付ける規定は設けられそうにない。資料でも、「法律でパワーハラスメントを禁止することについては、民法等他の法令との関係の整理や、違法となる行為の要件の明確化等の課題があることから、今回の見直しにおける状況の変化を踏まえつつ、その必要性も含めて中長期的に検討することが必要」と、一歩引いた形になっている。この点は、社員指導への影響を懸念する使用者側の主張が反映されたといえそうだ。

 あくまで方向性の段階に過ぎないが、大企業などではすでに取り組み済みのことも多く、実効性に疑問符がつくのは確かである。
 分科会ではこの方向性に基づいてさらに議論を進め、法整備に向けた建議を取りまとめることになる。「抜本的な強化」と言いつつも、当たり障りのない法律となる可能性もある。法律制定自体がまずは進展といえるが、少しでもパワハラが減少する方向に進むよう内容の充実に期待したいものだ。
 
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