
男女の賃金格差は、全体として縮小している。厚生労働省が3月24日に公表した2025年「賃金構造基本統計調査」の結果によると、一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の月額賃金は、男性が37万3,400円(前年比2.8%増)、女性が28万5,900円(同3.9%増)であった。男性を100とした場合の女性の値は76.6となり、比較可能な1976年以降で最も格差が縮小したという。
これは喜ばしい動きである。ただ、実際には男女の賃金格差には産業ごとにかなりの違いがある。同調査のデータで計算すると、格差が最も小さいのは「鉱業,採石業,砂利採取業」の87.5で、これに「サービス業(他に分類されないもの)」84.1、「電気・ガス・熱供給・水道業」84.0が続く。
一方で、格差が最も大きいのは「金融業、保険業」の61.3である。次いで「製造業」71.4、「卸売業,小売業」72.5となっている。「金融業、保険業」は、2番目に格差が大きい「卸売業,小売業」よりも10ポイント以上低く、格差の大きさが際立っている。
金融・保険業で格差が大きい理由として、まず考えられるのは昇進・昇格の差である。金融・保険業は大企業比率が高く、等級制度や役職体系が明確である。そのため、管理職になるかどうかによって所定内給与の差が開きやすい。過去からの総合職・一般職的な運用や、転勤や長時間拘束を前提とした基幹人材の選抜が残っている企業では、年齢が上がるほど男女差が広がりやすい。若年層では格差がそれほど大きくなくても、昇進差が積み重なることで、中高年層になるほど大きな影響が表れると考えられる。
次に、女性社員が多いことも要因の一つである。金融・保険業では、窓口、事務、後方支援など、従来の一般職や地域限定職が担ってきた業務に多くの女性が配置されてきた。こうした職種は、相対的に給与水準が高くない。管理職や専門職に就く女性も増えてはいるだろうが、女性社員全体から見ればその割合はまだ大きくない。その結果、女性の平均給与額を押し下げる方向に働いている。
さらに、金融・保険業では男性の給与水準そのものが非常に高いことも見逃せない。最も高い45~49歳では715.8千円となっている。他産業の最高額は「電気・ガス・熱供給・水道業」の55~59歳で599.9千円であり、それと比べても金融・保険業の高さは際立っている。男性の給与水準が飛び抜けて高いことが、男女間の格差拡大に拍車をかけているのである。
このように見てくると、金融・保険業の賃金格差は、昇進・昇格の差、低賃金帯に女性社員が多いこと、そして男性の給与水準が高いこと、この三つの要因が重なって生じていると考えられる。
この特徴が典型的に表れているのが、金融・保険業の中でも「保険業」である。同調査で金融・保険業内の業種別格差を見ると、最大は「保険業」の54.6である。ちなみに「銀行業」は68.1であった。
保険業の特徴としてまず挙げられるのは、女性社員の比率が高いことである。同調査では、保険業における女性社員の割合は64%にのぼる。銀行業は47%であり、その差は小さくない。また、男性の給与も高く、平均で615千円、最も高い50~54歳では789.9千円に達している。保険業では、女性が幅広く就業している一方で、平均賃金の低い職種や等級帯に女性が厚く分布し、反対に高賃金帯には男性が偏っている。その結果として、男女間の格差が大きくなっているといえる。
さらに言えば、保険業は労働者数で金融・保険業全体の55%を占めている。保険業以外の業種の格差はおおむね70前後であることを踏まえると、「金融業、保険業」が61.3という低い数値になっているのは、保険業の影響が大きいためである。したがって、「金融・保険業で男女間格差が大きい」というよりも、「保険業で男女間格差が大きい」と表現するほうが、実態により近いといえよう。