2026/3/1

つながらない権利の現状と対応

 近年、「つながらない権利」という言葉を耳にする機会が増えている。勤務時間外のメールやチャットへの対応が常態化し、仕事と私生活の境界が曖昧になっていることへの問題意識が背景にある。

 マイナビが2月16日に公表した「つながらない権利をめぐる個人の本音と企業の実態調査」によると、20~50歳代の正社員の70.0%が「勤務時間外に業務連絡がくることがある」と回答している。また、勤務時間外の業務連絡を拒否したいと思うかについては、64.3%が「そう思う」と回答しており、否定的な立場が多数を占める。

 このような現状を踏まえると、「時間外の業務連絡は全面禁止」とするのも一法だが、顧客対応やシステム障害、突発的なトラブルなど、どうしても即時連絡が必要な場面は存在することから、実際には難しいだろう。

 それでは、現実的にどのようなルールが適切だろうか。重要なのは禁止か容認かという二択ではなく、「適切にコントロールする」という発想であろう。

 まず押さえておきたいのは、「原則」と「例外」を明確に分けることだ。勤務時間外の連絡は原則として行わない。ただし、業務上の合理的な必要性がある場合に限り例外を認める。この方針を明示しないまま運用を現場任せにすると、結局は従来どおりの時間外連絡が続いてしまう。報告する側としては、「とりあえず連絡しておく」ほうが無難だからだ。一方で全面禁止にしても、顧客対応や障害対応等で連絡が必要な場面が必ず出てくる。そうなると、私用のLINEなど非公式な連絡手段が横行し、かえって管理が難しくなるケースも想定される。

 次に重要なのは、「連絡」と「対応」を区別する視点である。勤務時間外にメッセージを送ることと、即時の対応を求めることは本来別問題である。「確認は明日で構いません」といった連絡であれば実務上の支障は小さいが、「至急対応してください」となれば実質的な業務指示となる。企業としては、時間外に即時対応を求める行為を原則禁止とするだけでも、社員の心理的負担は大きく軽減される。また、企業も労働時間リスクを減らせる。

 さらに、「緊急」の定義をあいまいにしないことも欠かせない。事故や重大な顧客対応など真に緊急なケースを具体的に示し、「上司が気になったから」という理由は該当しないと明示することで、運用のブレを防ぐことができる。あわせて、勤務時間外の応答の有無を人事評価と切り離すことも重要だ。返信や対応の速さが評価につながるという暗黙の了解が存在すれば、制度は形骸化してしまう。

 緊急性に関しては、上記マイナビの調査で興味深い結果が示されている。「上司への勤務時間外連絡」の60.9%は「緊急度が高いことが多い」としている一方で、「部下から受ける勤務時間外連絡」において「緊急度が高いことが多い」と回答した割合は29.9%に留まっている。上司と部下の間で 緊急性の認識にギャップがあるのだ。

 制度運用で特に鍵を握るのは、経営者も含めた管理職の行動である。上司からの時間外連絡は、その影響が大きいからだ。悪意はなくても、「早めに伝えておこう」という善意が部下にプレッシャーを与えることは珍しくない。そのため、夜間や休日の連絡は予約送信を活用する、「返信不要」を明記する、CCの多用を避けるといった行動ルールを管理職向けに明確化することが有効である。これについては、別の機会にあらためて整理したいと思う。         

 


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