2025/12/21

仕事の属人化を望む社員~その2

 前回、自ら望んで仕事の属人化をする社員が少なからず存在することを述べた。今回は、会社・管理者としてどう対応すべきかを整理してみる。

 属人化を望む社員には、いくつかの典型的な兆候がある。たとえば、業務手順を積極的に説明したがらない、資料化を先延ばしにする、情報共有を遅らせる、引き継ぎ資料が不完全である、自分流のやり方を周囲に押し通す、といった行動が挙げられる。また、「自分がやった方が早い」として業務を抱え込み、過度に忙しさをアピールするケースも多い。これらの行動は単独では問題と断定できないが、複数組み合わさったとき、属人化への強い志向を示すサインとして理解すべきである。

 管理者としての対応の第一歩は、属人化の動機を理解することである。本人が何を恐れ、何を守ろうとしているのかをしっかり把握することが不可欠である。不安の裏返しなのか、評価への期待なのか、仕事の抱え込み体質によるものなのかによって、アプローチは大きく異なる。対話を通じて、本人の背景を探ることが最も重要である。

 次に、属人化を個人の問題としてのみとらえるのではなく、「仕組みの問題」として扱う視点が必要となる。業務手順書の整備、業務棚卸しの定期化、複数担当制の導入などは、属人化の抑止に対して特に効果が高い。標準化や見える化を制度として組み込み、個人の善意や努力に依存しない仕組みを構築することが求められる。

 属人化の改善を進める際、本人へのフィードバックは未来志向であることが望ましい。批判や責任追及ではなく、「あなたの強みを部署全体に広げたい」「誰かが休んでも仕事が回る体制を一緒に作りたい」といったメッセージが効果的である。属人化を悪として扱うのではなく、本人の能力をより広く活かすための建設的対話が鍵となる。

 加えて、属人化を解消する過程では、業務過多の調整や負荷軽減も並行して行うことが重要である。仕事を抱え込む社員ほど、業務要求に押しつぶされる恐れがある。属人化の是正と、業務負荷の緩和をセットで実行することで、安心して業務を手放せる環境を整えることができる。

 会社としては、評価制度に情報共有や業務の協働推進を明確に評価項目として組み入れる必要がある。共有・協働しないことが評価上不利になる仕組みをつくれば、属人化のインセンティブは自然に低下する。逆に、標準化に取り組んだ社員を適切に評価することで、組織内での模範事例をつくることができる。

 属人化は単なる業務のブラックボックス化ではなく、社員個人の不安、評価構造、組織文化、仕組みの未整備といった複数の要素が絡み合って生まれる現象である。したがって、解消のためには個人への働きかけと制度的アプローチの双方が必要となる。管理者には、属人化を社員の問題行動として切り捨てるのではなく、その背後にある心理と構造を理解し、組織全体の再現性と持続性を高める視点で対応することが求められる。         

 


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