仕事の属人化は、業務の停滞や品質の低下、コンプライアンスリスクなどの弊害をもたらす。当の社員にとっても、長時間労働や休暇の取りにくさの原因となるため、会社としてその是正に取り組むことが課題となる。
しかし一方で、社員の中には自ら進んで属人化しようとする者が一定数存在する。この現象は、単なる怠慢や協調性の欠如によるものではなく、個人にとっての合理的なメリットや心理的報酬が背景にあると考えられる。そのため、問題の本質を理解せずに対応すると、摩擦や反発を生むだけでなく、改善の機会を逃す恐れがある。
本コラムでは、なぜ社員は仕事の属人化を望むのか、そして、会社はどう対応すればよいのかについて考えてみる。今回はまず、社員が属人化を望む理由、そのメリットを整理してみる。
仕事の属人化による第一のメリットは、自分の存在意義を高められるという点である。特定の業務を独占すれば、担当者不在時に仕事が止まり、周囲はその者を頼らざるを得なくなる。これは本人にとって存在意義の強化につながり、自己肯定感や職場内での発言力を高める要因となる。
第二に、属人化により権限や主導権を維持できる。重要な情報や手順が個人に集中することで、意思決定に対する影響力を持ちやすくなる。結果として、自分の仕事の進め方を周囲に干渉されにくく、自分のスタイル、ペースで業務を遂行できる。
第三のメリットは、評価に有利に働くことである。自分にしかできない仕事を持つことは、本人の専門性を示すシグナルとなり、昇格・昇給に結びつくと考える社員は少なくない。特に成果が見えにくい職種ほど、このような行動が助長されやすい。一般に、自分によくわからない仕事をしている部下に対しては、上司の評価は甘くなりがちである。
第四に、積み上げてきた専門性を手放したくないという心理もある。長年の経験で培ったノウハウを他者に開示することは、自己の価値の低下や役割縮小につながるという不安を生む。この不安が、仕事を抱え込む行動を後押しする。
さらに、属人化は新しい仕事を増やさずに済む防衛策としても機能する。標準化が進むと、担当者は別の業務や新しい役割を与えられる可能性が高まる。それを避けるため、業務を手放さないという行動が表面化するのである。
最後に、属人化はミスが表面化しにくいという本人にとってのメリットも持つ。手順や判断基準が共有されていないため、外部のチェックが入らず、失敗の責任を問われにくい。これにより、上記に挙げた存在意義の強化や主導権の維持、高評価といったメリットにもつながる。
このように、属人化は本人にとって多面的なメリットを有している。要は、ラクであり、かつ、一定の評価を受けられるのである。これらの魅力が根強い属人化を生み出していると言える。
とはいえ、本人にとってよくても、会社としては望ましいことではない。こういった属人化を望む社員に企業はどう対応すればよいか、次回、整理してみたい。