2025/7/6

静かな退職

 「静かな退職(quiet quitting)」という言葉をよく目にするようになった。静かな退職とは「会社を辞めることなく、与えられた仕事の最低限だけをこなし、それ以上の熱意や努力を職場に注がない」という働き方を指す。明らかな怠業というわけではないので就業規則に違反するものではないが、積極的な関与を避ける姿勢が問題視されている。

 人材サービスのエン・ジャパンが人事担当者を対象に実施した「静かな退職」についてのアンケート調査では、5社に1社が「静かな退職」状態の社員がいると回答しており、300名以上の企業では90%以上が「いる」もしくは「いる可能性がある」という。「最低限の仕事しかしない」と言うと、高齢の窓際族を想像させるが、年代別では、40代の48%が最多で、以下、50代47%、30代45%と続き、幅広い年代に存在することがわかる。

 この言葉が広まったのは、アメリカのSNSで2022年頃から拡散され始めたのがきっかけとされる。コロナ禍を経てリモートワークが普及し、働き方への価値観が変化する中で、「仕事中心の人生」から距離を置きたいと考える若年層を中心に共感を集めた。やがて日本国内でもメディアで取り上げられるようになり、企業内でも課題として認識され始めている。

 背景には、長時間労働や過度な業務負担、人間関係のストレス、人事制度への不信感などがある。また、努力しても報われないと感じる職場環境が、従業員のモチベーションを奪い、静かな退職を招いているとの指摘もある。

 7月4日の日経新聞に、日米中タイのビジネスパーソンの意識調査に関する記事があった。その中で、「仕事の意義・やりがい・働きがい」は、米国78%、中国68%、タイ87.2%に対して、日本は44%と極端に低いことが指摘されていた。また、「自律的なキャリア構築」も、他国に比べて30ポイント低いとのことだ。こうした“働きがいのなさ”や“成長実感の低さ”も、静かな退職の一端を表しているといえそうだ。

 企業側も対策を始めている。たとえば、エンゲージメントサーベイの導入によって従業員の本音を把握し、1on1ミーティングなどで上司との対話を深める動きが広がっている。また、キャリア形成支援や業務の意義づけを重視する取り組みも増えている。

 マネジャーが留意すべきは、単なる「やる気のない社員」として片づけないことだ。静かな退職は、職場に対する“静かなサイン”でもある。個人の事情や価値観の多様化を尊重しつつ、信頼関係を築き、仕事の目的や期待を丁寧に伝える姿勢が求められる。形式的な指示命令だけでなく、「なぜこの仕事が重要か」「全体の流れの中での位置づけは何か」を言葉で明確化するコミュニケーションこそが、静かな退職を防ぐ第一歩となるだろう。         

 


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