11月12日、厚生労働省の有識者会議「労働基準関係法制研究会」が、経済社会の構造変化に応じることを課題に労働基準法改正の「議論のたたき台」を提示した。
検討の柱は、労基法における「労働者」「事業」「労使コミュニケーションの在り方」「労働時間法制の具体的課題」の4つである。以下、それぞれ中身を概観してみたい。
「労働者」
労働基準法第9条の労働者の定義(「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」)は、一定の合理性があるとしている。
しかしながら、1985 年の労働者性の判断基準については、作成から約 40 年が経過し、働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない部分も生じているとし、個別の職種について、労働者性を判断するに当たって参考となるような指針等を必要に応じて示す必要があると指摘している。
また、現行法で適用除外となっている家事使用人は、実質的な労働形態が、家事代行サービス事業者に雇用されて働く労働者とほとんど変わらなくなってきたことなどから、適用する方向性を示している。
「事業」
現時点では、引き続き、事業場単位を原則として維持することが適切としている。ただし、具体的な法規制の内容に応じて、企業単位や複数事業場単位で適切な労使コミュニケーションが行われるときは、労使の合意により、手続を企業単位や複数事業場単位で行うことも選択肢になることを指摘している。
電話や郵便での通信が主流であった労基法制定時と比べて、通信手段が各段に進歩した現代では企業単位のほうが適切なケースが多いと思われる。企業単位で行える手続きを拡大してほしいものである。
「労使コミュニケーションの在り方」
労基法による規制をシンプルに保ちつつ、現場の実情に合わせた調整を有効に機能させることが必要とし、そのためには、労働者の意見を集約して使用者とコミュニケーションを図る主体として、労働組合の活性化とともに過半数代表の機能を強化し、労使が対等に協議して合意に至ることのできる環境を確保していくことが重要としている。
過半数代表の機能強化にあたって、まずは労基法において、過半数代表、過半数労働組合、過半数代表者の法律上の位置付け、役割、過半数代表者に対する使用者からの関与や支援を明確に規定する規定を設ける法改正を行うことが必要としている。
「労働時間法制の具体的課題」
ポイントは以下の通りである。
・テレワーク等の柔軟な働き方に対応するフレックスタイム制やみなし労働時間制の検討
・法定労働時間週44時間の特例措置の撤廃
・休憩の一斉付与原則を維持すべきかの検討
・定期的な休日確保のため、連続勤務は13日までとする規定の検討
・法定休日の特定
・勤務間インターバル制度の規制強化
・時季指定年次有給休暇の取扱いの改善
・副業の割増賃金の通算
「時季指定年次有給…」は、育児休業からの復帰者や退職する者などで、残りの期間が著しく少ない労働者の時季指定義務を改善しようとするものである。
また、「副業の…」は、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう、制度改正に取り組むべきとしている。副業の労働時間の通算は明らかに無理がある。もっとも連合は反対の姿勢を示しており、今後の行方が注目される。
「労働時間法制」のところで、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度に関する指摘がなかったのがやや意外である。会議メンバーが学者だけで構成されているからだろうか。経済界のメンバーがいれば、適用対象の拡大などが挙げられていた可能性はある。
主要な検討事項は以上である。抜本的に時代に即したもの(たとえばいまだに残る坑内労働の規制の見直しなど)にするのもアリと思うのだが、そこまでやると収集がつかなくなるということか。