1年ほど前の当欄で、市役所の職員のミスで発生した損害を職員全員の給与カットで弁済することの是非を述べた(「職員のミスを給与カットで補填」)が、今回、また似たような事案が発生した。今回は、ミスを職員個人に賠償させようとするものだ。
問題が起きたのは2023年5月で、川崎の市立小学校の教諭がプールの水を誤って6日間出しっ放しにしてしまったという。市は校長と教諭に過失があったとして、損害額190万円の半分、95万円の負担を2人に求めたとのことだ。
実はこの手の事案はしばしば発生している。
2015年には都立高校の教諭がプールの水栓を閉め忘れ、損害額の半分に当たる58万円を負担した。同年、千葉市の小学校の給水栓の閉め忘れでは、約438万円の損害が発生し、校長、教頭、ミスをした教諭の3人が全額を返済したという。
2018年、綾瀬市の小学校の水栓閉め忘れでは、教育長ら教育委員会事務局と学校関係の計7人に対し、水道料金の損失額の半分、約54万円を請求している。
さらに2021年、高知市の小学校プールで起きた水の流失では、教諭に66万円、校長と教頭にそれぞれ33万円と、こちらも損害額の半分となる計130万円を請求した。
同年、学校のプールではないが、貯水槽の水を大量流失させた兵庫県の男性職員が損害額の半分となる300万円を弁償している。
過去の例を見ると、賠償額は損害額の5割というのが相場のようである。今回の川崎市もこれらの事案を参考に半額負担を決めたという。ちなみに綾瀬市が半額にしたのは、マニュアルの不在や組織管理の不備を考慮したためだそうだ。
損害賠償請求の根拠は地方自治法第243条の2の2で、職員が「故意」または「重大な過失」により損害を与えた場合は、職員に賠償請求できる旨を定めている。同様の規定は、企業の就業規則でも一般的である。
「故意」の場合に請求できるのは当然として、過失で請求できるのは、「重大な過失」に限定している点がポイントだ。そもそも人というのはミスをするものであり、企業も自治体もそれを前提に雇用をしている。言い方を変えると、企業・自治体は社員・職員が稼いできたオカネから、経費を差し引いて給与を支払うわけだが、その経費には社員・職員のミスによる損失も含まれているという考え方である。「ただ、重大な過失によるものまでは含んでいないので、これは負担してもらいますよ」ということだ。
今回の教諭のミスは「重大な過失」と判断されたことになる。もっとも、年に1回あるかないかの不慣れな作業でのミスを重過失とされるのは気の毒という気がする。
一方で、上記に示したように、同様のケースは結構な頻度で起きており、教員ならば当然に認識しておく事故ともいえる。プールの水栓閉め忘れは、「わずかの注意をすれば容易に有害.な結果を予見し、回避することができたのに、漫然と見過ごした」という重過失の要件に当てはまるとも考えられる。
以前のコラムでも指摘をしたが、公務員が公務で損害賠償請求がなされた際に、賠償金や争訟費用を補償する公務員賠償責任保険というのがある。月250円くらいから加入できるようだが、今回、不幸にもミスをした職員がこの保険に加入していることを願う。