6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2023(骨太の方針)」では、“三位一体の労働市場改革”による構造的賃上げを提示している。
“三位一体の労働市場改革”とは、「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」の3つである。
このうち、「リ・スキリング」と「成長分野への労働移動」が賃上げに結び付くのは理解できる。能力が高い人には高い賃金を支払うだろうし、また、成長分野であれば高い賃金を支給できるからだ。ただ、もう1つの「職務給の導入」はピンと来ない。職務給を導入することがなぜ賃上に結び付くのだろうか?
確かにデジタル関連の職務など、一部の職務においては職務給導入により給与が上がるだろう。こういった職務に就く人材は若い人が多く、若年者はこれまでの職能給等の年功賃金制のもとでは一律に低く抑えられてきたからだ。実際、デジタル職種の初任給に30万円以上を出す企業もある。
だが、限られた原資のなか、一方が増えればどこかで削ることになる。そのしわ寄せは中高年にくるはずだ。職務が同じであれば、年齢にかかわらず給与も同じになるのが職務給である。そうすると、年功により昇給を重ねてきた中高年者の一部(といっても結構な割合になると思う)は、下がるのが道理である。
政府は年内に日本型職務給の事例集を示すとしているが、職務給に切り替えたとき、これまで年功により高騰している中高年の給与をどう扱うのか。「職務給になったので、年齢にかかわらず同額となります。あなたの場合は10万円低くなります…」というような事例を示すとは思えない。となると、若手は給与アップ、中高年は現状維持といった形に収めるのか。そのとき、これを職務給としてどう説明するのか。
また、配置転換の際の賃金も課題となる。職務の異動に伴って給与が減ることもありうるが、これを当然のこととして認めるのか。それとも、会社命令による異動を無くすようにするのか。
当初、事例は6月に示すとしていたはずだ。それが先延ばしになったのは、これらをうまく整理できていないからではないかと勘繰りたくなる。
ちなみに昨年6月に示された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、ごく簡単な事例が紹介されているが、このような課題をどうするかについてはまったく触れていない。職務給の肝ともいえる部分であり、一番知りたいところである。
欧米流の職務給ではない”日本型の職務給”をどのような形で提示するのか注目している。