2022/11/27

替え玉受験者を懲戒解雇できるか

 新卒採用の適性検査で替え玉受験があったことが世間を賑わせている。今回、逮捕された会社員は4年前から約300人、4,000件以上の受験代行を請け負っていたとされる。不正がこれだけであれば、就活生数十万人の中には、そのよう不届き者がいるだろうで済まされるかもしれない。問題は、これが氷山の一角の可能性が高いということだ。

 就職情報会社のディスコが昨年、大学生1200人に実施した調査によれば、ウェブテストの替え玉受検等の不正を「周囲がやっていた」と回答したのが30%にも上ったそうだ。他にも、「自分の試験で不正をした」8%、「友人らの試験を手伝った」9%(いずれも複数回答)となっており、ここまでの数値となると、少数の不届き者とはいえなくなる。この数年、替え玉受験等の不正をした学生が、かなりの確率で企業に紛れ込んでいると考えられる。

 そのような社員を企業が懲戒処分、たとえば懲戒解雇できるかを考えてみよう。
就業規則では、「重要な経歴を偽り採用されたとき、及び重大な虚偽の届出又は申告を行ったとき」には懲戒解雇または諭旨解雇に処すと定めることが多い。これに当てはめることができるかである。

 判断の参考となるのは、判例における経歴詐称で入社した社員の懲戒解雇である。
そのポイントは、以下の2点だ。
①解雇できるかの判断基準は、真実を告知していたなら採用しなかったと思われる重大な経歴詐称であったかどうか。
②詐称により、労働力の適正配置を誤らせるような場合は、懲戒解雇が有効となる。

 ②は、逆に言えば、学歴の詐称により、経営の秩序が乱されたとはいえないケースでは、懲戒解雇が無効とされる。たとえば、高卒なのに大卒と偽って入社したケースでも、仕事内容に大卒の専門性等は必要なく、実際に高卒者も大卒者と同様に業務に従事しているような場合である。

 ①②の観点から見ると、懲戒解雇を認めるのは無理がありそうだ。適性検査の替え玉受験では、数学や国語などの基礎的な学力を偽って入社したことになるわけだが、本来の学力とどの程度違いがあるかの判断は困難だからだ。また、そのような基礎的学力が、適正配置の重要な判断材料になるとも思えない。

 そのような不正を働いたという道義的な責任をもって、「重大な虚偽」があったと認定することも考えられるが、懲戒解雇に持っていくのはリスクが高いといえる。

 それでは、降格や減給、けん責など、解雇よりも軽い処分ならば可能だろうか。就業規則の定めに「採用試験で不正行為があり、それが発覚したとき」等があれば別だが、おそらく、一般にはそのような定めはないと思う。他の規定を当てはめようにも、入社前の行為には適用できない。

 ということで、懲戒処分は難しいというのが結論である。もっとも、不正をしたかどうかは、利用者として逮捕される以外は、自ら申し出ない限りはわからないと思う。仮に逮捕されたのであれば、就業規則の「刑罰法規の適用を受け、又は刑罰法規の適用を受けることが明らかとなり、会社の信用を害したとき」といった規定に当てはめて、何らかの処分を下せるはずである。       

 


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