10月の消費者物価上昇率が前年同月比で3.7%増となり、40年ぶりの伸びを示すなど、インフレが加速している。
この事態に対応するために、従業員の生活支援を目的とした特別の手当(インフレ手当)が一部の企業で導入されている。サイボウズ、ケンミン食品、ノジマなどがすでに報道されているが、このところNHKをはじめとするテレビでも取り上げられ、大きな注目を集めるようになったことで、今後さらに普及する可能性がある。
帝国データバンクが11月17日に発表した「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」結果によると、インフレ手当を「支給した」企業は6.6%、「支給を予定」は5.7%、「支給を検討中」は14.1%で、4社に1社がインフレ手当に取り組んでいるということだ。
インフレ手当の支給方法としては、「一時金」が 66.6%、「月額手当」が36.2%で、「一時金」の方が優勢である。その理由としては、「月額手当」にすると、止めるのが難しくなるからと考えられる。元に戻るだけなのだが、社員からすると何だか損をしたような気分になり、モラール低下が懸念されるためだ。金銭的報酬というのは、その辺の取り扱いが厄介である。
平均支給額は、一時金53,700円、月額手当6,500円である。一時金で15万円以上とする気前のよい会社も7.3%ある一方で、1万円未満も11.9%あり、その内容はさまざまだ。
アンケートでは、インフレ手当を支給しない企業の声がいくつか挙げられているが、「会社のコスト増を価格転嫁できていないため」というのが多くの企業の気持ちだろう。社員も大変だが、会社はもっと大変というわけである。
企業の中には、「特別手当としてではなく、4 月に実施する定例の賃金改定時に賃上げを予定」というようにベースアップで対応しようとするところもある。インフレへの対応としてはこれが本来の姿といえる。
もっとも、今般のインフレはコストプッシュ型なので持続性はないとの見解を、日銀の黒田総裁ほか複数のエコノミストが示している。せいぜい来年の半ばまでとする向きも多い。そのような一時的な現象にベアで対応するのは、恒常的な人件費負担となってリスクが高いという判断もできる。
また、インフレが年度半ばに急激に起きたことであり、4月の昇給時まで待てないという事情もあるだろう。
臨時的なインフレ手当の支給は、社員の生活の窮状を救うとともに、企業にとってもベアという恒常的な人件費負担増を回避できる、双方に利点のある仕組みといえそうである。