2021/7/25

最低賃金は高ければよいか

最低賃金
 
 7月16日、中央最低賃金審議会は2021年度の地域別最低賃金額の目安を、全都道府県A~Dランク全てにおいて28円引上げることを答申した。28円の引き上げは、1978年度に目安制度が始まって以来の最高額で、引上げ率に換算すると3.1%、全国平均で930円となる。政府が目指す平均1000円には、後3~4年で到達しそうである。

 ちなみにA~Dランクとは、都道府県の経済実態に応じて全都道府県をABCDの4ランクに分けるものだ。ランクを分け、ランクごとの引上げ額を提示することで、引上げ率を全国同じにできるが、今年は逆に引上げ額を一律にしたので、Aランク都府県よりもDランク県の方が引上げ率は高くなる。Dランクは元の賃金額が低いため、同額を増額した場合、相対的に増加率は大きくなるからだ。
 
 さて、これからが本題なのだが、最低賃金はできるだけ上げる方がよいだろうか?
 
最低賃金
 
 単純に考えれば、人件費負担が増す企業にとってはNOで、収入が増える労働者にとってはYESとなるだろう。実際、上記の答申を受けて実施された東京都の審議会では、使用者側の委員は採決を棄権し、労働者側と公益代表の委員とで28円アップを可決したという。このように、引き上げは労働者に○、経営者に×というのが基本的な図式であるが、本当に労働者にとってウェルカムなのかどうかは一概に言えない。

 韓国の事例を見てみよう。韓国では、文大統領が6470ウォンだった最低賃金を1万ウォンにすることを公約に掲げた。格差是正や所得増大による消費押し上げを企図したものであったが、2017年の就任から2年間で27%上昇したものの急激な雇用悪化を招き、2019年に公約を取り下げたという。

 韓国は自営業者が多く、全就業者に占める割合は25%にのぼる。零細事業者だけに生産性向上もままならず、廃業や雇用削減により失業者が増大したのである。さらには、自営業者の廃業により、低賃金者の働く場が減少する弊害も出た。格差是正どころか格差拡大になってしまったのだ。日本の自営業者の割合は10%と韓国ほど高くはないが、中小企業比率は99.7%で同様の影響が出ることは想像できる。

 また、最低賃金が11%増加したにもかかわらず、2019年の平均所得は2%しか伸びなかったという。期待するほどの所得増大効果は得られなかったのだ。

 理由として考えられるのは、最低賃金を引き上げても、それに応じて雇用者全体の賃金が上がるわけではなく、最低賃金以下だった人だけが上がるという図式だ。日本に置き換えれば、最低賃金が980円から1000円に引き上げられたとして、現在980円の人や新たに採用される人は1000円になるが、現在1000円の人は1000円のままということだ。つまり、今後、最低賃金を引き上げていっても、最低賃金に貼りついた労働者が増えるだけで、労働者全体の所得増大は見込めないのである。

 最低賃金の引き上げは、財政支出を伴わない経済・格差是正対策として各国政府に人気があるそうだ。先進国をはじめ、多くの国で実施されているのは一定の効果が認められるからだろう。とはいえ、やみくもに上げるのは、企業側はもちろん、労働者にとってもリスクがある。最低賃金は高ければよいとは一概に言えないことを認識しておきたい。        
 

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