2018/9/10

パワハラ行為の判断基準

 
 世間では、スポーツ界のパワーハラスメントがマスコミを賑わせ、不祥事が発覚した企業で、不正実行のために上司のパワハラが常態化していたことが明らかとなる。
 厚生労働省の総合労働相談では、「いじめ・嫌がらせ」が6年連続トップとなるほか、精神障害による労災補償でも「嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が2年連続トップとなる ‥‥。

 このようにパワハラと言う言葉を毎日のように見聞きし、職場の問題と言えば、まずはパワハラが思い浮かぶ。

 ところで、パワハラの話題になると必ず出てくるのが、パワハラなのか業務上の指導なのか、その線引きをどう行うかの判断基準である。マネジャーの立場に立つと、パワハラを恐れて必要な指導ができず、ユルイ職場となり、結果的に業績も上がらないという状況に陥りがちである。これは現代のマネジャーが多かれ少なかれ抱えている悩みといえる。

 では、“パワハラとなる行為、ならない行為”をどう見極めるか、その判断基準の1つが本年3月に厚労省から出された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書にあるので内容を整理してみよう。

 報告書では、パワハラの要素として以下の3つを挙げている(「3.職場のパワーハラスメントの概念」)。

①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
・職務上の地位が上位の者による行為
・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
②業務の適正な範囲を超えて行われること
・業務上明らかに必要性のない行為
・業務の目的を大きく逸脱した行為
・業務を遂行するための手段として不適当な行為
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
・暴力により傷害を負わせる行為
・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為

 これとは別に、具体的な行為類型として次の6つも示している。

①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 報告書では、パワハラ行為に該当するかどうかは、3つの「要素」と6つの「類型」を組み合わせ、以下のように考える必要があることを指摘している。

・①~⑥の類型に該当するものであって、①~③のいずれの要素も満たすものがパワハラ行為となる。
・①~⑥の類型に該当しても、①~③のいずれかの要素が欠けていればパワハラ行為とはならない。

 このような考え方に照らし、たとえば暴行・傷害(身体的な攻撃)について、

<①から③までの要素を満たすと考えられる例>
・上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
<①から③までの要素を満たさないと考えられる例>
・業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩(①、②に該当しない)

 といった例を類型ごとに示しているので参考となるだろう。

 以上のように、「類型」と「要素」の観点からチェックすることで、パワハラ行為か否かの判断はある程度可能となるはずだ。なお、報告書でも指摘していることだが、
・6つの類型は職場のパワハラ行為をすべて網羅しているものではないこと
・パワハラ行為に該当しなくても、問題行為への対応は当然に必要なこと
 の2点には留意していただきたい。

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