2018/3/12

サバティカル休暇のメリット

 
 3月7日の日経新聞に、求人サイトを運営するアトラエという会社が、3年勤務するごとに1ヶ月の長期有給休暇を付与するとの記事があった。年次有給休暇とは別の制度で、取得目的は問わないという。

 このような長期勤務者に1ヶ月以上もの長期休暇を与える制度は「サバティカル休暇」と呼ばれるもので、欧米企業で導入が増えているという。日本では、一般に長期休暇といえば、永年勤続の褒賞として付与される場合が多く、たとえば勤続20年で5日間といったものだ。アトラエ社の制度は勤続要件、期間ともに桁外れである。

 制度の狙いはリフレッシュによる労働生産性や定着率の向上とのことだ。確かに、3年ごとに1ヶ月の休暇が取れるのは、就労の大きなインセンティブとなるに違いない。定着率は確実に高まるだろう。

 サバティカル休暇のメリットは社員のリフレッシュだけではない。1つは、業務の標準化と改善である。

 自分が休みを取る間、担当業務を他の人にやってもらうためには、属人化していた部分を標準化したりマニュアル化したりする必要が出てくる。あらためて業務のプロセスや方法を確認する機会となり、ムダな作業、効果・効率の低い作業の廃止・削減が期待できる。さらに他者の視点から、自分では気づかなかった問題が見つかり、業務改善につながる可能性もある。

 次に、メンバーのスキルアップだ。 1ヶ月もの間、休暇取得者のフォローをしなければならないので、その業務を本格的に担当することになり、否が応でも仕事の幅を広げられる。これは仕事のやりがい、引いては定着率の向上につながる。取得者だけでなく、他者の定着にも好影響を与えるということだ。 また、多能工が増えるため、多忙なときの支援ができ、労働時間の平準化にも寄与するだろう。

 3つ目は、助け合いの風土を醸成できることである。 休暇取得により他者に負担をかけることになるのは事実だが、それはお互い様であり、困ったときは互いに助け合うとの風土ができる。実はこれが一番大きなメリットかもしれない。

 アトラエ社では、社員だけでなく役員にも付与するとのこと。このとき重要なのは、上記のメリットを発揮するために社員全員が取得することだと思う。同社がどのような運用の仕方をするのかは不明だが、役員が率先してとるなどして、全員取得を目指してほしいものである。特に3つ目のメリットは、全員が実施してこそ得られるものだ。

 アトラエ社がこのようなメリットまで考えて制度設計をしたかはわからないが、効果は着実に現われるはずだ。もちろん、業務の部分的な停滞や取得者の“休みボケ”などのデメリットも出てくるだろう。その点は、今後の運用課題とすればよいことだ。

 こういった制度の導入は大企業では難しい。動きの軽快なベンチャー企業や中小企業ならではの特権ともいえる。これからの時代、優秀な人材の確保と囲い込みは、最重要の経営課題となりつつある。思い切った人事制度は、その有力な差別化要因となることを認識すべきである。


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