2025/11/2

残業割増50%は効果があるか?

 高知県が職員の時間外労働の割増賃金率を、2026年度の1年間、25%から50%に引き上げる条例を定めた。このような引き上げ条例を定めるのは、自治体では初めてとのことだ。大企業などで割増35%とするところは知っているが、50%は民間でもほとんどないと思われる。


 条例によると、目的は「時間外勤務が特別な労働であることの認識をより高め、職員に対して更なる時間外勤務を縮減する意識を醸成し、時間外勤務を削減すること」である。

 残業を減らすために割増賃率を高めるというのはユニークな発想ではある。だが、実際、割増賃率を高めることで時間外勤務は減るのだろうか? 「効果がある」と「効果はあまりない」の2つの観点から、それぞれ考えてみよう。まずは「効果がある」の論拠を3つ挙げる。

 1つ目は、残業抑制へのインセンティブが働くことだ。割増率を上げると、県にとって残業のコストが上がるため、業務プロセスの見直しやデジタル化などを通じて生産性を向上させ、残業を減らそうとするはずだ。

 2つ目は、インパクトのある賃率引き上げによる職員の意識改革だ。今回の条例改正は、時間外勤務は例外的なものとするとのシグナルである。これを受け、職員はこれまで以上に残業を減らす方向に意識を変えることが期待される。

 3つ目は、残業をする職員への監視効果だ。今後、残業をする職員には、これまでにない冷たい視線が送られることが想定される。上司からは「コストパフォーマンスの低い人」、同僚からは「残業代かせぎのがめつい人」と見られるかもしれない。そう見られたくないため、できるだけ残業を控えるようになる。

 次に「効果はあまりない」の論拠である。

 1つ目は、サービス残業のリスクだ。「所定時間内で終わらせよ」という圧力が強く働くと、申告されない超過勤務や持ち帰り業務が増える懸念がある。特に自治体は予算が決まっており、その範囲内での人件費消化が要請される。数字上は残業が減っても実態は変わらない恐れがある。

 2つ目は、生活残業職員にとっては、残業時間の増加インセンティブとなることだ。生活費を補うために、残業代を目当てに意図的に残業する職員からすれば、今回の改正は願ってもないチャンスだ。これまでは1.5倍をもらうには月60時間超まで残業をしなければならなかったが、1時間目から1.5倍となる。以前よりもさらに残業をしたいと考える人は、一定数いるはずだ。

「効果がある」と「効果はあまりない」のどちらが優勢となるか。1年間の制度運用の結果を楽しみにしている。         

 


 過去記事は⇒ミニコラムもご参照ください。
 お問い合わせは⇒お問い合わせフォームをご利用ください。

にほんブログ村 経営ブログ 人事労務・総務へ

にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
 

PVアクセスランキング にほんブログ村
にほんブログ村に参加しています。