知る人は少ないと思うが、10月は厚生労働省が定める「年次有給休暇取得促進期間」である。取得促進に向けて広報を増やすなどの活動をしているが、このような取り組みをするのは、年休取得が思うように進まないことの裏返しでもある。
米旅行予約サイトのエクスペディアの調査によると、米英独仏など世界11カ国・地域の中で、2023年の日本の年休取得率は63%で世界最下位となっている。下から2番目のニュージーランドが86%なので、日本の取得率の低さは突出している。
勤労を尊ぶ国民性や強い同調圧力に加えて、近年の人手不足による多忙など、年休取得が少ない要因はさまざまあるが、雇用形態の違い、つまりジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いというのもその1つと考えられる。
どういうことか、ジョブ型雇用の特徴から説明してみよう。
ジョブ型雇用は、職務に基づいて雇用契約が結ばれるため、個々の職務や業務の範囲が明確に定められている。このため、求められるスキルや成果もはっきりしている。
職務の範囲や責任があらかじめ明確になっているため、仕事の進行具合や成果に応じて、自己の裁量で計画的に休日を取得しやすくなる。自分の職務が完了すれば、他の業務に巻き込まれにくく、休暇の計画が立てやすいのである。
また、ジョブ型雇用では成果が重視されるため、必要な成果を達成していれば、勤務時間や休暇取得に対して比較的柔軟なケースが多い。仕事のアウトプットさえしっかりできていれば、休暇取得がしやすい職場環境にあるといえる。
他方、メンバーシップ型雇用はどうか。メンバーシップ型雇用は、職務ではなく企業への「所属」が重視される雇用形態である。社員は広範な業務を行い、そのときどきの状況に合わせて柔軟な役割や職務が求められる。長期雇用を前提に、社内でキャリアアップをしていく雇用形態である。
役割が固定されず、多様な業務を求められるため、急な仕事の依頼やチームの状況に左右されやすく、休暇の予定が立てづらくなる。特に人手不足や緊急の業務が発生した場合、休暇の調整が難しくなる。
一方で、チームや組織全体の利益が重視されるため、自分の仕事が一段落しても、他のメンバーのサポートや協力を求められる。これにより、個人の都合で休暇を取得するのが難しくなる。
また、長期的な勤続を前提としているので、職場の秩序維持や社内の人間関係が重視される。休むことで、他者に負担をかけるのは、できるだけ避けたいという意識が働く。年功序列的な文化が残る企業では、若手社員が気軽に年休を申請しにくくなる。
このように、年休の取りやすさに関しては、ジョブ型雇用の方に軍配が上がると考えられる。とはいえ、年休取得促進のためにジョブ型雇用に転換するのは現実的でない。メンバーシップ型の中で、個々の職務や業務の範囲、期待される成果をできるだけ明確にすることが重要である。